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DeepMind創業者Demis Hassabis氏が語るAGIの現在地 ― 人材競争・リスク・創造性の行方

カンヌライオンズの会場で行われたインタビューで、Google DeepMindのCEO Demis Hassabis氏が、AGI(汎用人工知能)開発の現状、業界が抱えるリスク、そしてAIと創造性の関係について語った。AI業界の競争構造が激化する中、長年フロンティアに立ち続けてきた人物の発言は、投資家・ビジネスマンにとって重要な視点を提供する。


1. AGIへの道筋 ― マルチモーダルか、テキストベースモデルか


インタビューはまず、AIモデルに対する規制の議論から始まった。一部のテキストベースモデル(脆弱性発見やソフトウェア作成が可能なモデル)がワシントンで規制対象になっている状況を踏まえ、AGIへの道筋がCloud Mythosのような自己改善型テキストモデルにあるのか、それともGeminiのようなマルチモーダルアプローチにあるのかが問われた。

1-1. リスクへの警鐘

Hassabis氏は、まず、リスクの側面に言及した。「AGIに近づくにつれて、もっと体系的なアプローチが必要だと長らく訴えてきた。我々は、今、特異点の麓にいるとも言える」。同氏は、サイバーリスクを「人類への警告射撃」と位置づけ、「バイオ、核、その他のリスクが今後数年で来るだろう。我々はその準備をしなければならない」と述べた。さらに、フロンティアシステムの安全性を検証する国際的な標準化機関の必要性にも言及している。

1-2. マルチモーダルへの賭け

技術的なアプローチについては、DeepMindが、常に「複数の選択肢に賭け、それぞれを全力で推進する」戦略を取ってきたと説明する。Geminiのスケーリングやコーディングへのフォーカスはもちろん、OmniやVeoといった生成メディアモデルにも力を入れている理由は、「完全なAGIシステムには、身の回りの物理世界を理解する能力が必要」だからだという。ロボティクスやスマートグラス上のアシスタントといった応用には、この物理世界理解が不可欠であると同氏は強調した。

2. AI人材獲得競争 ― DeepMindの優位性


DeepMindが2010年の創業から15年あまりを経て、現在は複数の競合がフロンティアを争う構図になっている点について、Hassabis氏は自信を見せている。

2-1. 「ブレイクスルーの9割以上」という主張

Hassabis氏は、「過去10年における主要なAIのブレイクスルーの90%以上は、Google BrainかDeepMind、そして、現在のGoogle DeepMindから生まれた」と述べ、大規模言語モデルの基盤となるTransformerから、AlphaGoに代表される強化学習研究まで、その系譜を説明した。

2-2. 「最も競争が激しい市場」という現状認識

一方で、同氏は、人材の流動性についても率直に認めている。「全ての主要研究機関の間で人材の移動は活発だが、我々は公平な分け前を獲得している」とし、「現在の市場は、テック業界史上、おそらく最も熾烈な競争状態にある」と評した。同氏は、2010年の創業当時、AI研究が「キャリアの自殺」とまで言われた時代を振り返り、「少数の我々だけが、適切なアイデアと学習システム、強化学習、ニューラルネットワークへの賭けで、急速な進歩が可能だと感じていた」と述べている。

3. 生成AIと創造性 ― クリエイティブ産業への影響


カンヌという広告・クリエイティブ産業の祭典という場にふさわしく、対話は生成AIツールが創造性に与える影響にも及んだ。

3-1. 「ライブ編集」という変化

Hassabis氏は、過去1年間で最も大きな変化として、OmniモデルやNano Bananaのような画像ツールにおける「生成結果をライブで編集する能力」を挙げた。「自然言語で、デザイナーに指示するように『この部分はそのままで、ここを変えて』と伝え、何百回も繰り返しながら最終的な仕上がりに到達できる」ようになった点が、クリエイターにとって大きな進歩だという。

3-2. ディープフェイク対策としてのSynthID

生成コンテンツの真偽判定についても触れられた。Hassabis氏は、DeepMindが数年前から開発してきた電子透かし技術「SynthID」について説明する。「画像に知覚できない形で埋め込まれる、改ざんが困難な透かし技術で、ジャーナリストや政府機関を含む誰もが、その画像がAI生成かどうかを検出できるようにした」。同氏は、この技術をオープンソース化し、OpenAIやNVIDIAを含む業界各社が標準として採用していると明らかにした。さらに、将来的にはこうした出所証明(プロベナンス検出)が生成メディアに関する規制の一部になるべきだとの見解も示している。

3-3. AI学習データと新たな経済モデルの必要性

クリエイターへの補償問題についても言及された。Hassabis氏は、AIモデルが人間の創作物を学習データとして使っている点への批判を認めつつ、「新たな経済モデルが必要になるかもしれない。それはストリーミングが音楽業界を変えた時や、YouTubeのContent IDのような仕組みが生まれた時と同様だ」と述べた。一方で、創作物のどの部分が何パーセント影響を与えたかを客観的に特定することの難しさも指摘し、「人間の創作活動自体も、我々が経験し学んできたあらゆるものの出力である」という視点を提示している。

4. 科学とAGIの接続 ― 「アインシュタイン・テスト」という思考実験


Hassabis氏が提唱する独自の創造性の定義として「アインシュタイン・テスト」が紹介された。これは、アインシュタインが持っていたデータ(1901年までの情報)だけをAIに与え、相対性理論のような新しい科学的仮説を生み出せるかを試す思考実験だ。

4-1. 視覚的思考の重要性

Hassabis氏は、アインシュタイン自身が特許事務所の職員時代に「光速で移動する列車に乗っていたらどう見えるか」といった視覚的な思考実験を繰り返していたことに触れ、「真に新しい科学的仮説を提案し、それを検証する新たな実験を構想するには、ビット(論理)の世界だけでなく、原子(物理世界)の世界への理解が必要になる」と述べた。

4-2. 神経科学者としての出発点

この視点は、Hassabis氏自身が2007年に発表した著名な研究――海馬を損傷した患者が記憶だけでなく未来を想像する能力も失っていたという発見――に遡る。同氏はこの研究から、「記憶とは録画ではなく再構築のプロセスであり、想像力も同じ脳のメカニズムを使っている」という仮説を導き出したという。この神経科学的な洞察が、現在のAIモデル開発における「世界理解」というテーマにつながっている。

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