日本最大のAIユニコーン「Preferred Networks」が描く、ディープラーニングの未来図
近年、ディープラーニングと人工知能(AI)の進化は目覚ましく、日本国内でも新興企業が次々に革新的なサービスや製品を打ち出しています。そのなかでも注目を集めているのが、AIスタートアップ「Preferred Networks」です。2014年の創業以来、自動車・ロボット・ヘルスケアなど多種多様な産業領域でソリューションを提供し、国内最大規模のユニコーン企業へと成長を遂げました。本記事では、Preferred Networksの創業者インタビューを中心に、同社のビジョンや技術的取り組み、将来的な成長戦略について詳しく解説します。
1. Preferred Networksとは何者か
1-1. 創業の背景とビジョン
Preferred Networks(以下、PFN)は2014年創業のAIスタートアップです。共同創業者でありCEOを務める西川徹氏(以下「西川氏」)によれば、「コンピュータとコンピュータサイエンスが好き」という原点を軸に、最新テクノロジーを最短時間で社会実装することをミッションとして掲げています。
「私たちは、コンピュータとコンピュータサイエンスを活かして新たな価値を世界に生み出すことを目指しています。最新の技術を最短で現場に届けることで、さまざまな社会課題の解決につなげたいのです。」
(西川氏)
一方、Chief Executive Researcher(CER)として研究開発を率いる岡野原大輔氏(以下「岡野原氏」)も、同じく「AIを現実の社会課題に適用する」ことを目指し、これまで自動車・ロボット・医療など幅広い領域で開発を進めてきたと語ります。
1-2. ユニコーン企業への躍進
創業から10年弱ながら、PFNは日本最大級のAIユニコーン企業へと急成長しました。その背景には、世界的自動車メーカー・トヨタからの大型投資(約115億円)が大きな役割を果たしています。創業当初から自動運転技術への強い意欲を持ち、研究開発を加速させるための資金を獲得したことが、同社の大きな転機となりました。
「トヨタからの投資により開発を加速できましたが、今進行中のプロジェクトについては詳しくは言えません。しかし当初から自動運転にAIを活用したいという強い想いがあり、投資を通じてビジネスを推進することができました。」
(西川氏)
2. 多角的な事業展開
2-1. ロジスティクス分野での挑戦:T2への投資
自動運転技術の応用として、PFNが特に力を入れるのが物流・運送領域です。同社は三井物産と共同で設立した企業「T2」に出資し、トラックの自動運転技術開発に取り組んでいます。ドライバー不足が社会問題化する日本において、高齢ドライバーが長時間・深夜帯でも運転できる環境をつくり、身体的・精神的負荷を軽減することを目指しています。
「長時間や深夜の運転が当たり前になっている物流の現場を改善することは、急務です。日本ではトラックドライバーの数が減っているので、自動運転の導入によって社会的な課題を解決できると考えています。」
(西川氏)
2-2. 上場(IPO)への展望
ソフトウェア開発のみならず、半導体などハードウェア開発にも力を入れる同社は大規模な資金調達が必要とされる場面が増えています。そのため、近い将来でのIPO(株式上場)を目標とする可能性が高いといいます。
「ハードウェア開発を伴う大規模投資には多額の資金が必要になるため、市場からの資金調達は不可欠です。今後3~5年を目処に上場を目指したいと考えています。」
(西川氏)
3. MN-Core: 独自AIプロセッサの開発
3-1. 「日本最強クラスのスパコン」実現へ
PFNはハードウェア分野にも積極的に進出しており、神戸大学などと共同開発したAI向けプロセッサ「MN-Core」シリーズは、世界的に権威ある「Green500」でエネルギー効率が高いコンピュータとしてトップクラスに輝きました。これは、多くの計算パワーを限られたトランジスタ数やエネルギー枠内でいかに効率的に実装できるかという独自アーキテクチャの成果と言えます。
「深層学習(ディープラーニング)に必要な要素を厳選し、必要な部分のみをプロセッサに搭載して高い性能を実現しました。ハードとソフトの最適化を徹底することで、エネルギー効率と処理能力を両立させています。」
(西川氏)
3-2. Nvidiaへの対抗
AIの分野ではGPUメーカー大手のNvidiaが圧倒的なシェアを誇ります。PFNは「ディープラーニングに特化する」という戦略でこの牙城へ挑む姿勢を示しています。また近年は中国の「DeepSeek」がオープンソース大規模言語モデルの分野で台頭しており、PFNとしても動向を注視しているとのことです。
「DeepSeekはもともと技術力のある企業だと認識していました。こうした新しいアプローチをとるプレイヤーが登場するのは予想していたことです。Nvidiaも含め、競合他社とどのように差別化していくかが私たちの大きな課題です。」
(岡野原氏)
4. 日本発オープンソース大規模言語モデル「Plammo(プラモ)」
4-1. 日本語特化と多言語対応
PFNは大規模言語モデル(LLM)の開発にも力を入れています。その代表例が「Plammo」。日本語特化のモデルとして強みを持つ一方、英語をはじめ約30言語にも対応している点が特徴です。ロボットや自動車領域への実装も視野に入れており、生成系AIだけでなく「エッジ領域」での活用も重視しています。
「Plammoは30言語対応ですが、特にロボットや自動車など現場で使われるエッジサイドを意識しています。ジェネレーティブAI(生成系AI)で直接収益を得るのは難しい面もありますが、ハードウェアに組み込んで実ビジネスを生み出す道を模索しています。」
(岡野原氏)
4-2. 国内外への影響
昨今のAI競争は米国と中国が二大大国として存在感を放っています。そのなかで、日本発のPFNが世界に挑戦するには、単なる技術力だけでなくグローバル戦略が不可欠です。海外拠点の整備や異なる文化・市場ニーズへの適応など、乗り越えるべき課題は多いものの、PFNの研究・開発成果が世界で活用される可能性は十分にあるといえます。
5. 組織文化と経営スタイル
5-1. 「Learn or Die」のモットー
PFNが掲げるモットーの一つに「Learn or Die」があります。これは、技術者として常に学び続ける姿勢を求める意味合いが強く、専門知識だけでなく柔軟性と好奇心を重視しています。自社開発のプロセッサから多彩なソフトウェアプロジェクトまで、幅広い分野に挑戦するチャンスが存在し、優秀な人材を惹きつける要因となっています。
「能力の高い人材がいれば、適所に配置してリーダーを任せる。私自身も重要な場面には深く関わりますが、基本的にはチームに信頼して任せるスタンスです。」
(岡野原氏)
5-2. 急成長期の苦悩と学び
投資を受けて急拡大する段階では、組織全体の方向性をそろえることが難しくなる場合があります。西川氏も「みんなが同じ方向を向きづらくなった時期があり、その修正には痛みを伴う決断も必要だった」と振り返り、経営者としての組織マネジメントの難しさを語ります。
6. 今後の展望
6-1. 次の10年に向けて
半導体開発や大規模言語モデルの研究など、多面的なプロジェクトを抱えるPFN。10年後の姿としては「MN-CoreやAIアプリケーションを世界中のデバイスに搭載し、グローバル市場での事業拡大を目指す」ことを掲げています。そのためには海外拠点の設立や現地文化の理解など、さらなるグローバル展開が求められるでしょう。
「私たちのプロセッサやアプリケーションが世界に普及し、多くの人が日常的に利用している未来を描いています。日本企業として世界で勝負するためには、海外事業拠点の設置や現地のニーズへの対応が必須です。」
(西川氏)
6-2. 社会課題への応用と国際貢献
自動運転や医療のDX(デジタル・トランスフォーメーション)など、「AIの実社会での活用」は依然として課題が山積しています。PFNは「未解決の問題を明確にしつつ、世界的な課題解決に貢献していきたい」と強調します。
「社会で解決すべき問題はまだまだ多くあり、AI技術がサポートできる領域はさらに広がっていくでしょう。私たちは社会全体への貢献を目指し、世界規模の課題にも挑戦していきたいと考えています。」
(岡野原氏)
Preferred Networksは「ディープラーニングに特化したプロセッサ開発」「ロボットや自動車へのAI実装」「大規模言語モデル“Plammo”」といった多角的な取り組みを展開し、国内外のAI業界に大きなインパクトを与えています。トヨタからの大型投資を得た背景には、自動運転を中心とする社会課題の解決意欲があり、その解決に向けた独自の技術と経営戦略が彼らをユニコーン企業へと押し上げました。
今後はさらなる資金調達が必要となるハードウェア開発やグローバル市場への進出など、乗り越えるべき課題も多く存在します。しかし、「Learn or Die」の社風に象徴されるように、社員一人ひとりが常に学び続ける環境を整えることで、急拡大にともなう混乱を乗り越えてきました。10年後、日本発のAIベンチャーが世界をリードする存在となる日はそう遠くないかもしれません。PFNの挑戦は、いまなお進化し続けるディープラーニングとAI技術の最前線を体現しているといえるでしょう。
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