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AIと地政学リスクが同時に押し上げる2026年型インフレ ― BlackRockが語るポートフォリオの調整法

2021年のパンデミック後に世界を揺るがしたインフレは、一時的に落ち着いたかに見えたが、2026年に入って再び市場の主要テーマとして浮上している。BlackRockのポッドキャスト「The Bid」では、国際チーフ投資責任者(ファンダメンタル株式)のヘレン・ジュエル氏と、グローバル・タクティカル・アセット・アロケーションチームのシニア・ポートフォリオマネージャー、トム・ベッカー氏が、今回のインフレを駆動する要因と投資家が取るべき対応について議論した。本記事では、その内容を整理し、ビジネスパーソン・投資家向けに解説する。


1. 需要と供給、両側から押し上げられるインフレ


ジュエル氏は、まず、インフレの基本に立ち返ることの重要性を強調する。

「インフレとは、結局はお金とモノに対する需要と供給の指標に過ぎない」

需要側では、AIへの投資が、エネルギー・原材料・インフラに対する巨大な需要を生み出している。米国のテック企業は、今年、AI関連投資に約$8,000億を投じる見通しだという。電力需要の増加幅についても、ジュエル氏は印象的な表現を使っている。

「AIや冷房需要による世界の電力需要の増加は、毎年『日本1ヶ国分』を追加しているのと同じだ」

1-1. 中東情勢が供給側を直撃

一方、供給側では、中東情勢の緊張が、原油だけでなく広範なコモディティ価格を押し上げている。ジュエル氏によれば、収録時点で約8,000万バレルの原油・石油製品がペルシャ湾に滞留しているという。この需給のねじれが、目標とされる2%へ向かっていたインフレ率を再び押し上げる結果になっている。

2. 2021年との違い ― 「財政も需要側に回った」


ベッカー氏は、2021年のパンデミック後との比較で今回のインフレの特徴を説明する。当時は、「再開」に伴う需要急増が主因だったが、現在は異なる力学が働いているという。

「今年は本当に、AI需要、強い消費者、そして、強い政府支出が同時に重なっている。米国政府の支出規模は歴史的な水準だ」

ベッカー氏は、この状況を「ガンズ・アンド・バター2.0」(軍事費と民生費の同時拡大の再来)と表現し、財政支出が再び需要側の主要因として戻ってきたことを指摘した。

2-1. インフレ期待が「アンカーされていない」リスク

2021年当時は世間の関心が低かったインフレも、現在は、消費者の会話に頻繁に登場するようになっている。ベッカー氏はこれを重要なリスクとして挙げる。

「インフレが人々の言論の中心、消費者や企業の意思決定の中心にあるということは、インフレ期待がしっかりアンカーされていないということを意味する」

3. インフレは地域ごとに異なる顔を見せる


ジュエル氏とベッカー氏は、インフレが基本的に「グローバルな現象」ではなく「ローカルな現象」である点を強調する。

中国は比較的閉鎖的な経済構造と不動産市場の低迷を背景に、長期間低インフレの状態が続いている。一方、欧州は、天然ガス供給問題の影響を強く受けたが、米国は、天然ガスの供給に余裕があったため、同じ衝撃をそれほど受けなかったという地域差がある。

「米国、日本、欧州、いずれも根強いインフレの問題を抱えているが、その背景はかなり個別事情に基づいている」

4. 企業・セクター別に見る「価格決定力」の有無


ジュエル氏は、ミクロの視点から企業を3つのグループに分類している。

4-1. コモディティ企業とプライシングパワーを持つ企業

エネルギーなど安定したコモディティを扱う企業は、コストをそのまま価格に反映できる。一方、高級品企業のようにかつて強いプライシングパワーを持っていた企業群は、パンデミック期にすでに大幅な価格上昇を行ったため、現在はその余地を使い切っている状況にあるという。

4-2. プライシングパワーを持たない企業

食品関連企業は、仕入れコストの上昇を価格に反映しづらい。ジュエル氏は英国の例として、スイカが30%、砂糖が約50%、コーヒーが約40%上昇していることを挙げ、これにエネルギー・人件費の上昇が重なる厳しい状況を指摘した。

さらに、消費者が感じるインフレと経済指標としてのインフレには大きなギャップがあるとも述べている。

「5年前、最初にこの話をしたときから、英国では約25%のコスト上昇が起きている。消費者は『以前は妥当だった』感覚を基準にしているため、それから外れると強く反応する」

4-3. 金利感応度で動く第三グループ

最後のグループは、金利動向の影響を強く受ける銀行や住宅建設会社だ。銀行は、金利上昇の恩恵を受けやすいが、住宅建設会社は、逆に金利上昇で打撃を受けやすい構造になっている。

5. ボトルネックにこそ投資機会がある


ベッカー氏は、AIが短期的にはインフレ要因、長期的には、生産性向上を通じたデフレ要因になり得るという二面性を指摘する。ただし、米国企業が、AI活用で先行する場合、それが米国経済全体に対してデフレ的に働く必要はないとの見方も示した。

5-1. 「需要が供給を上回る場所」を探す

ジュエル氏は、投資の視点をシンプルにまとめている。

「機会は基本的にすべて、AIに必要な製品やエネルギーが不足しているボトルネックの中にある」

具体的には、半導体・メモリの供給不足、電化に必要な銅、天然ガス、パイプラインなどの中流インフラ、風力発電や太陽光パネルといった完成品、さらに、ケーブルや変圧器・スイッチギアといった電力網を構成する部品メーカーまで、幅広い分野でこの構造が当てはまるという。

6. 債券と60/40ポートフォリオへの影響


ベッカー氏は、固定利付資産への影響について、より直接的な見方を示している。

「インフレが高くなれば、他の条件が同じなら、債券の購買力と価値は損なわれる。2021年以降、基本的にデュレーションをショート側で持つ戦略を取ってきた」

さらに、インフレが目標を上回って推移している局面では、株式と債券の相関が通常より高くなりやすく、伝統的な60/40ポートフォリオの分散効果が弱まるリスクがあると指摘する。

「インフレが本当にコントロールされ、1年程度2%近くにとどまる能力を示すまでは、分散効果の低い環境が続くだろう」

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