Google Cloud新型AIチップからCursor買収劇まで——AI業界の勢力図を一気に把握する
2025年4月、Alphabet傘下のGoogle Cloud部門が新世代のTPU(Tensor Processing Unit)を発表し、同時に大型パートナーシップを複数締結した。同日にはSpaceXによるCursor買収権の取得、Anthropicのセキュリティ問題、Deutsche TelekomとT-Mobileの統合検討報道など、テクノロジー業界を揺るがすニュースが相次いだ。Bloomberg Techの報道をもとに、投資家・ビジネスマンが押さえるべきポイントを整理する。
1. Google Cloud新型TPU——訓練と推論を分けた2つのチップ
1-1. 新TPUの概要
Google Cloudが発表した最新世代のTPUは、訓練(トレーニング)用と推論(インファレンス)用の2種類で構成される。AIモデルの「作り方」と「使い方」それぞれに最適化されたチップを用意するというアプローチだ。Bloomberg Intelligenceのアナリスト、マンディープ・シン氏は、この戦略を、AmazonのカスタムAIチップ路線と類似した動きとして位置づけつつ、「Googleは、この分野で自社チップの設計と垂直統合において先行してきた」と指摘する。
1-2. なぜ自社チップが重要なのか
シン氏は、現在のAI業界における最大の課題は、「AIを展開するための計算容量の確保」だと説明する。Anthropicが最新モデルの提供を制限せざるを得なかった背景にも、計算資源の不足がある。この点でGoogleは、自社チップを保有し大規模展開できるという構造的優位性を持つ。
1-3. 「最安トークン提供者」としてのGoogle
シン氏が強調するのは、Googleが、「最も低コストのトークン提供者」であるという点だ。Googleが共有した直近のデータによると、月間トークン処理量は、約1,500兆トークン。これはOpenAIやAnthropicの推定値の3〜4倍に相当する。NVIDIAからチップを調達する必要がないため推論コストを抑えられることが、この規模を支えている。
シン氏は、この優位性はエージェント型AI(Agentic AI)の時代にさらに拡大すると見る。エージェント型AIでは、チャットボットやコパイロット型の短い推論とは異なり、長時間にわたる推論処理が必要になるため、トークンあたりのコストが競争力に直結するからだ。
2. 大型パートナーシップの連鎖——クラウドシェア拡大の兆候
2-1. Oracle、NVIDIA、CrowdStrikeなどとの提携
Google Cloudは、同日、複数のパートナーシップ拡大を発表した。主な内容は以下の通り:
Oracle:共同顧客向けに自然言語を使った新たなサービス利用方法を提供
NVIDIA:エージェント型AIとフィジカルAIの分野で協力
CrowdStrike、Thinking Machinesなど:セキュリティ・データ分析領域での連携
2-2. 金融業界も取り込む
報道では、ヘッジファンド大手Citadelが、Google Cloudの活用について言及しているほか、PE(プライベートエクイティ)大手のVista Equity Partnersが、ポートフォリオ企業全体でGoogle AIの導入を加速させる契約を締結したことも伝えられた。Vistaの場合、傘下企業群に計算資源へのアクセスを一括提供するという形態であり、Google Cloudにとっては大口かつ安定的な収益源となる。
2-3. クラウドシェアの変動
シン氏は、AI関連ワークロードにおいてGoogleのインフラクラウドのシェアは、従来のクラウド市場でのシェアを上回る水準に拡大すると予測する。Amazon、Microsoftに次ぐ第3位のポジションから、AI時代には順位を押し上げる可能性があるという見方だ。
注目すべきは、GoogleとAnthropicの関係性だ。AmazonはAnthropicに50億ドルの資金を提供して自社クラウドでの利用を促しているのに対し、Googleは、Anthropicに資金を提供していない。にもかかわらず、Anthropicの主要モデルの多くは、Google TPU上で訓練されているとの情報がある。シン氏は、「これはGoogleの交渉力の強さを示している」と指摘する。
3. SpaceX(xAI)がCursorの買収権を取得——AIコーディング競争が新局面へ
3-1. 600億ドルの買収権、100億ドルのブレイクアップフィー
同日の大きなニュースとして、イーロン・マスク率いるSpaceX(xAIを傘下に持つ)が、AIコーディングツールCursorの買収権を600億ドルで取得したことが報じられた。さらに、100億ドルがブレイクアップフィー(解約金)として設定されている。約1年前にCursorの評価額は100億ドルだったことを考えると、解約金だけで前回の企業価値全体に匹敵する規模だ。
3-2. コンピュート不足が駆動するM&A
Bloomberg記者のナターシャ氏によると、この取引の背景にあるのはコンピュート資源の確保だ。Cursor CEOもこの取引をエージェント型コーディングモデルにとっての勝利と位置づけており、計算資源へのアクセスが最大のボトルネックである現状を解消する動きと捉えている。
AIコーディング分野では、Windsurf(旧Codeium)の共同創業者がGoogleに移籍するなど人材流動も激しく、各社がコンピュートと人材の双方を確保するための戦略的M&Aに動いている。
4. Anthropicのセキュリティ問題——「Mythos」への不正アクセス
4-1. 事件の概要
Anthropicが、「危険なサイバー攻撃を可能にしうる」として広範なリリースを控えていた最新AIモデル「Mythos」に、少数の無許可ユーザーがアクセスしたことが判明した。Bloombergの取材によると、これは悪意あるハッカーではなく、新しいAIモデルをいち早く試したいコミュニティのメンバーだった。
4-2. アクセス方法と根本的な問題
アクセスの鍵となったのは、Anthropicのサードパーティ請負業者として働いていた人物が持つ認証情報だった。これに加え、過去のデータ漏洩で流出した情報や、Anthropicの旧モデルの格納場所に関する知識を組み合わせて、新モデルのオンラインアドレスを推測した。
Bloomberg記者のレイチェル・メッツ氏は、取材に応じた関係者がこう懸念していると伝える。「自分たちにとってこれほど簡単にアクセスできたなら、国家レベルのアクターがサードパーティの正規アクセスを利用して同じことをする可能性はないのか」。基本的なサイバーセキュリティの甘さが、最先端AIモデルの安全管理に疑問を投げかけている。
5. その他の注目ニュース
5-1. DeepSeek、200億ドル評価で資金調達を検討
中国のフロンティアAIラボDeepSeekが、200億ドルの評価額で資金調達ラウンドを検討しており、AliblabaとTencentが投資参加を検討しているとThe Informationが報じた。両社はいずれもDeepSeekの既存投資家ではなく、実現すれば中国AI業界の勢力図に変化をもたらす可能性がある。
5-2. Deutsche TelekomとT-Mobileの統合検討
Deutsche Telekomがt-Mobileとの統合を検討している。持ち株会社を設立し、両社を傘下に置く構造が想定されている。T-Mobileの時価総額がDeutsche Telekomを上回るという「逆転現象」の解消が一つの動機とされ、両社CEOの関係も密接だと報じられている。
5-3. Vast Data——評価額300億ドルに到達
AIインフラ企業Vast Dataが、10億ドルを調達し、企業評価額を300億ドルに3倍超引き上げた。CEOのレネン・ハラック氏は「正直に言えば資金は必要ない」としつつ、バランスシートの強化と顧客への安心感提供が目的だと述べた。CoreWeaveやCursorなどのAI企業にインフラを提供しており、中東やシンガポールでの需要拡大が目立つという。年内のIPOも視野に入れている。
5-4. KPMG調査——企業のAI投資は景気後退でも止まらない
KPMGのグローバル調査によると、ビジネスリーダーの約4分の3が、仮に景気後退が起きてもAIは最優先の投資対象であると回答した。平均的なAI支出額は前年から倍増しており、北米で2億700万ドル、アジア太平洋で2億4,700万ドルに達している。
注目すべきは、パイロット段階にとどまる企業の割合が61%から31%に減少し、本格導入フェーズへの移行が進んでいることだ。KPMGはこれを「グレート・スキル・リセット」と呼び、AIの最適活用に向けた人材育成への投資が加速していると分析する。
5-5. Rivian R2——竜巻被害を乗り越え生産開始
RivianのCEO、RJスカリンジ氏は、新型SUV「R2」の生産ラインからの出荷が始まったことを報告した。発売直前の金曜日に工場が竜巻の被害を受け、屋根が吹き飛ぶなどの損害が発生したが、72時間の突貫作業で復旧し、ランプアップ計画に変更はないとしている。R2の価格帯は45,000〜57,000ドルで、米国の新車平均価格(約50,000ドル)を意識した設定だ。年内に自社開発シリコンと高度なセンサーを搭載した上位モデルの投入も計画されており、自動運転技術のライセンス事業(58億ドル規模の既存契約あり)とともに、収益構造の多角化が進んでいる。

