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Stripeの評価額が1,590億ドルへ——74%の上昇が示す決済インフラの現在地

プライベート市場でも最も注目される企業の一つ、Stripe。2026年2月25日、同社は最新のテンダーオファー(従業員保有株の流動化取引)における企業評価額を1,590億ドルと発表した。2025年2月の前回テンダーオファー時の評価額は915億ドルだったため、約1年で74%の上昇となる。今回の買い手にはThrive Capital、Coatue、Andreessen Horowitz、そして、Stripe自身が名を連ねた。毎年恒例となったこの発表は、Patrick・John Collison兄弟による年次創業者レターと同時に行われ、製品リリースの振り返りと事業に関するデータが公開されるタイミングに合わせて設計されている。


1. テンダーオファーという資金調達の形——なぜIPOしないのか


1-1. 従業員に流動性を、外部には評価を

Stripeが採用するテンダーオファーは、従業員やインサイダーが保有する株式を外部投資家に売却する形式の取引だ。会社に直接資金が入るわけではなく、株主間での持ち分移転という性格を持つ。それでもこの取引が毎年注目される理由は、外部の機関投資家が支払う価格が事実上の「時価評価」として機能するからだ。

IPOをしていない企業にとって、テンダーオファーは、従業員の株式報酬に流動性を与えながら、外部から見た企業価値の目安を市場に提供する手段でもある。Stripeのケースでは、毎年1月から2月にかけてこの取引を実施するパターンが定着しており、年次レターとの同時発表によって「Stripeの今年の成績表」としての機能を果たしている。

1-2. 評価額の推移——市場はどう見ているか

直近の推移を追うと、2021年のピーク時に950億ドルに達した後、2023年には500億ドル台まで下落した時期があった。その後2024年末から2025年にかけて回復基調に入り、今回の1,590億ドルへの到達に至った。

今回の評価額をもたらした買い手——Thrive Capital、Coatue、a16z——はいずれもテクノロジー投資において長期的な視野を持つ機関投資家として知られる。Stripeが1年で74%の評価上昇を達成した背景には、決済インフラとしての実績に加え、後述するステーブルコインなど新領域での成長が影響していると見られる。

2. 年次レターが示した事業の現在地


2-1. ステーブルコイン決済——急拡大する新しい決済層

今年の年次レターで特に注目されるのがステーブルコイン決済の動向だ。2025年における世界全体のステーブルコイン決済量は、約4,000億ドルに達し、前年から倍増した。同社の推計では、そのうち60%がBtoB決済から来ているという。

従来のステーブルコインのイメージは、リテール投資家や暗号資産トレーダーの利用が中心だったが、実際の決済量の大半が企業間送金に使われているというこのデータは、ステーブルコインが投機的な資産クラスから実務的な決済インフラへと移行しつつあることを示している。国際送金や多通貨決済において、銀行システムを経由せずに即時・低コストで資金を動かせるという特性が、グローバルに事業を展開する企業の需要と合致している。

2-2. Stripeの暗号資産インフラへの投資

この成長を受け、Stripeは、2025年を通じて暗号資産関連のインフラ整備に積極的に投資してきた。2025年7月には暗号資産ウォレットサービスのPrivyを買収。同年9月には独自のブロックチェーン決済インフラ「Tempo」を発表した。

さらに大きなインパクトを持つのが、ステーブルコインのオーケストレーションプラットフォームBridgeの活用だ。昨年Stripeが買収したBridgeの決済量は4倍以上に拡大したとされる。Bridgeは複数のステーブルコインにまたがる資金移動を統合的に管理するインフラで、StripeがBtoB決済の新しい基盤として育てようとしている方向性を示している。

3. 評価額1,590億ドルをどう読むか


3-1. プライベート市場における位置づけ

1,590億ドルという評価額は、S&P500構成企業の上位に入る水準だ。上場企業との単純比較は難しいが、金融決済セクターの主要上場企業と並べると、Stripeの事業規模と成長性に対して市場がどの程度の期待を織り込んでいるかの感覚をつかめる。

プライベート市場においては、テンダーオファーの価格は流動性プレミアムや情報の非対称性などの要因を含む。しかし、Thrive Capital、Coatue、a16zのような洗練された機関投資家が1,590億ドルで買い手に回っているという事実は、少なくともその水準が実力の範囲内にあるという判断を示唆している。

3-2. IPOの可能性

Stripeは、長年、IPOの時期について「準備が整ったとき」という以上の明確な発言を避けてきた。テンダーオファーによって従業員への流動性が定期的に提供されていること、外部資本調達の必要性が低いことを考えると、上場の必然性は以前より低下しているとも言える。一方で、評価額が拡大するにつれて既存株主からの流動化ニーズも増大する傾向がある。今年のRobinhood Ventures Fund Iの組成(Stripeへの投資を含む)のように、プライベート企業へのアクセスを求める個人投資家の需要も高まっている。

毎年恒例のテンダーオファーと年次レターは、Stripeが外部との情報共有の量とタイミングをコントロールしながら、自らの評価を市場に伝える洗練された仕組みとして機能している。今回の発表では評価額の上昇とともに、ステーブルコイン決済というStripeが次の10年の中核と位置づけているとみられる事業の輪郭も、徐々に明確になってきた。

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