巨大モデルの時代は終わる?Cohere CEOが語る「合成データ×経験学習AI」がビジネスを変える
AI産業の主軸をつくった論文「Attention Is All You Need」の共著者にして、エンタープライズ特化型LLM企業 Cohere を率いるエイダン・ゴメス。
インタビュー全体を通して浮かび上がるのは、「AIモデル開発は転換点にあり、今後の勝者は“巨大モデル”ではなく“効率・メモリ・産業適用力”を軸に戦う」という確固たる視点だ。
本記事では、膨大な対話の中から、AIの技術進化、産業構造、Google vs OpenAIの行方、そして「次のブレイクスルー」がどこにあるのかをわかりやすくまとめる。
1. Transformer誕生の核心:突破口は「効率」と「スケーラビリティ」
ゴメスが19歳のインターンだった2017年、Transformerはわずか12〜16週間で完成した。
1-1. 「核心の洞察」は何だったのか?
ゴメスは明確に述べる。
「核心は“効率”。多GPUでスケールしやすい極めてシンプルな構造だった」
当時の多GPUは、“数十枚”規模。しかし、現在は数万〜数十万GPUまで拡大し、スケールできるモデルのみが残った。その条件を満たしたのがTransformerだ。
1-2. Googleは“革命の価値”を理解していなかった
「GoogleはTransformerの価値をわかっていなかった。もし理解していたら外に出していない」
同論文がオープンであったことが、世界の研究者を巻き込み「雪だるま式の進化」を加速させた。
2. モデルスケーリングの限界:GPT-5は、“巨大化しない”可能性
近年のAI研究では、「巨大化=最強」という信仰が揺らぎつつある。
2-1. スケーリングの“鈍化”はすでに起きている
ゴメスは現状をこう評する。
「最新の巨大モデルは投資額に見合う性能向上を生んでいない」
・OpenAIの「Orion」系モデルは巨大だが失敗
・GPT-5は前世代より小さい可能性
・“スケールするほど良くなる”論は限界に達しつつある
2-2. 今後の投資は「データ」「訓練方法」へシフト
単純な巨大化より、
データ質改善
合成データの活用
訓練効率化
新しい推論フレーム(推論最適化・再計画)
が支配的になる、と語る。
3. Synthetic Data革命:既に「大半の学習データ」が人工生成
ゴメスは合成データを強く支持する。
「かつて否定されたSynthetic Dataは今、すべてのラボで“主要データ源”になっている」
人間データだけでは限界であり、
モデルが自らのために自らデータを作り直すことが効率を極限まで高める。
これは「自己改善型AI」への重要なステップでもある。
4. 次のブレイクスルー:記憶と“経験学習”
ゴメスは「推論(Reasoning)」に続く次の波をこう断言する。
「次のGPT-6級の進化は“メモリ”だ。モデルは経験から学べるようになる」
4-1. なぜメモリが重要なのか?
現在のLLMは「New Chat」を押すと記憶がリセットされるため、
長期的な文脈
過去のタスク履歴
個人の好み
業務知識
を保持できない。
ゴメスの比喩はわかりやすい。
「AIは新入社員のまま。数ヶ月働いても“初日”の状態にリセットされる」
経験を積むAIは、企業の業務効率を劇的に引き上げる。
5. Google vs OpenAI:2025年、技術の主導権はどこに?
ゴメスの評価は予想以上にポジティブだ。
5-1. GoogleはAI競争に“復活”した
「Googleは技術でOpenAIに並んだ。Geminiは世界最高レベルのモデルになっている」
DeepMindのデミス・ハサビスの統合 leadership
巨大なデータ資源
「お金を生む機械」と呼ぶほどの資金力
研究者密度の高さはBell Labs級
技術面では完全に並んだ。ただし、
5-2. Googleの弱点は“プロダクト”
「最大の課題は“製品として競争できるか”。Geminiの市場シェアはまだ小さい」
Googleは“消費者向け企業”であり、ここで負けると収益基盤が崩れる。
6. Cohereの戦略:巨大モデル競争を降り、企業の“実働AI”に集中
Cohereは「2GPUで最大性能」という制約を自らに課している。
6-1. 企業が“巨大モデル”を買わない理由
コストが高すぎる
インフラが対応できない
セキュリティ要件が厳しい(特に金融・政府)
6-2. Cohereの強み
On-premise対応(空軍、金融機関でも運用可能)
グローバル展開(サウジ、欧州、北米、韓国など)
“企業で使えるLLM”に特化
ゴメスは語る。
「企業は今、PoCから“大規模全社展開”に移っている」
そしてAI導入は「白襟労働(ホワイトカラー)需要の逼迫」を解消する鍵になるとも述べる。
7. AIがもたらす社会変動:労働市場・国際政治・経済成長
7-1. 特に影響を受けるのは“ホワイトカラー”
AIは最初にコーディング・法律・金融など
高度専門職から浸透すると強調。
7-2. AIは経済停滞と社会不安を防ぐ“成長エンジン”になる
ゴメスの視座はテクノロジーを超えて政治経済に及ぶ。
「経済が成長しない社会では、人々は“ゼロサム”の争いに向かう。AIは成長を再起動する」
結論:AI開発は“第二フェーズ”へ——勝敗を分けるのは「スケール」ではなく「経験学習」
ゴメスの発言を総合すると、AI開発は明確に新しい段階へ移った。
■ 第一フェーズ(2017〜2024):巨大化の時代
Transformerの誕生
巨大モデルで性能が伸び続けた
GPT-3/4で「チャットAI革命」発生
■ 第二フェーズ(2025〜):効率・記憶・産業適応の時代
スケールは限界へ
Synthetic Dataが主流
モデルは“経験を蓄積“する
AIが経済の中で本格運用される
AIの未来を見据える上で、ゴメスの視点は極めて示唆に富む。
企業も国家も、これからは「最大のモデル」を持つ者ではなく、最も効率的で、現場で使われるAIを構築できた者が勝ち残るだろう。
