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AnthropicによるVercept買収——コンピューター操作AIの次の一手

Anthropicが、2026年2月26日、AIスタートアップのVerceptを買収したと発表した。昨年12月のコーディングエージェントエンジン「Bun」の買収に続く動きで、Claude Codeのスケール強化に続き、今度はコンピューター操作(Computer Use)領域での陣容を厚める狙いが見える。一方で買収の裏側では、共同創業者間の公開論争という異例の展開もあった。


1. Verceptとは何をつくっていた会社か


1-1. 製品と技術的背景

Verceptは、AIエージェントがより複雑なタスクをこなせるようにするためのツールを開発していたスタートアップだ。主力製品「Vy」は、クラウド上でApple MacBookをリモート操作できるコンピューター使用エージェントで、「AIエージェント時代のパーソナルコンピューターを再定義する」という潮流の一角を担っていた。

同社はシアトルのAI特化インキュベーター「A12」の卒業生で、A12はAIの非営利研究機関として長い歴史を持つアレン人工知能研究所(Allen Institute for AI)から生まれた組織だ。共同創業者たちもアレン研究所出身の研究者であり、研究と実装の両面に強い布陣を持っていた。

1-2. 資金調達と著名投資家の顔ぶれ

CEOのKiana Ehsani氏は、LinkedInの投稿で、Verceptが累計5,000万ドルを調達したと明らかにした。2025年1月には1,600万ドルのシードラウンドを発表しており、A12のSeth Bannon氏がリード投資家を務めた。

エンジェル投資家の顔ぶれも際立っていた。元Google CEOのEric Schmidt氏、Google DeepMindのチーフサイエンティストJeff Dean氏、Cruiseの創業者Kyle Vogt氏、DropboxのArash Ferdowsi氏らが名を連ねていた。調達規模と投資家の質から、業界内での期待値の高さが伝わってくる。

2. Anthropicが求めたもの——研究者の獲得


2-1. 買収の構図

Anthropicの発表では、CEO Ehsani氏、Luca Weihs氏、Ross Girshick氏の3名がAnthropicに加わると明記された。ただし、全ての共同創業者が合流するわけではない。

共同創業者の一人、Matt Deitke氏は、昨年すでにMetaに引き抜かれており、同社のSuperintelligence Labに移籍している。報じられた報酬は2億5,000万ドルという規模で、業界で大きな話題を呼んだ。Deitke氏は今回の買収発表にあたり、X(旧Twitter)に元同僚たちへの祝辞を投稿した。

Verceptの製品「Vy」は、2026年3月25日をもってサービスを終了する予定だ。Ehsani氏はLinkedInでこう述べている。「独自に構築して同じビジョンを別々に追うか、優れたチームと力を合わせてそのビジョンを加速させるか——答えは自ずと明らかでした」。

2-2. Anthropicにとっての戦略的意味

Anthropicは、昨年12月にBunを買収してClaude Codeの強化を図り、今回はコンピューター操作の領域でVerceptを取り込んだ。AIエージェントが実際のデスクトップ環境を操作する能力は、エンタープライズ向けのアシスタントや自動化ツールにとって不可欠な技術領域だ。

買収条件は非公開だが、Ehsani氏らの研究者としての専門性——特にコンピュータービジョンやエージェント設計における実績——が主たる獲得対象だったと見られる。

3. 公開論争——投資家同士の確執


3-1. Etzioni氏の反応

買収発表と同時に、もう一人の共同創業者であるOren Etzioni氏がLinkedInに率直な投稿をした。Etzioni氏は、アレン人工知能研究所の創設リーダーとして知られ、ワシントン大学の教授でもある著名人だ。

彼はこう書いた。「1年少しで、Verceptは白旗を上げ、顧客に30日でプラットフォームから移行するよう求めている。残念だ。素晴らしいチームがAnthropicに加わる。彼らの最善を祈っている」。

さらに、Etzioni氏は、リード投資家のBannon氏が「適切なビジネス人材の採用をしなかったことに一因がある」と名指しで批判した。

3-2. Bannon氏の反論と論争の意味

これに対し、Bannon氏はLinkedInのスレッドで反論した。「あなたは、ほとんどの人が夢見るような結果を達成した創業者たちの英雄的な仕事を貶めている」と述べ、両者の応酬は、嘘の告発や法的脅迫の言及にまで発展した。

公開の場での投資家同士の争いは珍しい。しかし、その根底にある緊張は理解できる。AI分野では、優れた研究者が次のブレイクスルーをどこで起こすかが、巨大な経済的価値に直結する。5,000万ドルを調達し実績もあった会社が1年余りで「折りたたまれる」ことへの複雑な感情が、こうした形で表出したと見ることができる。

Etzioni氏自身は、GeekWireにこう語っている。「正の投資リターンを得られたことには満足しているが、これだけの牽引力と素晴らしいチームがありながら、1年余りで基本的に白旗を上げることになったことには明らかに失望している」。

今回の買収が示すのは、Anthropicが単にモデルの改善だけでなく、エージェントが実世界のコンピューター環境を扱う能力の強化を積極的に進めているということだ。Meta、Google、OpenAIとの人材争奪が激化するなかで、有望なスタートアップを早期に取り込むことで研究人材を確保する動きは、今後も続くとみられる。

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