バイドゥCFO、クラウド事業を「フルスタックの中で最重要」と明言 ― クラウド収益は前年比79%増
米国と中国のAI開発競争が市場の大きな関心事となる中、Bloomberg社のポッドキャスト「Odd Lots」が香港で開催されたBloomberg Investor Conferenceにて、バイドゥ(百度)のCFO、Henry He(何海文)氏に直接取材を行った。本稿では、フルスタックAI企業としてのバイドゥの戦略、資本配分の考え方、そして、ロボタクシー事業の展望について、ビジネスパーソン・投資家向けに整理して紹介する。
1. フルスタックの中で「必ず勝つべき層」はクラウド
バイドゥは、AIにおいて、チップ・クラウド・モデル・アプリケーションという4層すべてを自社で手がける「フルスタックプレーヤー」だ。He氏は、どの層に資源を集中させるべきかという問いに対し、明確に「クラウド」と回答した。
「自社モデルのERNIEだけでなく、他社モデルも積極的にホストしている。チップとクラウドが連携することで推論にも貢献できる」
その背景には、AI需要の重心がトレーニングから推論へ移っているという認識がある。He氏は、「現在の増分需要の80%は推論関連だ」と指摘し、クラウドこそがこの構造変化を支える基盤になるとの見方を示した。
2. トークン予算の配分思想 ― 役職ではなく成果で決める
社内でのAI活用度をどう測り、トークン予算をどう配分するかという質問に対し、He氏は、職位や年次で予算を固定する発想を明確に否定した。
「役職や年次でトークン数を決めるようなポリシーは導入したくない。個人にできるだけ多くのトークンを与え、社内のR&D努力を促進したい」
評価の軸は、単純な使用量ではなく、スピード・コスト・出力効率の3つを一体として捉える点にあるという。また、若手人材については「想定より賢く、トークンを無駄にしない」との所見も示された。
3. 人材戦略 ― 「ワンパーソンカンパニー」との協業
人材獲得競争が激しさを増す中、バイドゥは、新卒採用を中国企業の中でも積極的に拡大している数少ない企業だと位置づけられている。加えて、注目されるのは、社内でAIエージェントを活用する「ワンパーソンチーム」という考え方の推進だ。
He氏は、社内に「Doudou」という独自ツールを持ち、社員一人ひとりがAIエージェントを使って業務効率を高める文化を醸成していると説明した。これは、自律性と信頼を従業員に与えることで、組織全体の生産性を引き上げる狙いがある。
4. 資本配分の難題 ―「インポッシブル・トライアングル」
CFOとして最も難しい課題の一つが、「成長」「株主への資本還元」「AI投資の規模感」という3つを同時に成立させることだという。He氏はこれを「インポッシブル・トライアングル」と呼ぶ。
4-1. 直近四半期の進展
直近の四半期決算では、この三角形を部分的に解消できたとHe氏は述べた。具体的には、営業利益が四半期比でほぼ倍増、クラウド収益は、前年比79%増(中国クラウド市場全体の成長率のおよそ2倍)、さらに、前年第3四半期以降、営業キャッシュフローが正に転じているという。
He氏は、AI投資においては「1ドルの投資から実際にキャッシュが回収されるまで20〜40ヶ月程度を要する」とし、CFOとしては単年度ではなく投資のライフサイクル全体でROIを見極める必要性を強調した。
5. 検索事業の構造変化 ― 収益比率が初めて50%を下回る
バイドゥの収益構造にも変化が見られる。He氏によれば、検索事業は、依然として収益の大きな部分を占めるものの、今四半期の収益比率は、48%まで低下し、初めて50%を下回ったという。一方で、デジタルヒューマンやAIアプリケーション・ソフトウェア事業が急速に成長しており、新たな収益の柱として育っている。
6. ロボタクシー事業「Apollo Go」― Waymoとの直接対決
ロボタクシー事業についても具体的な数字が示された。Alphabet傘下のWaymoは、サンフランシスコを含む複数都市で週50万回超の完全自動運転ライドを提供している。一方、バイドゥのApollo Goは、2026年第1四半期に320万回の完全無人運行ライドを提供し、3月には週35万回超のピークを記録した。さらに2026年5月時点でグローバルフットプリントは27都市に拡大しており、ピーク週ベースではWaymoの約7割の規模まで迫っている。
He氏は、ロボタクシー事業の競争力を決める要因として「技術力」と「運営効率」の2点を挙げ、配車拠点の効率性や充電ネットワークの設計が重要だと説明した。また、UberやLyftとの提携により、ロンドンを含む新市場への展開も進めているとした。
7. 半導体事業の香港スピンオフを公式に言及
番組終盤、He氏は、バイドゥの半導体事業について、香港での機密ベースのスピンオフ申請を既に提出し、手続きを進めていることを明らかにした。チップ事業を独立した上場企業とすることで、顧客がより中立的・独立した立場で製品を評価・採用しやすくなるとの考えを示している。
He氏自身、財務出身ではなく、学士・修士ともに半導体設計を専攻していたという経歴を持つ点も、この事業への思い入れの背景にあるようだ。

