AIチップ競争勃発!CerebrasがNVIDIAの牙城に挑む
AI(人工知能)技術が急速に進歩し、大規模言語モデル(LLM)をはじめとする高度なアルゴリズムやツールが次々に登場するなか、その基盤を支える「チップ(半導体)」の分野にも大きな変化の波が押し寄せています。特に、NVIDIA(エヌビディア)のGPU(Graphics Processing Unit)は、長らくAI分野で主要な演算プラットフォームとして君臨してきました。一方で、今回取り上げる「Cerebras Systems(以下、セレブラス)」というスタートアップ企業は、“大きすぎるチップ”を武器にしてNVIDIAとは異なるアプローチを示し、市場に挑戦状を叩きつけています。
本記事では、Forbesのインタビューに登場したCerebras Systems共同創業者兼CEOのアンドリュー・フェルドマン氏(Andrew Feldman)による発言を引用しつつ、Cerebras SystemsのAIチップがどのようにしてNVIDIAとの差別化を図っているのか、さらに中国発のオープンソース大規模言語モデルの登場がAI業界全体に与える影響などを、わかりやすく解説していきます。
1. Cerebrasが注目を集める理由
1-1. “大きすぎるチップ”という新発想
Cerebrasの特徴としてまず挙げられるのが、そのチップの「巨大さ」です。一般的な半導体チップは、シリコンウェハ(基板)を小さく切り出して製造します。しかしセレブラスは、切り出しを最小限にして「ディナープレートのように巨大なサイズのチップ」を一枚ものとして使うという大胆な手法を採用しています。
フェルドマン氏によれば、AIモデルの学習や推論(推定)は大量の演算とデータ移動を伴い、とりわけ「データ移動」に多くの時間と電力が消費される点がネックだといいます。「大きなチップにまとめて演算処理を載せることで、無駄なデータ移動を削減できる。その結果、オーダー桁違いのスピードアップと省電力を同時に実現する」(フェルドマン氏)というのが、Cerebras Systemsのアプローチです。
1-2. NVIDIA GPUとの比較
インタビューでもたびたび話題に上るNVIDIAは、元来グラフィックス処理で培った技術力をAI向けに転用しています。実際、GPUは、汎用性の高さもあって多くの企業・研究機関が採用していますが、フェルドマン氏は、「私たちは最初からAI専用に設計した。だから電力あたりの演算効率や処理速度で桁違いの差が生まれる」と強調します。
彼によれば、たとえば、「Meta(メタ)の『LLaMA 70B』モデルを推論させる際、Cerebras Systemsのチップでは、NVIDIA製GPUと比べて“約70倍”もの速度差が出ることがある」というのです。ユーザー体感にすれば「およそ1秒で答えが返ってくるか、20秒以上待たされるか」という大きな違いになると説明していました。
2. オープンソース大規模言語モデルの台頭
2-1. 中国発「DeepSeek」による衝撃
ここ数週間で大きな話題となったのが、中国のAI企業が開発・公開した大規模言語モデル「DeepSeek(ディープシーク)」です。OpenAIのChatGPTやMetaのLLaMAと比べても数学的推論やコード生成といったタスクで優秀だという評判が広がり、世界的に注目を集めています。フェルドマン氏は、このモデルを「良質な推論が可能な、初めての本格的オープンソースモデルの一つ」と評しています。
さらにDeepSeekは、メインとなる巨大モデル(V3)だけでなく、それを圧縮・最適化した「蒸留版」も公開。これにより、比較的限られたリソースでも高度な言語推論を利用できる可能性が出てきました。フェルドマン氏いわく「DeepSeekは、元々、他の公開モデル(例:MetaのLLaMA)を再利用しながら開発されている。オープンソースの知見をさらにオープンソースとして還元するという流れが、エコシステムを加速度的に発展させるのだ」と語ります。
2-2. 世界各地のAI競争
ただし、フェルドマン氏は「中国が特殊というわけではなく、インドや欧州、UAEなど世界各地の優秀な人材が、高度なAI研究を進めることは当然」とも述べ、AI技術が“シリコンバレー発”だけではなくなっている点を強調します。
また、「今回のDeepSeekや以前のアリババによるモデル『Qwen』など、米国以外でも優れた成果が出ている。これらはAI市場を小さくするどころかむしろ広げる要因になるはずだ。新たなプレーヤーが参入しやすくなり、市場規模が拡大する」(フェルドマン氏)と指摘。実際、DeepSeekの登場時にはNVIDIAの株価が、一時的に下落するなどの波紋が広がりましたが、中長期的にはAIチップやクラウドインフラの需要はさらに増大すると見る声も大きいようです。
3. AI競争と米中対立の視点
3-1. 規制と政府支援の温度差
最先端テクノロジーとしてのAIは、国家間競争という文脈でも捉えられがちです。フェルドマン氏は、「中国政府がVC(ベンチャーキャピタル)の投資を事実上保証し、大胆な研究開発を後押ししている点はアメリカと異なる」と述べています。
一方、米国は、「CHIPS法」などによって国内の半導体製造や研究を支援しようとしているものの、フェルドマン氏は、「マイクロソフト1社の年間設備投資(約800億ドル)よりも政府の支援策全体の規模が小さい。さらなる継続的支援が必要だ」と、チップ産業を含むAI基盤への投資拡充を訴えています。
3-2. 市場拡大とセキュリティ
国家安全保障の観点からも、最新AI技術が海外勢にリードされることを懸念する声は少なくありません。しかし、「優秀な頭脳や技術者は世界中に分散しており、AIが普及すればするほど需要は増える。セキュリティ上の課題はあるにせよ、一国だけで独占する構図は現実的ではない」(フェルドマン氏)という指摘も興味深いところです。
オープンソースの大規模言語モデルが一般化すれば、新興企業でも少ない資金で高度なAIを開発できる可能性が高まります。その一方で、「データの扱い」や「著作権」、「プライバシー」などの課題が世界規模で顕在化し、規制や保護の在り方が問われるのは必至です。
4. Cerebrasの今後とIPOへの展望
4-1. “誰もやらなかった領域”を開拓
セレブラスが創業から約8年を経て、いよいよ2023年内にIPO(新規株式公開)を計画する背景には、「大規模チップによるAI特化型プラットフォーム」の優位性を実績として示せたことがあります。医療機関のメイヨー・クリニックや大手製薬のグラクソ・スミスクライン(GSK)、エネルギー企業のトタルエナジーズなど、多岐にわたる企業がセレブラスのチップを導入しているといいます。
フェルドマン氏自身は「私たちは、デイビッドとゴリアテの戦いを好むプロ集団だ」とし、「IBMやテキサス・インスツルメンツ、さらにはコンピュータ産業の父的存在ジーン・アムダールでさえ実現できなかった“一枚ウェハ大のチップ”を私たちは作り上げたのだ」と強い自負を語りました。
4-2. 膨大化する推論需要への適応
今後は学習(トレーニング)と同等、もしくはそれ以上に推論(インファレンス)の需要が拡大すると見込まれています。理由として、ChatGPTなどの対話型AIを日常的に活用するユーザーが爆発的に増え、「1回の応答につき多くの演算処理が必要となる」からです。フェルドマン氏は、「より高速な回答が得られないと、ユーザーは使わなくなる。そこにこそ私たちのソリューションの価値がある」と強調しています。
ビッグデータと生成AIの利用があたりまえになる世界では、クラウド事業者も自社のデータセンターにより高性能なチップを求めるようになり、セレブラスのような新興勢力にはさらなるビジネスチャンスが訪れるでしょう。
セレブラスは「既存の常識を覆す大きさのチップ」という破壊的イノベーションを起点に、AIの演算負荷やエネルギー効率の課題に挑み、NVIDIAへの対抗勢力として注目を集めています。巨大な初期投資や難度の高い製造技術が必要となるため、チップ開発はスタートアップにとって“非常にハードルが高い”ビジネスです。しかし、それでもなお挑戦し続ける情熱は、フェルドマン氏の「私たちは失敗より“凡庸であること”を恐れる」という言葉からも感じられます。
さらに、中国をはじめ世界各国でオープンソースの大規模言語モデル開発が急速に進んでいる今、ハードウェアもソフトウェアも“多極化”が進む見込みです。セレブラスのような先端半導体ベンチャーが存在感を高め、多様なプレーヤーが参入してくることで、AI市場全体は引き続き拡大するでしょう。高速で膨大な演算能力を求める声が強まるなか、セレブラスの“ウェハスケール”チップという選択肢はますます評価される可能性があります。
オープンソースモデルの普及も相まって「誰もが巨大言語モデルの力を利用できる時代」が到来するなかで、AIの計算基盤をめぐる競争は一層激しくなるはずです。セレブラスの挑戦が、NVIDIAやほかの半導体企業とともにどのような化学反応を起こし、どのように私たちのAI活用を変えていくのか、今後も目が離せません。
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