Xiaomi CFOが語る「中国スピード経営」——スマホ・EV・ヒューマノイドを貫く成長戦略を読み解く
ノルウェー政府年金基金(通称:ノルウェー・ソブリン・ウェルス・ファンド)のCEO、ニコライ・タンゲン氏が自らホストを務めるポッドキャスト「In Good Company」に、Xiaomi(シャオミ)のCFOアラン・ラム(Alain Lam)氏が出演した。同ファンドは、Xiaomiの株式を1%超保有する大株主でもある。スマートフォンから始まり、IoT、EV、ヒューマノイドロボット、そして自社開発の大規模言語モデル(LLM)へと事業を拡張し続けるXiaomiの戦略とは何か。CFOの発言をもとに、その全体像を整理する。
1. Xiaomiの原点——「正直な価格で最高の製品を」
1-1. OSから始まった16年の歴史
Xiaomiは、2010年4月6日に設立された。最初の製品はスマートフォン本体ではなく、Android上で動作する独自のオペレーティングシステムだった。その後、自らハードウェアに参入し、2011年に初のスマートフォン「Xiaomi 1」を発売。価格は1,999人民元で、当時の中国市場に蔓延していた「低品質・高価格」の常識を覆し、大きな成功を収めた。
ラム氏は、Xiaomiの企業ミッションについてこう説明する。「素晴らしい製品を、正直な価格で提供し、革新的なテクノロジーを通じて世界中の人々がより良い生活を楽しめるようにすること」。長い文章ではあるが、ここにXiaomiの事業哲学のすべてが凝縮されている。
1-2. ローカルサプライチェーンの強み
創業当初は海外技術への依存度が高かったが、15年を経た現在、スマートフォンの部品の大部分は中国国内で調達可能になっている。ラム氏は、国内サプライヤーの最大の利点としてカスタマイズへの柔軟性を挙げる。海外メーカーの標準品と異なり、地元パートナーは個別ニーズに合わせた共同開発に応じてくれる。結果として、製品の市場投入速度だけでなく、ユーザーの要望にフィットした仕様を実現できるのだという。
2. IoTエコシステム——「リモコン」から「知的システム」へ
Xiaomiの製品戦略を語るうえで、IoT(モノのインターネット)エコシステムは不可欠だ。同社は、スマートロック、エアコン、洗濯機、冷蔵庫など、数多くのスマートデバイスを展開している。
ラム氏が強調するのは、これらが単なる「スマホで操作できる家電」にとどまらないという点だ。例えば、スマートロックを解錠すると、自動的にエアコンが起動する。デバイス同士が連携し、ユーザーの行動パターンを学習して最適な環境を提供する——これがXiaomiの目指す「Human × Car × Home」エコシステムの姿である。
現在、同社のIoT接続デバイスは世界で10億台以上、モバイルスマートフォンユーザーは8億人以上に達している。中国国内だけでも1億8,000万人が毎日Xiaomiのスマートフォンを使っている計算だ。
3. EV参入——「3年未満」で設計・工場建設・発売を完遂
3-1. 「10倍の投資」という哲学
2021年にEV(電気自動車)事業への参入を決定し、2024年に初号機を発売。設計から自社工場の建設まで含めて3年弱という驚異的なスピードだった。
ラム氏によれば、この速度を支えたのは3つの要素だ。第一に、Xiaomiは、参入前から中国のEVメーカー数社に投資しており、業界の知見を蓄積していた。第二に、EVを「もう一つのコンシューマーエレクトロニクス」と捉え、ソフトウェアとハードウェアの統合やサプライチェーン管理という自社の得意領域で勝負できると判断した。第三に、複数車種に分散させず、最初の1台に開発リソースを集中投下する「10倍投資」の方針を採った。初号機の開発には約3,000名のR&D人員を投入しており、これは同業他社の約10倍の規模にあたるという。
3-2. コア技術は自前主義
EV開発において、Xiaomiが自社開発にこだわる領域は明確だ。電動モーター、バッテリーパッキング、スマートドライビング(運転支援)——これらをコア技術と位置づけ、社内で独自技術を育てている。それ以外のコンポーネントはサプライヤーとの協業で調達する。この「選択と集中」が、短期間での製品化を可能にした構造的要因の一つだ。
なお、同社のEV「SU7」はニュルブルクリンクで最速ラップ記録を樹立しており、性能面でも注目を集めている。
3-3. 30分で5万台完売——ブランドロイヤリティの力
EV初号機の発売時、Xiaomiは、30分で5万台の受注を獲得した。驚くべきことに、初期購入者の20%以上は試乗どころか実車を見ることすらなく注文したという。ラム氏はこれを、スマートフォン事業で長年にわたり築いてきたブランドへの信頼の結果だと説明する。「Xiaomiが車を作るなら買う」——ユーザーからそう言われるほどの関係性が、新規事業の立ち上げを支えた。
4. スマートフォンと自動車——共通点と相違点
4-1. 最大の違い:自社工場の建設
スマートフォン事業では、2024年以前、Xiaomiは、生産をFoxconnやBYDなどに外部委託していた。しかし、EV事業では北京に自社工場を建設し、製造まで内製化した。これはXiaomiにとって初の大規模自社工場であり、同社のビジネスモデルにおける大きな転換点となった。
4-2. 共通するソフトウェア主導の設計思想
一方、共通点も多い。スマートフォンもEVも、ソフトウェアがハードウェアを駆動する構造に収斂しつつある。バッテリー管理、安全な自動運転制御、OTAアップデートといった領域は、スマートフォン開発で培ったソフトウェアエンジニアリングの延長線上にある。サプライヤーの重複も大きく、事業間のクロスコラボレーションが活発に行われているという。
5. 欧州OEMとの差——「電動化」だけでは足りない
5-1. 「スマートさ」の格差
ラム氏は、欧州の伝統的OEMについて、ブランド構築やドライブトレイン技術、運転体験の質については依然としてリスペクトしていると述べる。しかし2つの点で中国勢が先行していると指摘する。
第一に、車のスマート化。 欧州OEMもスマート機能の実装を進めているが、中国市場の最先端と比較すると遅れている。第二に、「Electric」だけでなく「Smart」への注力。 欧州勢はEV化に集中するあまり、スマートフォンやIoTデバイスとの連携という「スマートライフエコシステム」の構築が後回しになっているとラム氏は見ている。
5-2. フォードCEOの"告白"
象徴的なエピソードがある。フォードのCEOがXiaomiのSU7を半年間試乗した結果、「好きすぎて手放せなかった」 と公の場で発言したという。ラム氏は直接話したわけではないとしつつも、欧州・米国の業界リーダーが、中国EVの品質を認め始めている証左として紹介した。
5-3. EV市場の今後
中国では新車販売の50〜60%がすでに新エネルギー車(NEV)だが、グローバル市場のEV普及率はまだ低い。インフラ整備が進み、スマート機能の価値が認知されるにつれて、普及率は上昇するとラム氏は見ている。一部の欧米メーカーがEV投資を縮小する動きについては、長期的なトレンドは変わらないとの見解を示した。
6. ヒューマノイドロボット——まず自社工場から
6-1. 5〜6年の蓄積
Xiaomiは、2019〜2020年からロボティクスへの投資を開始しており、すでに5〜6年の研究開発の蓄積がある。ラム氏は、ハードウェアの進化とAI(ロボットの「脳」にあたるソフトウェア)の進化が同時に起きている今が変曲点(インフレクションポイント)だと述べる。
6-2. 消費者向けではなく製造現場向け
現時点でXiaomiは、ヒューマノイドロボットの消費者向け販売を計画していない。すべて自社の製造シナリオで使用されている。最近公開された動画では、2体のロボットが3時間連続で極めて低いエラー率で作業する様子が示された。
6-3. 最新モデルの技術的進化
最新モデルでは、手のサイズが人間とほぼ同等にまで小型化され、自由度(degrees of freedom)も大幅に向上した。また、長時間稼働時のオーバーヒート問題に対処するため、手部分への冷却システムが導入されている。スマートフォンと同様の熱管理技術の応用であり、Xiaomiのコンシューマーエレクトロニクスの知見が活かされている。
6-4. フィジカルAIの課題
ロボティクスの次なるボトルネックは、物理世界のデータ不足だとラム氏は指摘する。テキストや音声のデータは十分に蓄積されているが、物理的な動作データはまだ圧倒的に足りない。シミュレーションやコーナーケースの収集が必要であり、フィジカルAIの大規模言語モデル開発は「まだ長い道のり」だという。
7. AI戦略——自社LLMからギガプレスの素材開発まで
7-1. 全社横断的なAI活用
Xiaomiは、社内のあらゆる領域でAIを活用している。主な用途は以下のとおりだ:
コーディング支援:ソフトウェアエンジニアの日常業務にAIコーディングを導入
販売予測:AIが店舗ごとの日次売上を予測し、経験豊富な店長を必ずしも必要としない運営を検討
マーケティング素材生成:AIによる初稿作成で制作プロセスを効率化
製造品質管理:ギガプレスで製造した部品をX線撮影し、AIが欠陥を自動検出。人間による目視検査を代替
素材開発:EV後部フロアに使用するギガプレスの材料として、100以上の配合をAIでシミュレーションし、性能を予測。最終的に2〜4種類の配合を選定
7-2. 自社LLMのオープンソース公開
Xiaomiは、インタビューの約2週間前に自社開発の大規模言語モデルを公開した。Open Routerなどの公開スコアリングシステムで高い評価を獲得しており、価格面ではClaudeより安価に設定されているという(ただしラム氏は他社のコスト自体は非公開情報だと断りを入れている)。中国発の他のモデルよりは高い価格帯だが、品質と価格のバランスで差別化を図っている。
オープンソースとした理由について、ラム氏は3点を挙げる。①世界の優秀な開発者を巻き込んでモデルを共同改善する、②自社エコシステム全体のスマート化を加速させる、③優秀な人材の採用につなげる。
7-3. 5〜10年後のビジョン:フィジカルAIの世界
Xiaomiが見据えるのは、AIがスマートフォン、IoTデバイス、自動車すべてに統合されたフィジカルAIの世界だ。10億台超の接続デバイスと8億人超のユーザーを擁するエコシステムを基盤に、「物理世界における人々の生産性をAIで高める」ことが長期的な目標である。
8. 創業者レイ・ジュン(雷軍)のリーダーシップ
8-1. 「150台を自ら試乗するCEO」
Xiaomiの創業者でCEOの雷軍(レイ・ジュン)氏は、中国では「ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、イーロン・マスクを合わせたような存在」と評されることがある。EV事業に参入する際、雷軍氏は自らEV事業のCEOに就任し、150車種を自ら試乗して詳細なメモを取ったという。
経営陣全員にも自社EVの試乗を義務づけ、ラム氏自身も発売前に3,000kmを走行。さらにプロのレーシングライセンスの取得まで全管理職に求めた。「製品を理解し、製品を愛さなければ、その事業をやる資格はない」 という哲学の体現である。
8-2. 「ハードワーク」と「スマートワーク」の両立
雷軍氏の猛烈な働きぶりは中国で広く知られている。しかし、ラム氏は、単なるハードワークではなくスマートワークの重要性を強調する。スマートフォン、IoT、EV、AI、OS、100カ国以上での事業展開——日常業務に埋没すれば際限がない。そこで経営陣は「今四半期・今月・今年で達成すべき3つの最重要事項」にフォーカスし、インパクトの小さいタスクに時間を奪われないよう意識しているという。
9. 「中国スピード」の正体
ラム氏は「中国スピード」を支える要因として3つを挙げる:
成熟したサプライチェーンインフラ:スマートフォン、家電、EVの製造エコシステムが高度に発達しており、新規事業を素早く立ち上げられる
イノベーションと起業家精神の厚み:単なる模倣ではなく、独自の革新に取り組む文化が根づいている
労働時間の投入量:中国の労働者は長時間働く傾向があり、その投資は成果として返ってくる
10. 欧州戦略と今後の展望
10-1. スマートフォンで欧州3位
Xiaomiは、欧州のスマートフォン市場で、AppleとSamsungに次ぐ第3位の販売シェアを獲得している。コンシューマーエレクトロニクスにおける欧州でのプレゼンスはすでに確立されている。
10-2. 来年後半にEVを欧州へ
2027年後半にEVの欧州輸出を計画しているとラム氏は明かした。すでにミュンヘンにEV研究センターを設立し、75〜100名のエンジニアが開発に従事している。2025年3月のバルセロナでは「ビジョン グランツーリスモ」コンセプトカーを披露しており、欧州市場への本格参入に向けた布石が着々と進んでいる。
11. 若い世代へのメッセージ——「99%の問題にはすでに解がある」
ラム氏自身は、リサーチレポートやビジネス書だけでなく、企業の失敗事例に関する書籍を好んで読むという。「歴史は繰り返す」 という信念のもと、過去の成功と失敗の双方から学ぶ姿勢を持つ。
若い世代へのアドバイスとして、AIをはじめとする最新トレンドへのキャッチアップを強く勧める。技術の変化に取り残されれば、将来の雇用安定が脅かされるリスクがあるからだ。
そして、雷軍氏の言葉を引用してこう締めくくった。「99%の問題には、すでにどこかに解決策が存在する。それを見つければいい。そしてAIがあれば、十分な速さで見つけられるかもしれない」。

