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トランプ関税再燃でアジア市場はどう動く? 投資家が注目する新たな資産とは

米中通商摩擦や世界的な金利・インフレ動向など、国際情勢がめまぐるしく変化するなか、投資家たちはいまどこに目を向けているのでしょうか。アメリカ国内では、トランプ前大統領が打ち出した関税政策への警戒や、金融政策の先行き不透明感が引き続き意識されています。その一方で、中国やアジア各国は世界経済の「エンジン」として、引き続き魅力的な投資先になるとも期待されているのが現状です。

本稿では、香港で開催された「ミルケン・インスティテュート・グローバル・インベスター・シンポジウム」での主要発言やインタビューをもとに、現在のグローバル経済・投資動向を整理しつつ、クレジット市場におけるプライベートクレジットの台頭や、急速に進展するAIテクノロジーの見通し、さらにはスポーツ産業への投資まで幅広く取り上げます。アセットアロケーションの考え方から企業の動き、そして資産運用ビジネスの未来図まで多角的に解説し、投資家が注目すべきポイントを探っていきます。


1. 米中通商摩擦と世界経済への波及


1-1. トランプ関税の再来と市場の反応

アジアの株式市場が一時的に持ち直した背景として、「トランプ関税の影響が当初予想されていたよりは限定的になる可能性がある」という観測が浮上したことが挙げられます。米国政府関係者から「次の関税措置はよりターゲットを絞った内容になる」との示唆があったため、投資家心理が幾分やわらいだのです。しかし、中国やオーストラリアなどは「貿易戦争の深刻化が世界経済へ大きなショックをもたらす」と警戒を促しています。

オーストラリアのジム・チャルマーズ財務相は、「アメリカの政策変化は予想されるものの、世界的には非常に大きな衝撃となり得る。オーストラリアのように貿易依存度の高い国にとっても不安要素だ」と語りました。市場参加者のなかには、米国からの輸入制限が広範囲に及べば、世界全体でサプライチェーン再編が促され、そのコスト負担が企業収益を圧迫するという見方もあります。

1-2. 中国・李克強首相の発言

一方、中国の李克強首相は、北京で開催されたフォーラム(中国発展フォーラム)で「外部環境からの不測の衝撃に備える。必要に応じて中国政府は新たな追加施策を導入し、中国経済が安定的に運営されるよう全力を尽くす」と表明しました。アップルCEOのティム・クック氏ら世界的企業の首脳も参加する大規模な会合で、中国政府は改めて内需拡大や外資誘致を強調。世界的に米中摩擦が注目されるなか、中国としては自国経済の減速を最小限に抑え、投資家の不安を払拭する姿勢を示しています。

2. 債券市場と信用リスク: PIMCOの視点


2-1. クリスチャン・ストラック氏の分析

約2兆ドルの資産を運用する債券運用大手PIMCO(ピムコ)からは、グローバル・クレジット調査統括責任者を務めるクリスチャン・ストラック氏が登壇しました。ストラック氏は、トランプ関税や米国金融政策などの不確実性にもかかわらず、企業のファンダメンタルズ(基礎的収益力)は今のところ堅調だとの認識を示しています。

「一部にはドットコム・バブルのような崩壊を懸念する声があるが、1999年当時と現在では企業の収益力そのものがまったく異なる。たとえバリュエーション(株価評価)が割高感を伴っていても、企業の実体利益は比較的しっかりしており、信用リスクも大崩れするような水準にはない」とストラック氏は述べました。

2-2. 米国・欧州の金利動向とクレジットスプレッド

現在、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測や欧州中央銀行(ECB)の金融政策変化に伴い、債券利回りが急激に変動しています。ストラック氏は「以前は実質金利(インフレを控除した金利)が明らかにマイナス圏にあったが、いまや米英豪などでプラスになってきており、大きな再評価が進んでいる」と指摘します。

一方、企業の信用スプレッド(社債などの利回りが国債より何%高いか)は総じて圧縮傾向で、特に投資適格債の水準は歴史的に見ても比較的タイトです。ただし、需要が旺盛な背景としては「幅広い資金が高利回りを求めて債券に流入し続けていること」があり、大幅な信用収縮が起こるには「経済の大幅後退またはリセッションが必要だ」という見解を示しました。

3. テクノロジー・AI分野の新展開


3-1. 中国・アント・グループのAIチップ開発

中国のフィンテック大手、ジャック・マー氏が出資するアント・グループ(Ant Group)は、自社開発のAIモデル訓練において、中国製の半導体チップを活用しつつ、コストを2割も削減できる可能性を示唆しました。ハイバンド幅メモリ(HBM)を必要としない工夫を凝らした“Mixture of Experts”という学習手法により、NVIDIA製の高性能チップを使わなくても同等の処理を実現しているといいます。

ただし、精度や安定性の面で課題は残っており、わずかな変更で大きな誤差が生じるケースもあると報じられています。米中間のハイテク規制が強化されるなか、中国企業が国内チップによるAI発展を図る例が増えているのが注目されるポイントです。

3-2. S4キャピタル会長マーティン・ソレル氏の見方

世界的広告・マーケティング企業の元トップであるマーティン・ソレル氏(S4キャピタル会長)は、「中国のテック産業は政府の姿勢変化とAI発展の相乗効果で再び勢いが増している」と述べ、中国の大手プラットフォーム企業が再評価される可能性を指摘しました。

「中国政府はテック企業への規制を一時強化したものの、今は緩和ムードに転じている。AI技術が投資の呼び水となり、いずれビジネスモデル全体を変えるほどのインパクトがあるだろう」とソレル氏は語り、さらに大容量のクラウド投資やデータセンター整備に資本が集中することで、AI関連の成長が一段と加速するとの見通しを示しました。

4. プライベートクレジット市場への注目


4-1. 資産運用における「流動性リスク・プレミアム」の捉え方

プライベートクレジット市場は近年、高い利回りを追求する機関投資家が資金を投下し、急速に拡大しています。ピムコのストラック氏は「プライベートクレジットは、いわゆる“流動性リスク・プレミアム”を獲得する有力な手段」と指摘します。長期の資金拘束に対する上乗せ利回りが得られるため、年金基金や政府系ファンドのように運用期間の長い投資家がこぞって参入しているのです。

しかし、企業のレバレッジド・バイアウト(LBO)向け融資が飽和しつつある現状もあり、貸し手が増えすぎてスプレッドが圧縮気味になっているという見方もあります。特に米国の地域銀行が貸し出しを整理する動きから、投資機会が一気に広がった2023年頃からは、アセット・ベースド・ファイナンス(不動産担保、住宅ローン、自動車ローン、航空機ファイナンスなど)へ多角化する動きが顕著です。

4-2. 「オーバークラウディッド」への懸念と長期視点

プライベートクレジット市場への過度な資金流入で「オーバークラウディッドだ」との声も出始めていますが、Eldridge Industriesのように「本質的に上位(シニア)ポジションを重視し、資産担保を確実に押さえる」戦略をとる運用者が増えています。したがって、業種や経済全体が大きく崩れない限り、一斉にデフォルトが起きるような事態にはなりにくいというのが現場の見方です。あくまでも長期的な資金需要と金利環境の変化を総合的に見極める必要があるでしょう。

5. スポーツ産業への投資: エルドリッジ・インダストリーズの戦略


5-1. トッド・ボーリー氏の投資哲学

エルドリッジ・インダストリーズの共同創業者であり会長兼CEOを務めるトッド・ボーリー氏は、ロサンゼルス・ドジャース、ロサンゼルス・レイカーズ、ロサンゼルス・スパークス、さらにイングランド・プレミアリーグのチェルシーFCのオーナーとしても知られています。同氏は香港で開催されたシンポジウムでのインタビューに応じ、アメリカ経済の先行きに楽観的な見方を示しました。

「足元ではマーケットが過熱しすぎた部分を修正しようとしているが、長期的に見れば健全な調整だろう。私たちは、信用の上位ポジションに投資することでビジネスを安定化させ、長期的に伸ばしていく方針だ」と述べています。また、プライベートクレジットはクレジットビジネスのなかでも「日々の騒動に左右されにくく、確固たるポジションを築ける分野」だと強調しました。

5-2. チェルシーFCの経営とスタジアム構想

メディアでは「チェルシーFCのオーナー間で意見の相違があるのではないか」と取り沙汰されてきました。しかしボーリー氏は「メディアが書き立てるほどの混乱はない。クラブの長期的なビジョンにおいてオーナーは概ね同じ方向を向いている」と説明。今後はスタンフォード・ブリッジのスタジアム改修(あるいは移転)を念頭に置き、ファンやコミュニティとの調整を丁寧に進める考えを示しました。

「チェルシーFCは120年の歴史をもつクラブだ。プレミアリーグの競争は熾烈だが、グローバルなファンベースの拡大やクラブのブランド価値成長を考えれば、長期的に見て魅力は十分ある」とボーリー氏は楽観的です。チームの成績が一時的に振るわなくとも、国際的放映権収入の拡大や新たなスポンサーシップなどによる収益機会は依然として大きいとされています。

5-3. クリケットへの参入と他スポーツ拡大の可能性

エルドリッジ・インダストリーズはすでにイングランドのクリケットチームに少額投資を行い、新たな競技・市場を学ぶための足がかりを築きました。ボーリー氏は「私たちはスポーツの持つ競争とコミュニティの力が好きだ。あらゆる可能性を探りつつ、実際に経験を積んでから本格参入を検討する」と語っています。

インドのIPL(インディアン・プレミアリーグ)にも海外からの関心が高まっていますが、現時点でエルドリッジとして検討しているわけではないとしつつ、「否定もしない」という姿勢を明かしています。こうした段階的アプローチは、過去にクレジット投資でも「まずはデット(債務)で企業を知り、その後に資本参加」というモデルで実績を積んできた同社の投資スタイルを反映しているといえるでしょう。

米中貿易摩擦の影響は、当初の悲観的シナリオほど劇的な形で表面化していないものの、各国政府要人が警告するように、いまなお不確実性は残っています。2025年の世界景気を左右する最大のリスクとしては、依然として「インフレ動向」が挙げられる、というPIMCOの分析も示唆的です。インフレが抑制され、金利がゆるやかに下がれば債券市場へ投資マネーが戻り、一方で成長分野として台頭するプライベートクレジットやAI関連技術にも資金が流れやすい展開になる可能性があります。

スポーツ産業分野でも、メディアが多様化しながらも「ライブ観戦」への注目は衰えていません。時間をリアルタイムで奪えるスポーツイベントは広告価値も高く、そこに投資機会を見出す動きが活発化しています。エルドリッジ・インダストリーズをはじめとする投資家が、サッカーやバスケットボールのみならずクリケットのような新たな領域へも進出を探るのは、その証左といえるでしょう。

グローバル経済の変動要因は複雑化していますが、アジアに対する投資意欲は依然として根強く、米欧の金融政策や通商政策次第で投資リスクとリターンの均衡が微妙に変わる局面に入りつつあります。こうした状況のなか、従来型の株式や国債のみならず、プライベートクレジットやアセットファイナンス、さらにはスポーツ事業への投資といった選択肢が広がっているのが現代の特徴です。投資家はリスク許容度や運用目標を再確認しながら、多角的なアプローチで投資戦略を練る必要があるといえるでしょう。


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