Devin開発のCognition、18ヶ月で売上100万ドルから5億ドル規模へ ― CEOスコット・ウー氏が語る競争の哲学
AIにコードを書かせる「コーディングエージェント」という分野は、わずか数年で急速な進化を遂げている。その先駆けとされるDevinを開発したCognitionのCEO、スコット・ウー氏が、ポッドキャストのインタビューで、製品開発の裏側や企業としての競争哲学を語った。同氏は幼少期から数学やプログラミングの競技会で鍛えられた「負けず嫌い」な人物で、その性格はビジネスの意思決定にも色濃く反映されているという。本稿では、同氏の発言をもとに、Cognitionがどのように大企業向けの市場を切り開いてきたのかを整理する。
1. 競技プログラミングからスタートアップ経営へ
1-1. 「セカンドプレイス」を許せない子供時代
ウー氏は、自身を「セカンドプレイス」を許せない性格(salty)だと表現する。7、8歳のときに中学生向けの数学競技会に出場し、入賞を逃したことが最初の「競争の記憶」だと語った。その後も、数学・プログラミング競技に没頭し、最終的には国際的な競技プログラミングの場で世界中の仲間と出会うことになった。同氏は、自身の思考様式について、「戦略ゲームをプレイすることと、会社を経営することは同じ感覚だ。決定木を探索し、勝利につながる手を計算している」と説明している。
1-2. 家庭環境が育てた「最高であること」への執着
ウー氏の父親は、中国出身で、囲碁の腕前(七段相当)が縁で米国への留学の道が開かれたという経緯がある。母親については、「彼女は間違いなく家族で最も負けず嫌いだった」と振り返り、家には、家族写真の代わりに数学競技会のトロフィーが飾られていたと明かした。同氏は、この環境について、「教育」と「最高であること」が家庭で重視されていたためだと説明している。
2. Devin誕生の経緯と最初の評価
2-1. 2023年末、「複数ステップの自律的プロセス」という賭け
Cognitionは、2023年末に創業された。創業メンバーは9人で、その多くが過去に自身の会社を経営した経験を持つという。当時、AIエージェントが、複数ステップにわたる作業を自律的にやり遂げるという発想自体が、業界内では一般的ではなかった。ウー氏は、最初に成功したタスクとして、Devinが、MongoDBの初期設定エラーを自力で解決した出来事を挙げ、「その夜は眠れなかった」と振り返っている。
2-2. SWE-bench 13%という数字が意味するもの
2024年3月のローンチ時、Devinは、「SWE-bench」というベンチマークで13%のスコアを記録した。これは当時の最高水準とされていた3〜4%を大きく上回る数字だったが、裏を返せば87%のケースでは失敗するという段階だった。製品としてはまだ成熟していなかったものの、同社はあえてこの段階で公開する判断をした。ウー氏は、その狙いについて「業界の先頭に旗を立てることが、ブランドや採用、顧客との関係構築にとって非常に重要だった」と説明している。発表後の反応は賛否が大きく分かれ、一部からは強い批判も受けたという。
3. エンタープライズ市場への急速なシフト
3-1. 売上は18ヶ月で500倍以上に成長
ウー氏によると、Cognitionは、売上が無い状態から約18ヶ月で、年間収益が約100万ドルから5億ドル規模へと拡大したという。現在、売上の約75〜80%は、エンタープライズ顧客から得られており、ゴールドマン・サックスやメルセデス・ベンツ、さらには、米国政府機関の一部も顧客に含まれるとされる。
3-2. ブラジル最大の銀行、ヌーバンクへの「全社派遣」
最初の本格的な企業導入先は、当時市場価値でブラジル最大の銀行だったヌーバンクだった。案件は、Javaのバージョンアップグレードのような大規模なコード移行作業で、同社のチーム全員がブラジルに渡航し、現地のエンジニアとともに課題を一つひとつ解決していったという。ウー氏は、当時の様子を「会社全体を一つの顧客のために展開していたようなものだった」と表現している。現在では、導入プロセスはより自己完結型になっており、通常12〜18ヶ月かかるとされる企業のセキュリティ審査・導入サイクルを、3ヶ月程度に短縮することを目指しているという。
4. 大企業との競争をどう乗り切るか
4-1. 「フォーカス」という生存戦略
マイクロソフトがGitHub Copilotを既に展開していたことは、Cognitionが創業時に投資家から最も多く受けた懸念点だったという。ウー氏は、これについて、「すべてをやろうとすれば、より多くの資金と人材を持つマイクロソフトやグーグルに負ける。だからこそ、一点に集中し、濃密な賭けをすることが重要だ」と語っている。同氏は、Spotifyの創業者ダニエル・エクの言葉を引用し、「アップルやYouTubeより、ただ音楽のことをより深く考え続けているだけだ」という考え方が、自社の戦略にも通じると説明した。
4-2. モデルに依存しない「複合モデルシステム」という立ち位置
Devinは、特定のAIモデルに依存せず、Anthropic、OpenAI、Googleなど複数のモデルを、タスクの性質に応じて動的に切り替える「複合モデルシステム」として設計されている。ウー氏は、この立ち位置を「スイス」と表現し、「顧客のトークン消費を最適化することに対して、自分たちも顧客と同じ方向のインセンティブを持っている」と説明した。
5. 「売却しない」という選択
ウー氏は、これまで複数回の買収提案を受けてきたことを認めつつも、具体的な件数や金額については明言を避けた。同氏は売却について、「最も野心的な選択だと思えるなら売るだろう」としつつ、実質的には独立を維持する方針を語った。背景には、「全力を尽くして及ばなかったのであれば受け入れられるが、本気でやらずに終わるのは自分自身が納得できない」という考えがあるという。同氏は自身の生活について、車を所有せず賃貸のアパートに住んでいると明かし、金銭的な動機よりも「目標達成への執着」が原動力になっていることを示唆した。
オススメ記事
Next Big Wave――成長株・アイデアの種・トレンド深掘り
いいなと思ったら応援しよう!
この記事は noteマネー にピックアップされました

