トイレ大手TOTOがAI銘柄に ― セラミック事業が住宅機器を逆転、英アクティビストが「過小評価」と指摘
「AIブームの勝者」と聞いて、トイレメーカーやMSG(うま味調味料)を発明した化学会社を思い浮かべる人はまずいないだろう。だが、Bloomberg Tech Asiaが報じた内容によれば、AI関連の資金調達と半導体サプライチェーンの深掘りが進む中で、こうした「意外な企業」がアジア株式市場で存在感を増している。本稿では、ビジネスマン・投資家の視点で、AI資金調達の全体像と、サプライチェーンの上流に潜む投資機会を整理する。
1. かつてない規模のAI資金調達ラッシュ
2026年のAI業界を特徴づけているのは、株式・債券市場を通じた資金調達の規模だ。SpaceXは750億ドル規模のIPOで年間最大のディールとなり、続いてOpenAIとAnthropicの上場も視野に入っている。
「Alphabetは最大850億ドルの株式調達に加え、すでに約500億ドルの債券を発行済みだ。NvidiaやOracle、Amazon、IBMを含む企業群も債券市場での資金調達に動いている」
State Street Investment ManagementのAIPAC投資戦略・リサーチ責任者Ninghui Liu氏は、この資金フローの恩恵を最も大きく受けるのはアジアになるとの見方を示した。
1-1. なぜアジアが「最大の勝者」なのか
Liu氏は、AIが単なるソフトウェアの物語ではなく、根本的に「物理的なハードウェアの物語」であると説明する。
「新しい技術を導入する際、まずプロセス・オブ・コンセプトの段階がある。それを実体経済への実際のインパクトに変えるには、AIをスケールさせる必要があり、そこにアジアが入ってくる」
Jensen Huang氏が言及した「5層のAIケーキ」――エネルギー・パワー層からチップ、アプリケーション層までの全サプライチェーン――を踏まえれば、当初はハイパースケーラーとチップメーカーに限られていた投資対象が、ボトルネックの移動とともに上流・下流へと広がっていく構図がよく分かる。
2. ボトルネックは「チップだけ」ではない
AI Supply Chain ResearchのリードであるSemiAnalysisのMyron Xie氏は、ボトルネックがサプライチェーン全体に広がっていると指摘する。
2-1. 基板(サブストレート)という見えない制約
「基板はチップの下にあり、信号と電力をチップから取り出す役割を持つ。この分野はアジアのメーカーが支配的で、AIチップの出荷増加に伴いチップ自体が大型化・複雑化し、歩留まりが下がっている。これがセクター全体の急激な引き締まりを引き起こしている」
2-2. ウェハーとDRAMの構造的な逼迫
ロジック製造用ウェハーは日本企業が支配的な分野であり、Xie氏は需要が供給増を上回り続けていると説明する。さらに最大のボトルネックとして挙げたのがDRAMだ。
「DRAMの供給は非常に限られており、構造的な理由がある。従来型DRAMの供給を増やす能力には限界がある。これがAIサーバーの出荷を制約する統計的に最も重要なテーマだと見ている」
製造の複雑性も大きな要因だ。ファブの建設にはクリーンルームの構築や、ASMLのようなリトグラフィー装置の限られた生産能力という制約が重なる。さらにXie氏は人材不足にも言及している。
「これだけの作業を回せるエンジニアの数は限られている。クリーンルームも人も、すべてが引き締まっている」
2-3. 集中から分散への移行
一方で、需要の強さが新たなプレイヤーへの「スピルオーバー」を生んでいるという。
「需要が非常に強いため、IntelやSamsungのような従来の支配的プレイヤーからアウトソーシングする動きが増えている。空き容量を持つプレイヤーへ需要が流れ込んでいる」
中国は独自の国内サプライチェーン構築に注力しているが、品質面では既存のグローバルリーダーにまだ及ばないとXie氏は評価している。
3. 「意外なAI銘柄」たちの正体
3-1. TOTO ― トイレメーカーがセラミック事業で評価される理由
日本のTOTOは温水洗浄便座で世界的に知られるが、いま注目されているのは腐食性物質や高温に耐えるセラミック事業だ。英国のアクティビスト投資家は、これを「最も過小評価され、見過ごされているAIメモリの受益者」と評している。
Palliser CIOのJames Smith氏は、この発見の経緯をこう語る。
「TOTOの製品セグメントは独自性が高く、市場シェアも高い。我々にとって発見が遅れたのは、それが衛生機器事業に付随していたからだ。これがまさに投資機会を生んだ」
価格戦略についても柔軟性があるとSmith氏は指摘する。
「チップ絶縁材製品の価格を上げたばかりだが、企業ごとに状況は異なる。独自性のある製品を持つ企業には、価格を上げる十分な余地がある」
3-2. ABF ― 100年前の発明が支える絶縁材の覇権
MSGを100年以上前に発明した企業を母体とするABFは、チップ製造に欠かせない絶縁材料を手がけ、データセンターサーバー向け絶縁材の世界シェア90%超を握る。
Smith氏は、Palliserが最近台湾で新たに発表したポジションについても説明している。
「その事業の真髄は、AIサーバー内のPCBスタックに焦点を当てた子会社にある。Nvidiaがデータセンターアーキテクチャをどう変えていくかに注目しながら、AIスタックを追いかけている」
このPCB分野での市場シェアは45%に達し、なおバリュエーションは大きく割安だという。
3-3. 経営陣の変化 ― 日本企業の「対話への応答性」
Smith氏は、日本企業のガバナンス姿勢が変化していることにも触れている。
「TOTOのような企業は、我々の提案に非常に応答的だった。対話と協業の度合いは非常に大きく、過去の日本企業との経験とはかなり異なる」
これは単純な業績テーマだけでなく、コーポレートガバナンス改革とバリュエーション見直しという構造的な追い風が重なっている点を示している。
4. 投資家への示唆 ― サプライチェーンを上流から見る視点
今回紹介された動きから読み取れる投資的含意は3点に整理できる。
第一に、AI関連株のテーマは「チップメーカーとハイパースケーラー」という第一波から、メモリ・パッケージング・素材という第二波、さらに基板・絶縁材・ウェハーといった上流の「見えないボトルネック」へと拡大している。
第二に、日本市場特有の追い風として、ガバナンス改革とバリュエーション再評価という構造的トレンドが、AI関連需要と重なり合っている。
第三に、価格決定力を持つニッチ市場のプレイヤー(市場シェア90%超、95%超など)は、需要が供給を上回る局面で持続的な価格上昇力を発揮しやすい。
これらの企業は単独では目立たないが、サプライチェーンの結節点を押さえている点で、AI投資テーマの「次の層」を体現している。チップそのものへの投資が一巡したと感じる投資家にとって、上流の素材・部材セクターは依然として再評価の余地を残しているといえるだろう。

