「モデルは製品ではない」——Perplexity CEOが語るAI覇権の本質と投資の勝ち筋
「最も失敗しそうな会社」にサンフランシスコの集会で選ばれながら、その後売上を3倍に伸ばし、バーンレートを50%以上削減した企業がある。Perplexityだ。
同社の共同創業者兼CEOアラヴィンド・スリニヴァスが、ポッドキャスト「Sorcery」のハリー・スティビングスとのインタビューで語った内容は、AI業界の構造と投資機会に関して、多くの示唆を含んでいた。本記事ではその核心を整理する。
1. 「攻撃、攻撃、攻撃」——創業者マインドセットの原点
1-1. インドの下層中間層から200億ドル企業へ
アラヴィンドは、インドの「経済的な下層中間層」の出身であり、家族にとっての成功の定義は、Googleに就職することだったと語る。「私の人生はすでに想像を超えている。だから失うものが何もない」という姿勢が、彼の経営スタイルの根底にある。
「守りに入ることは最も愚かなことだ。全力で攻め続けるしかない。攻撃、攻撃、攻撃——それが私のモットーだ」と彼は言う。
1-2. GoogleのホームページをどのPMよりも変えた
「Perplexityは、Googleの社内にいたどのプロダクトマネージャーよりも、Google.comを変えた」とアラヴィンドは述べる。250億ドルの収益を生む検索インターフェースに誰も手をつけようとしなかった中、Perplexityが、「アンサーエンジン」という概念を世に示したことで、Googleは、AIモードの導入を迫られた。
「今のGoogleのAIモードを見てほしい。フォント、引用、インラインテキストの太字、インラインリンク、フォローアップ提案——すべてPerplexityと同じだ。ただ、まだ品質は追いついていない」と彼は指摘する。
2. 「モデルは製品ではない」——AIの本質的な価値はどこにあるか
2-1. オーケストレーション問題という最重要課題
OpenAIのグレッグ・ブロックマンが、「モデルはもはや製品ではない」とツイートしたことをアラヴィンドは引用し、同意を示す。「モデルを単にトークンとして再販するだけなら、ビジネスは成立しない。モデルはコモディティ化する」というのが彼の見立てだ。
真の価値は、「オーケストレーション」にある。モデルを適切なコンテキストに接地させ、エージェントハーネス(エージェントループの実行ルール、スキル、ツール、コネクターの集合体)と組み合わせ、ユーザーに統合された体験として届けること——これこそが差別化の本質だとアラヴィンドは語る。
2-2. Perplexityの独自優位性:複数モデルのオーケストレーション
「Anthropicのモデルは、Codexハーネスに入らない。OpenAIのモデルは、Claude Codeハーネスに入らない。競合しているからだ。しかし、Perplexity Computerには両方のモデルが入る。そこが差別化だ」とアラヴィンドは語る。
彼が提示する最も重要な指標は、「ワットあたり・ユーザーあたりのトークン価値(token value per watt per user)」だ。同じ電力消費量で、最も価値の高い出力トークンを生成できる企業が最大の競争優位を持つという論理だ。
2-3. 「フロンティア」の定義の変化
「フロンティアとは、フロンティアモデルのことではない。AIで今現在実現できる最も価値の高いアウトカムのことだ」とアラヴィンドは述べる。現在のフロンティアは、「質問に答えること」ではなく、「あなたの代わりに実際の仕事をこなすこと」にある。ディープリサーチ、エージェントループ、自律的なソフトウェアエンジニアリングが今後の競争軸だ。
3. 広告モデルへの懐疑論——なぜチャットUIに広告は馴染まないか
3-1. Googleの広告主は誰で、なぜそこから動かないのか
アラヴィンドは、Googleの最大広告主が、AmazonとBooking.comであることを指摘する。「あなたはホテルをChatGPTで予約しているか、それともGoogleで予約しているか?」という問いに対し、多くの人はGoogleを選ぶ。それは「発見と探索」のプロセスが、会話型インターフェースよりも検索インターフェースに適しているからだという。
「意思決定が主観的でバイブス(感覚)に基づくものは、チャットUIではなく探索型UIのほうが適している」——これがチャット広告が機能しにくい理由だとアラヴィンドは分析する。
3-2. 非広告収益の爆発的成長
一方で、アラヴィンドは、「広告以外のサブスクリプションや従量課金収益において、AIエージェントは、最終的にGoogleやMetaの広告収益を超える規模になる」と予測する。「これは必ず起きる」と彼は断言する。
4. MicronはMetaより価値を持つ——ボトルネック投資論
4-1. 「ボトルネックを制する者が勝つ」という原則
アラヴィンドの投資論の核心は、「ボトルネック」の概念にある。「ボトルネックになっているものは価格決定力を持つ。今はHBM(高帯域幅メモリ)が5倍のコスト増加を見せており、これが引き続きボトルネックだ」と彼は語る。
さらに、注目すべきはCPUだ。「エージェントループは、CPU上で動く。Claudeがコーディングスクリプトを生成して500個のファイルをダウンロードしデータを処理するとき、その作業はすべてCPUが担う。エージェントは人間よりもCPUを使う」とアラヴィンドは指摘し、AMDやIntelの復権を示唆した。
4-2. MicronがMetaを超える可能性
「Micronは、すでにMetaの時価総額(約1.3〜1.4兆ドル)に近づいている(約1兆ドル)。この差は縮まり、逆転する可能性がある」とアラヴィンドは述べる。理由はシンプルだ——メモリが引き続きAIインフラの主要なボトルネックであり続けるからだ。
Metaについては、「Capex支出を増やしているが、それがMetaにとってどれだけ直接的にAI収益に結びつくかは未証明」と評価し、現時点では投資対象としての魅力において、インフラ企業の方が優位にあると示唆する。
5. 輸出規制が中国を強化した逆説
5-1. 輸出規制の短期効果と長期リスク
「輸出規制がなければ、オープンソースモデルとフロンティアモデルの間に12ヶ月の差はなかったかもしれない。短期的には効果があった」とアラヴィンドは認める。
しかし、同時に、「輸出規制によって中国は独自のハードウェアスタックの構築を余儀なくされ、メモリ効率化やKVキャッシュの革新など、Nvidiaやビックテックが採用しない方向での技術的進化を遂げつつある」と指摘する。
「彼らは独自のハードウェアに垂直統合されたモデルスタックを構築している。これはアメリカが賭けているものとは全く異なるベットだ」とアラヴィンドは述べる。
5-2. データセンター建設の最大ボトルネックは「電力」と「世論」
「今後3年の最大のボトルネックは電力だ。そして、データセンター建設への抵抗が今後も続き、悪化すると思う」とアラヴィンドは予測する。
抵抗の背景には「データセンターが水や電力を大量消費する」という誤解があると彼は言うが、その根底にあるのは雇用喪失への恐怖、富の不平等への怒り、環境への懸念など、複合的な感情だと分析する。現時点で「100件中40件のデータセンター建設が世論の反発で実現していない」と彼は推計する。
6. 10年後の投資先——SpaceX vs Anthropic vs OpenAI
6-1. アラヴィンドの答えはSpaceX
「10年間保有するならSpaceX一択だ。AnthropicとOpenAIはお互いのやっていることを主張し合えるが、SpaceXは宇宙インフラを構築する唯一の企業だ。Starlinkは一度使ったらない飛行機には戻れない。それはビジネスの一側面に過ぎない」と彼は語る。
6-2. エンタープライズSaaSへの警告
「Anthropicは、6年でMetaと同等の評価額(約1〜1.5兆ドル)を実現した。Metaは20年かかった。この速度を見ると、既存のエンタープライズSaaS企業は嵐に備える必要がある」とアラヴィンドは述べる。
Salesforceは、M&Aを続けることで生き残ってきたが、「同じソフトウェアを売り続けるだけでは生き残れない」と彼は断言する。
7. Perplexityの今後——オーケストレーターとしての野望
7-1. 自社モデルのトレーニングでコスト削減へ
「現在のコスト非効率の最大要因は、フロンティアモデルへの支払いだ。オープンソースモデルをベースにファインチューニングすることで、現在のプロダクトで使っている機能については自社モデルに切り替え、コストを大幅に下げる」とアラヴィンドは明かす。
今年に入ってから売上は3倍以上に成長し、バーンレートは50%以上削減した。「最も失敗しそうな企業」の烙印を押された直後の数字だ。
7-2. 「会社をAGIにする」という構想
「Perplexityの内部をほぼAGIとして機能させたい。各部門が人間のサポートを受けながら半自律的に動くエージェントによって運営される形だ」とアラヴィンドは語る。
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