Nvidiaは85%増収でも「バブルかもしれない」——スティーブ・アイズマンとゲイリー・マーカスが語るAI投資の勝ち組・負け組と本当のリスク
サブプライム危機を事前に予見したことで知られる投資家スティーブ・アイズマンと、AI研究者でNYU名誉教授のゲイリー・マーカス氏が対談し、AIブームの現状と構造的なリスクを論じた。
Nvidiaが85%の増収を記録し、各ハイパースケーラーが数千億ドル規模の設備投資を続ける中、二人は「何かが壊れるとしたら何か」という問いを真剣に検討した。この記事では、その対話から投資家・ビジネスマンが理解すべきポイントを整理する。
1. AIブームの受益者と被害者——現状の整理
1-1. 恩恵を受けたセクター
アイズマン氏は、AIブームが始まった転換点として、2023年5月25日のNvidiaの決算を挙げた。第2四半期の売上高予想が市場予想比50%増の110億ドルと発表されたことで株価が24%急騰し、AIブームが本格化した。
その後の恩恵を受けたセクターはおよそ以下のように整理できる。
Nvidiaを筆頭とするGPUメーカー、その先のハイパースケーラー(Meta・Google・Amazon・Microsoft・Oracle)、データセンター向けネットワーク機器のArista・Cisco・Amphenol、そしてCPUやメモリチップメーカー(Micronなど)だ。
データセンターの電力需要を背景に、GEベルノバ(ガスタービン)、クワンタ(電力インフラ)、ブルームエナジー、そして、原子力関連株も大きく上昇した。チップセクターはS&P 500の16〜17%を占めるまでに拡大した。
1-2. 打撃を受けたセクター——「SaaSアポカリプス」
一方で、ソフトウェア(SaaS)企業は厳しい環境にある。アイズマン氏はこれを「ソフトウェアの黙示録」と表現した。
AIによってソフトウェア開発コストが劇的に低下し、既存SaaS企業の競争優位(モート)が揺らいでいる。ServiceNowなどは高値から50%以上下落しており、2018〜2023年にかけてプライベートエクイティが大量に買収したソフトウェア企業の資産価値も半減している。この負債の再調達問題は今後数年で表面化する可能性があるとアイズマン氏は指摘する。
2. LLMの限界——ゲイリー・マーカス氏の25年来の警告
2-1. スケーリングの限界
マーカス氏は、25年にわたってニューラルネットワークの限界を指摘してきた研究者だ。彼が繰り返してきた主張は、「もう少しデータを増やせば解決する」という業界の言葉が繰り返されながら、根本的な問題は解決されていないというものだ。
その証左として、2024年12月頃から複数の大企業が、「大規模モデルへの投資に対するリターンが期待通りではない」と内部的に認識し始めたと指摘する。GPT-5が遅延し、かつ期待外れだった点もその延長線上にある。
2-2. LLMが幻覚(ハルシネーション)を起こす理由
マーカス氏は、幻覚の根本原因を「LLMは次の単語を予測するシステムであり、推論をしているわけではない」と説明する。
「これらのシステムは深いレベルで理解をしているわけではない。巨大なテキストデータを元に次の言葉を予測しているにすぎない」
例として、あるLLMが、「イーロン・マスクが2018年に自動車事故で死亡した」と出力したケースを挙げた。実際には彼は毎日Xに投稿しているにもかかわらず、システムはその事実を照合しない。また、俳優ハリー・シアーがロサンゼルス生まれであるにもかかわらず「英国人のボイスオーバー俳優」と紹介するバイオグラフィーを生成した例も示した。
2-3. AIが得意なこと・苦手なこと
現時点でAIが実際に機能する領域はいくつかある。コーディング支援(特にClaude Codeは、「量子的な跳躍」とマーカス氏も評価)、専門外の分野でのブレインストーミング、教育的な概念説明、そして、形式的に検証可能な領域(数学・コーディング)がその代表例だ。
一方、精度が求められる場面では苦手だ。法律文書、伝記、ニュース記事の執筆などでは誤りが生じやすい。マーカス氏は、「ニューヨーク・タイムズ形式の死亡記事をハルシネーションなしで書けるようになることは、2027年時点でもまだ達成されていないと思う」と述べた。
3. 「食べ放題」から「トークン課金」へ——AIの収益モデルの転換
3-1. トークンコストとは何か
AIサービスの出力は、「トークン」(≒単語)単位で計算される。LLMがクラウドのGPUファームを使って答えを生成する際、トークンを生成するたびに大量の計算が行われ、そのコストは利用者側に転嫁される仕組みだ。
特にエージェント(AIが自律的にタスクを実行する形式)では、バックグラウンドで複数のLLMが何度も繰り返し動くため、コストは通常の質疑応答の数百〜数百万倍になることもある。
3-2. 「食べ放題」モデルの限界
これまでのAIサービスは月額数十〜数百ドルの定額制(いわば食べ放題)を提供してきたが、実際のコストはその水準を大きく上回ることが多い。
象徴的な事例として、マーカス氏はUberのケースを挙げた。「Uberは、年間のトークン予算を4カ月で使い切った」——エージェント活用が広がるにつれ、想定以上のコストが発生している実態が露わになってきた。
こうした状況を受け、マイクロソフトなどがトークン課金モデルへの移行を準備しているとされる。エンドユーザーが実際のコストを負担するようになれば、消費者の反応が業界の転換点になりうる。
4. 「バブルか否か」——アイズマン氏の視点
4-1. 1.6兆ドルの壁
マーカス氏が参照した試算によれば、AI業界全体が現在の投資を正当化するためには、年間1.6兆ドルの収益が必要になる。これはGoogleが2025年に記録した過去最高の売上高4,000億ドルの4倍に相当する。
AI最大の用途とされるソフトウェア開発の市場規模は全世界で約5,700億ドル程度とされるが、これを丸ごと代替しても1.6兆ドルには遠く及ばない。
4-2. 「サブプライムとの違いと共通点」
アイズマン氏は、Nvidiaの売上高が85%増という事実を踏まえ、「今すぐこれを空売りする論拠は作れない」と率直に認める。ただし、サブプライムが崩壊した構造と照らし合わせると懸念がある。サブプライムでは、「エンドユーザー(投資家)が証券の購入をやめたことで機械が止まった」。AIでは、「エンドユーザーがトークン課金に反発して使用をやめること」が同様の引き金になりうると述べた。
4-3. 「循環論法」という構造的リスク
アイズマン氏は、現在のAIエコシステムに「循環性(サーキュラリティ)」のリスクがあると指摘する。ハイパースケーラーの将来収益の少なくとも50%は、現時点で赤字であるOpenAIとAnthropicからの支払いに依存している可能性がある。この2社がベンチャーキャピタルから資金を引き続き調達できる間はエコシステムは成立するが、そこが崩れた瞬間に全体が連鎖する。
Anthropicが初の黒字化を予測しているとされるが、マーカス氏はその背景にElonのXAIからの大幅なコンピュート割引があることも指摘した。構造的な収益力として捉えるには慎重な判断が必要だ。

