AIは次の“インターネット級シフト”か?Evansが示す「AI活用の3段階戦略」と未来予測
Benedict Evansは、テック業界のトレンドを長年にわたって追い続けてきた戦略アナリストです。彼が2025年に発表したプレゼンテーション「AI Eats the World」では、「AIが技術史上の次のプラットフォームシフトとなるのか、それとも単なる進化に過ぎないのか」という問いを中心に据え、歴史的な文脈、利用実態、企業戦略、そして、未来予想まで広く俯瞰しています。
1. AIはどのような“プラットフォームシフト”なのか
1-1. テクノロジーの歴史的パラダイム
Evansは、インターネットやスマホといった過去のプラットフォームシフトを引き合いに出しながら、AI(特に生成AI=LLM)は既存の革新と同じ構造を持つが、物理的・理論的な限界が未知である点が異質と指摘します。
例えば、インターネットやモバイルでは、「どこまで高速化できるか」「どこまで小型化できるか」という限界が明確でしたが、AIについては、「どこまで良くなるかわからない」という点が、過去のシフトとは根本的に異なるとのことです。
この見方は、「AIは単なるプロダクトではなく、新しいインフラストラクチャになり得る」という示唆につながっています。
1-2. AIの定義と認識の変遷
Evansは、「AIとは何か」という問いに対し、一般の利用では“新しくてわからない技術”に対してしかAIという言葉が使われないという観察をしています。
つまり、機械学習やデータベースのように広く使われるようになると、「AI」という言葉は消えていき、「ただの機能」になるという見立てです。これが、彼の有名な「AIは機能として消えていく」というパラドックスです。
これは、過去の技術革新が「当たり前の機能=非テーマ化」していった経緯と一致しています。
例)
自動エレベーターは「AI搭載」ではなく「普通のエレベーター」になった
データベースや自動バックアップ機能も当初は目新しかったが、今は普通の機能
2. AI導入の実態とその課題
2-1. 利用ギャップ:認知と習慣の差
Evansは、AIの利用実態として高い認知率と低い日常的使用率のギャップを指摘します。
たとえば、ChatGPTは、世界で8〜9億の週次アクティブユーザーがいるにも関わらず、日常的にAIを“欠かせないツール”として使っている人はごく一部です。
これは新技術の普及パターンとして重要な示唆を与えます。
多くの人は「試した」
しかし、実業務や日常行動に定着していない
つまり、AIは普及しているが、日常の価値を見出すためのUXや統合が進んでいないという現実があります。
2-2. 企業導入の実態
また、大企業やコンサルティングファームの“AI導入プロジェクト”の話題も多いものの、何をAI導入と定義するのか曖昧であり、実際の事業価値に結びついていないケースが多いことを指摘しています。
実際、AccentureやBCGの例でも、「AIプロジェクト」と言いながら実際には従来の自動化や分析の延長線上に留まる話が多いとされています。
この点から、「AI戦略=AIを入れればよい」という安易な議論を戒めており、真のAI導入はビジネスプロセスの再設計とセットで考えるべきという洞察が示されています。
3. AIによる価値創出の構造
3-1. 技術のコモディティ化と価値の所在
Evansは、現在のAIモデル(LLM)は急速にコモディティ化している可能性を指摘しています。
すなわち、研究成果や大規模モデルの優位性は短期間で陳腐化しうるという点です。
一方で、実際に価値を生むレイヤーは以下のようなモデル以外の層にあるとしています:
UI/UXによる統合(使いやすさ)
既存ワークフローへの埋め込み
業界特化ソリューション(ラップトップ特化など)
これらは従来のソフトウェア産業でも見られた「プラットフォーム上で差別化される価値」と共通しています。
3-2. 産業変革の3段階モデル
Evansは、AIの導入・価値創出を3つの段階に整理しています:
吸収(Absorb)
→ 既存プロセスにAIを機能として埋め込む革新(Innovate)
→ 新しいプロダクト・サービスを創出破壊的変革(Disrupt)
→ 産業構造そのものを再設計するような変革
現状、多くの企業は「吸収」段階に留まっており、次の「革新」「破壊」へ進むためには新しい思考と組織設計が必要であるとされています。
4. AIの未来:予測と戦略的示唆
4-1. AIの物理的・理論的限界
Evansは、AIの将来を評価するうえで重要なポイントとして、「物理的・理論的な限界がわからない」という点を挙げています。
従来のコンピューティング(モデムやプロセッサ)では、遅延やサイズといった物理上の制約が存在しましたが、現在のAIに関してはどこまで進化するかの予測軸が存在しないという構造的な不確実性があります。
この不確実性が、「AIはいつAGIになるのか?」のような議論を生み、投資・戦略の焦点を曖昧にしています。
4-2. 戦略的示唆:プロダクト化と統合
Evansの分析から導かれる戦略的示唆は次の点にまとまります:
AIを単独プロダクトとして扱わない
→ 機能として統合し、既存の価値創出と結び付けるユーザーのジョブ・トゥ・ビー・ダンを定義する
→ 「何をやりたいのか」を起点にAIを設計する変革領域を見極める
→ 単なる自動化ではなく、新しいユーザー体験や新市場創出へ
これらは、企業がAI戦略を描くときに、単なる技術導入に終始せず、実際のビジネス価値へつなげる道筋を示しています。
結論
Benedict Evansの「AI Eats the World」は、AIが技術史上の“次の何か”である可能性を冷静に評価しつつ、現在の課題と未来への戦略設計に光を当てた分析です。
単なる技術革新としてのAIではなく、歴史的なプラットフォームシフトと比較しながら、ユーザー行動の変化、企業の価値創出構造、産業変革のメカニズムを整理することで、実務的な洞察と戦略を提供しています。
技術の進化は確実に進んでいるものの、その価値がどのように社会やビジネスに結び付くのかは、今後のプロダクトデザインと導入戦略次第というのが、このプレゼンテーションの核心的メッセージと言えるでしょう。
