ISS後の宇宙―NASAと民間が描く低軌道ステーションの未来図
NASAが計画する国際宇宙ステーション(ISS)の2030年退役に向けて、低軌道(LEO)における宇宙利用の“次”の展開が始まっています。本記事では、最新のNASAの戦略である「Commercial LEO Destinations(CLD)プログラム」に基づいて進む商業的宇宙ステーション構想と、それを支える“軌道上推進”の新興技術などについて整理します。また、関連する複数のスタートアップの取り組みや、視聴者からの声を引用しつつ、専門家に向けた平易な解説を行います。
1. NASAの転換点:ISSから商業ステーションへ
1-1. 商業化への政策転換
ISSは老朽化と維持費の高騰から、2030年をもって退役・大気圏再突入する予定です。その後も人類が低軌道で活動を継続するため、NASAは自ら宇宙ステーションを運営するモデルから、“顧客”として民間企業のステーションを利用するモデルへ転換しています。これは、商業宇宙事業を加速し、コストを削減する狙いがあります。
1-2. CLDプログラムの概要と資金動向
NASAは、2021年に「Commercial LEO Destinations(CLD)」プログラムを立ち上げ、民間企業に宇宙ステーションの設計・建設・運用を委ねる方針を採っています。2025年5月に発表された2026年度予算案では、今年度2億7,230万ドル、今後5年で21億ドルを目安として、民間ステーションの開発・導入を進める計画が提示されました。
1-3. フェーズ1の受賞企業と進捗
フェーズ1では、以下の3社がスペースアクト契約(Space Act Agreements)により資金を獲得しました:
Nanoracks(Starlab) – 約1億6,000万ドル
Blue Origin(Orbital Reef) – 約1億3,000万ドル
Northrop Grumman(無名プロジェクト) – 約1億2,560万ドル
後に、Lockheed Martinは離脱、AirbusがStarlabに参画。Orbital Reefは進捗に懸念もありますが、開発は続行中です。
2. 商業ステーションの具体構想と現状
2-1. Starlab:欧米連携による民間ステーション
Starlabは、NanoracksとAirbusによる欧米共同プロジェクトで、2028年以降の打ち上げを目指しています。2つのモジュールで構成され、ロボットアーム搭載による荷物の外部取り扱いが可能です。また、年間400件以上の実験受け入れ能力などが想定されています。
2-2. Orbital Reef:混合利用型ステーション構想
Orbital ReefはBlue OriginとSierra Spaceなどが開発する「宇宙のビジネスパーク」です。最大10名乗船可、830立方メートルの居住区画などを備える大型ステーションで、2027年の運用開始を目標としています。
2-3. Vast(Vast Space):段階的拡張を狙う参入者
Vast(Vast Space)は、Haven-1、Haven-2と段階的に拡張可能な商業ステーションを構想。Haven-1は単一モジュール、2026年5月の打ち上げ予定で、4名乗船1か月の滞在が現実的目標とされています。
さらに2028年以降には、Starship打ち上げによるHaven‑2(多モジュールでISS後継規模)を目指しており、2030年代には人工重力ステーション構想も視野に入れています。
3. 軌道上推進革命:Orbital Operationsの挑戦
3-1. 高性能ロケットエンジン搭載の軌道機動体「Astraeus」
米スタートアップ「Orbital Operations」は、LH₂/LOXによる10,000lbf推力のエンジンを搭載し、数年間軌道上にとどまりながら演技を継続可能な「Astraeus」を開発中ですこの高性能推進体は、将来的な軌道間輸送や燃料補給、衛星の再配置など多用途利用を見据えています。
3-2. 資金調達と技術的課題
2025年8月、Orbital Operationsは、Seedラウンドで資金調達に成功し、開発を加速中です。技術的には、極低温条件下で数年間水素・酸素を液体のまま保つ制御技術(CPMS)の実現が最大の課題です。
4. 総まとめ:今後の展望と注目ポイント
4-1. 多様な参入者のスタートラインへ
NASAは、CLDフェーズ2を2026年に進行予定で、スタートアップから大手まで、多様な宇宙ステーション構想が競う時代が訪れつつあります。既にHaven-1、Starlab、Orbital Reefなどが具体的に動き出しています。
4-2. 技術革新とコスト削減の両立
Orbital Operationsのような“機動輸送体”は、インフラ面でも技術面でも新しい地平を切り拓きます。極低温流体の長期保存と推進制御という未踏分野の克服は、将来の宇宙物流に不可欠です。
4-3. 民間化と官民の連携の理想的バランス
NASAは自ら運営をやめるわけではなく、“顧客”として民間に依存する新たな関係を築こうとしています。これは、民間宇宙産業の自立成長と政府のミッション継続の双方に資するモデルといえます。

