韓国レバレッジETFの教訓とJane Streetの沈黙 ― 米国株式市場で進行する構造変化
2026年6月、韓国KOSPIの急落をきっかけに世界の株式市場が動揺した。だが表面的な値動きの裏では、レバレッジ商品をめぐる規制の失敗、26年間沈黙を守ってきたトレーディング会社の「告白」、そして、大型ハイテク株と中小型株の間で進行する資金シフトという、より構造的な変化が起きている。本稿ではYouTube番組「What Are Your Thoughts?」(The Compound)で取り上げられた内容を、投資家視点で整理する。
1. 韓国市場急落の正体 ― レバレッジETFという火薬庫
KOSPIは、前日比10%安、半導体株を中心とするKOSDAQも9%安となった。ホストのMichael Batnick氏は、背景を説明する。「韓国の株式市場全体が、AIデータセンター建設というテーマに完全に支配されてしまっている。SamsungとSK Hynixだけで指数の半分以上を占めている」
1-1. 規制当局トップ自らの「後悔」発言
注目すべきは、規制当局自身が問題を認めた点だ。韓国の市場監視機関トップであるイ・チャンヨン氏は、「レバレッジファンドの承認において、政府は性急すぎた」と発言した。これらのファンドは、先月承認されたばかりで、ボラティリティの増大に直接関与しているとされる。
1-2. 8日間で42%下落という実例
具体的な数字が、この問題の深刻さを物語る。6月12日にローンチされた「3倍SKハイニックス・ロング型ETP」は、わずか8日後の当日、一日で42%下落した。Josh Brown氏は、この規制環境について「米国でもSECが規制緩和を進め、同種のレバレッジETFの承認が急増している」と警告している。
2. 半導体株の過熱と急激な巻き戻し
韓国市場の動揺は、米国の半導体株にも波及した。
2-1. 200日移動平均線からの「68%上方乖離」
Batnick氏は、半導体指数が、200日移動平均線から68%も上方に乖離しており、これは過去25年間で最も「伸び切った」状態だと指摘する。この日、Micronは13〜14%下落、SanDiskは13%上昇、Western Digitalは9%下落という、極端な値動きが観測された。
2-2. Micronの「4倍ジェットコースター」
Micronの値動きは特に印象的だ。3月の決算発表前、株価は460ドルで取引されていたが、決算内容は予想の2倍という強い内容だったにもかかわらず、その後3週間で310ドルまで下落した。しかし、4月以降は反転し、直近では1200ドルまで上昇、つまり、安値から4倍に達した。Brown氏は、「決算翌日に20〜30%の損失を抱えて売った人たちが、その後株価が4倍になるのを見ているはずだ」と振り返り、こうした極端な値動きの教訓として「こういう株を取引すべきではないと、その瞬間に痛感するはずだ」と述べている。
3. Mag7と「その他493社」の逆転現象
今年の株式市場で最も注目すべき構造変化が、巨大テック企業群(Mag7)と残りの493社の間で起きているパフォーマンスの逆転だ。
3-1. S&P500を支えているのは誰か
データによれば、年初の6846ポイントから現在の7473ポイントまで、S&P500が獲得した628ポイントのほぼ全てを「その他493社」が稼いだ一方、Mag7全体としては、ほぼ横ばい(年初来微増)にとどまっている。Batnick氏は、「その他493社は年初来14〜15%近く上昇している一方、Mag7はフラットだ。この差は拡大している」と説明する。
3-2. ハイパースケーラーの「フォワードPER低下」
この逆転の背景には、巨大テック企業のフリーキャッシュフローの急減がある。Meta、Amazon、Google、Microsoftの平均フォワードPERは、ピーク時の29倍から現在21倍まで低下した。原因は、各社が収益のほぼ全てをCapEx(設備投資)とR&Dに投じているためだ。番組では、Metaについて「収益のほぼ90%が支出に向かう見通し」と紹介され、市場がこれを好感していない実態が示された。
4. Jane Street、26年間の沈黙を破る理由
ウォール街で最も謎に包まれた取引会社の一つ、Jane Streetが初めてメディアに自社の存在を語り始めた。Wall Street Journalのレポーターであるグレッグ・ザッカーマン氏の記事を基に、番組は同社の実態を紹介している。
4-1. 圧倒的な収益性
Jane Streetは、Q1において、160億ドルの取引収益から103億ドルの利益を上げた。これはMorgan StanleyとGoldman Sachsが同四半期に稼いだ利益(各56億ドル、合計約112億ドル)に匹敵する規模である。しかも両投資銀行は、合計13万人の従業員を抱える一方、Jane Streetの従業員数は、約3500人に過ぎない。
4-2. なぜ今、初めて語るのか
26年間沈黙を守ってきた同社が方針を変えた理由について、番組は次のように説明する。「優秀なAIエンジニアを獲得するために、自社がそれに値する計算資源と資本力を持つ会社だと知ってもらう必要があったからだ」。同社は今年500人の新規採用を計画しているという。実際、同社は、CoreWeaveに10億ドルを投資し、同社のAIクラウド基盤に60億ドルを支出する契約を結んだ際、CoreWeave側にプレスリリースでの公表を依頼したというエピソードも紹介された。なお同社は、破綻したFTXの資産から2024年にAnthropicの株式を取得しており、非公開企業株式ポートフォリオの評価額は200億ドルに達するとされる。
5. 小型株の反転 ― ただし「歴史は繰り返す」との警戒も
Mag7の劣後と並行して、小型株・中型株のアウトパフォームが鮮明になっている。
5-1. ラッセル指数リバランスの影響
番組では、小型株/大型株比率の反転が今年1月から続いていたトレンドの「ブレイクアウト」段階に入ったと指摘された。一方、Brown氏は、今月末に予定されるラッセル指数の定期リバランスで、Micronのような大型化した銘柄が小型株指数から除外される可能性に言及し、「この反転が本当に構造的なものか、それとも単なる指数分類の問題なのか」を慎重に見極める必要があるとした。
5-2. 過去のパターンへの警戒
Batnick氏は「歴史的には、こうした小型株ルネサンスは3〜6カ月程度しか続かない」と指摘し、「Mag7が再び勢いを取り戻せば、このトレンドは急速に反転する」と冷静な見方を示している。
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