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「LLMで同じことをすると10倍コストがかかる」——ServiceNow CEO Bill McDermottが語るAI時代の企業経営と競争優位

No Priorsポッドキャストに、ServiceNowのCEO Bill McDermott氏が登場した。「エンタープライズテクノロジーのロックスター」と呼ばれる同氏は、16歳でデリ経営を始めた原体験から、Xerox・SAP・ServiceNowを率いてきたキャリアに至るまでの一貫した哲学を語った。特に注目されるのは、「SaaSアポカリプス(SaaS終焉論)」への明確な反論と、AIと既存プラットフォームの役割分担という実践的な視点だ。


1. 16歳のデリ経営から始まった「顧客中心主義」


1-1. 5,500ドルの元手・500人の顧客・3つのセグメント

「私が特別なことをしたとは思っていない。複数のアルバイトを一つに集約したようなものだ」とMcDermott氏は語った。棚出し・ガソリンスタンド・バッシングという3つのアルバイトを、1つのデリ経営に統合したというのが実態だ。元手は、5,500ドルの約束手形で、利息込みで7,000ドル。「支払いを続ければ店を持てる。一度でも遅れれば全て失う」というシンプルな契約だったという。

同氏が最初に学んだのは、セグメント理解だ。「ブルーカラーの父親のような客は、金曜に豊かで日曜には底をつく。シニア層は外出せず配達を求めた。子供たちは、1ブロック半先の7-Elevenを素通りさせるのが課題だった」。解決策は、ビデオゲームの設置で、子供たちは、「美味しいものを食べ、敬意を持って扱われ、ゲームをするなら君の店に来る。盗みをするなら7-Elevenに行く」と言うようになったという。

「顧客を知り、彼らが望む形でそれを提供する。どんなビジネスにも通じるシンプルな方程式だ」というこの原体験は、その後のSAP・ServiceNowでの経営哲学の基盤となっている。

1-2. Xerox入社の逸話——「これは面接ではなく生存競争だ」

Xerox)への入社面接にて、最終面接後に「採用担当から連絡が入る」と言われたMcDermott氏は、「父に21年間一度も約束を破ったことがない。今夜、社員バッジを持って帰ると約束した」と答えた。当時のマネージャーは、ポリシーを破って即日採用を決め、25年後にその事実をスピーチで明かした。「あの人の決断なしに、今の私はない」という言葉の重みは、リーダーシップと機会の関係性を示している。

2. SaaSアポカリプス論への反論——「LLMで複製しようとすると10倍のコストがかかる」


2-1. 「LLMは考える・ワークフローは動く」という分業論

「エンタープライズプラットフォームをSaaSアポカリプスという文脈で置き換えようとするコストは膨大だ」とMcDermott氏は述べた。具体的な試算として「シンプルなアプリケーションをLLMで複製しようとすると、コストは10倍になる」という数字を挙げた。

その内訳として、プラットフォーム置き換えにかかる実装費用、人的資本のコスト(プラットフォームが担っていた作業を人間がやり直す分)、そして、GPUファクトリーとトークンコストという三つの要素を挙げた。

「言語モデルは、補償問題の対処について素晴らしいアドバイスを提供する——ステップ1・2・3を考慮してください。優秀だ。ただし、ケースを閉じることはしない」とMcDermott氏は述べた。実際にケースを解決するためには、HR・財務・法務・コンプライアンスなど複数部門にまたがるデータとワークフローが必要であり、それを処理するのがServiceNowのようなワークフロープラットフォームだという整理だ。

2-2. 「ソフトウェアのミスは許されない」という信頼の問題

「ビジネスを経営する人たちは、人間が間違えることは理解している。しかし、ソフトウェアが間違えることは決して許さない」という指摘は、AIの確率論的な性質と、エンタープライズが求める確定性・監査可能性とのギャップを鋭く突いている。

「LLMは、おそらく正しいが、決定論的ではない。数十年にわたって蓄積されてきた企業固有のデータとコンテキストを持っていない」という点が、既存プラットフォームのモートとなっているという論理だ。

3. ServiceNowの「AIコントロールタワー」戦略


3-1. LLM・ハイパースケーラー・システムオブレコードを束ねる「ファブリック」

「私たちはビジネス変革のAIコントロールタワーになろうとしている。すべてのハイパースケーラー・すべての言語モデル・すべてのシステムオブレコードと統合する」とMcDermott氏は述べた。現在ServiceNowには、約800のシステムオブレコードが統合されており、85億ワークフローが稼働中、7兆トランザクションがプラットフォーム上で処理されている。

このポジショニングは、かつて「ハイパースケーラーが、ソフトウェアを侵食する」という懸念があったが結局実現しなかった歴史と重なる。「当時も同じことが言われた。ハイパースケーラーは、すべてのワークロードを吸収すると。彼らは素晴らしい企業だが、それぞれが異なることを得意としている。ServiceNowは、彼らのバックでも何十億ものワークロードをクラウドに流している」という経験則が、LLM時代にも同じ論理が成立するという自信の根拠だ。

3-2. セキュリティへの拡張——「サイバー犯罪は世界第3位の経済圏」

ServiceNowが最近手がけたもう一つの戦略的動きは、セキュリティ分野への参入だ。Armisの買収により、OT(運用技術)を含めたセキュリティ管理の統合を進めている。「米国が世界最大の経済圏、中国が2位、サイバー犯罪が3位だ。月1兆ドルの問題だ」という規模感で、既存のセキュリティプラットフォームと統合しながら管理・可視化を提供するというアプローチを採る。

製造設備・医療機器・重要インフラを含む「物理的な世界とデジタルの世界」を一つのAIプラットフォームで管理できるという構想は、ServiceNowの横断的なポジションを活かしたものだ。さらに注目すべきは、「これらの統合を20日で完了した」という実行力で、同社のエンジニアリング能力の高さを示している。

4. AIエージェントが企業組織を変える——「今後は増員しなくても成長できる」


4-1. カスタマーサービスの90%がAIエージェントに

「今や私たちのカスタマーサービスケースの90%はエージェントが処理している。人間が関与するのは10%だ」とMcDermott氏は述べた。これは「業務の移行・変化」であり、人間は高度な判断と人間関係の構築に集中できるようになるという変化だ。

4-2. 「5年後は増員なしで成長する」という見通し

「ServiceNowのような成長企業では、以前は財務・HR・サポート機能の成長に合わせて何千人も採用する必要があった。今やエージェントがその多くを担える」という展望を示した。「今後の純増ヘッドカウントは劇的に減少する。しかし、会社の生産性は大幅に向上する」という見通しだ。

同時に「AIがやれること・やるべきことと、人間がやるべきことの棲み分けが重要だ。ロイヤルティの構築・信頼・約束とその履行・人間関係の長期的な価値——これらは人間の領域であり続ける」という整理も示された。

5. 「どのSaaSが危険で、どれが安全か」——脆弱性の条件


5-1. プラットフォームと点解決(ポイントソリューション)の違い

「理論的には、データとコンテキストがあるSaaS企業はより価値が高くなるはずだ。しかし、脆弱性があるとすれば、それは部門横断的でない単機能の企業だ」とMcDermott氏は述べた。

「複数部門にまたがり、複製が難しい重要なシステムオブレコードは安全だ。しかし、一つの機能だけを提供し、付加価値が低く、CEOの優先リストの上位にないなら、脆弱性の方程式が急速に高まる」という判断軸は、SaaS企業への投資評価に直接活用できる視点だ。

具体的に、「CrowdStrikeのようなプラットフォーム型は免疫を持ちやすい。一方で、単一機能のポイントソリューションはリスクが高い」という評価と一致する分析だ。

5-3. AI導入の現在地——「実験フェーズを脱した企業が増えている」

「ブラジルでは昨夜の会合でも、企業の11%しか実験フェーズを超えていない」という数字は、AI採用が地理・業種で大きく差があることを示す。金融サービスは最速で動いており、公共セクターは複雑性の統合段階、ヘルスケアは近代化フェーズにある。米国はAI消費・採用において世界をリードしているという。

おわりに


Bill McDermottが示した論理は投資家にとってシンプルだ。ServiceNowを含む「プラットフォーム型・横断的・高スイッチングコスト」のSaaS企業は、AIの台頭でむしろ強化される。逆に「単機能・部門限定・代替コスト低」のポイントソリューションはリスクが高まる。「LLMは考える、ワークフローは動く」という分業論は、AIとSaaSの共存という実践的な枠組みを示している。年収130億ドル・成長率20%という数字が、この論理の現実的な検証でもある。

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