「好奇心」がAI時代の最も希少なリソース——Perplexity幹部が語る組織とビジネスの再設計
AIツールは急速に普及しているが、それを使いこなせる人と組織の差は広がっている。PerplexityのチーフビジネスオフィサーであるDmitry Shevelenko氏が語るのは、単なる生産性向上の話ではない。AIエージェントが「デジタルワーカー」として機能し始めた今、組織の設計、人材評価、さらには、ビジネスモデルそのものが変わりつつあるという話だ。
Perplexityは、現在、ARR(年間経常収益)が5億ドルを超えたと公言しており、ゴートゥーマーケット(GTM)チームはわずか7人、カスタマーサクセス担当は2人で5万社以上のエンタープライズ顧客を支えている。この数字の背景に何があるのかを、インタビューの内容をもとに整理する。
1. 検索からエージェントへ——AIの「使われ方」の転換
1-1. キーワード検索から自然言語、そして「自律作業」へ
Shevelenko氏は、AIの進化を3段階で整理する。最初はGoogleに代表されるキーワード検索と結果としてのリンク一覧。次に、Perplexityが先導した「自然言語で質問し、答えを返す」形式。そして、今、私たちは「ワークフローの実行」と「デジタルワーカーとしてのAI」という段階に入りつつあるという。
「答えが返ってくること自体、もはや12ヶ月前の話に感じるくらい、加速が続いている」と同氏は述べた。
従来の検索行動が消えるわけではない——テレビCMからデジタル広告への移行が何年もかけて起きたように、旧来の習慣は長く残る。しかし、フロンティアにいる人間にとって、それはすでに「やらなくなった行動」になりつつある。
1-2. Perplexity Computerの社内活用から学んだこと
Perplexityでは、自社開発のエージェントツール「Perplexity Computer」を最初にSlackの単一チャンネルで社内展開した。全員が同じ場所でプロンプトを送り、スレッドで結果を確認する、ある意味「手作り感」のある仕組みだ。
しかし、この形式が意図せず大きな効果をもたらした。全員がお互いのプロンプトと活用方法を見ることができたのだ。あるチームメンバーのアイデアが別のメンバーへと波及し、組織全体でAI活用のノウハウが自然に共有されていった。
「以前なら誰かにSlackを送ったり、メールを書いたりして次のステップを人に委ねていたことを、Computerで始められるようになった」とShevelenko氏は語る。
2. 「全員がエグゼクティブになった」——AIが変える組織設計
2-1. コンピュート予算という新しい概念
Shevelenko氏が提示する思考実験は明快だ。AIエージェントを「デジタルワーカー」として捉えれば、それを持つ社員全員が「100人のスタッフを抱えるエグゼクティブ」になったと同じだ。すると、エグゼクティブに対して、「与えた100人のヘッドカウントで何をやったのか」と問うように、「コンピュート予算をどう使ったか」が評価の軸になる。
「近い将来、優秀な人材が入社する際に『月次コンピュート予算はいくら出してもらえますか』と聞く時代が来る」と同氏は述べた。これはNVIDIAのジェンスン・ファン氏も似た文脈で言及している考え方だという。
最も活発にComputerを使っているのは、CEOや経営幹部など上位職層だとも明かした。「彼らはもともと人に仕事を委任し、オーケストレーションすることに慣れている。エージェントへの委任も自然にできる」という。
2-2. 少人数で大規模組織と同等の動きをする
Perplexityの実例として挙げられたのは、月次決算(月末クローズ)を1人の担当者で回していること。ARR5億ドル超、調達総額5億ドル以上の組織でこれを実現しているというのは、確かに注目に値する。
また、エンタープライズ向け製品を購入している5万社以上のビジネス顧客に対して、GTMチーム7人・CSチーム2人という体制で対応している。「一人のエージェントができあがった後、それを活用する人間が一人いればいい。自動化するのは人ではなく、ワークフロー全体だ」という考え方が根底にある。
3. AIとROI——コスト管理と投資判断の新しい枠組み
3-1. AIをITコストではなく「人件費の延長」として見る
Shevelenko氏は、AI予算の考え方について、「従来のITコストとして捉えると本質を見誤る」と指摘する。AIへの投資は給与総額(ペイロール)に対するパーセンテージで考えるべきだという視点だ。
人材に対して最低2〜3倍のROIを求めるように、AIへの支出にも同様のROI基準を設けるべきだという。「1,000ドル使ったなら、何らかの形で組織に価値が返ってこなければならない」。単純だが、この基準を持っているかどうかで、AIへの投資判断が大きく変わる。
3-2. 使用量ベース課金の経済的インパクト
Perplexityは、「プロ月額20ドル」「マックス月額200ドル」という定額課金から、使用量ベース課金(クレジット制)へのシフトを進めている。その結果、一部のユーザーは年間2万〜3万ドルのランレートに達しているという。これはコンシューマーユーザーであり、エンタープライズ契約ではない。
「スケールする総ユーザー数を追うのではなく、年間2万ドル以上の価値を得られる数百万人を特定することが重要になってきた」とShevelenko氏は述べた。この発想は、従来のSaaSビジネスとは異なるユーザー獲得・育成の戦略を必要とする。
4. 好奇心——AI時代の「本当の希少資源」
4-1. なぜエグゼクティブが最もAIを使いこなすのか
Computerの最も活発なユーザー層が経営幹部であるという事実は、一見直感に反するかもしれない。しかし、Shevelenko氏の解説は明快だ。
「多くのナレッジワーカーは実は、やるべきことが足りていない。スパークが足りない。イニシアティブと主体性が足りない。エグゼクティブはやりたいことが山積みで、常に委任先を探している。だからエージェントとの相性がいい」
実装そのものがどんどん簡単になっていく時代、差を生むのはアイデアと主体性だ。「好奇心こそが最も重要なもの」というのは、Perplexityのブランドアイデンティティとして設定したものが、実際に本質だったと気づいたという。
4-2. 協働とクリエイティビティの連鎖
Slackチャンネルでの社内展開が有効だったのも、「他者のプロンプトを見ることで自分のアイデアが刺激される」という効果が大きかった。AIへのフィードバックの質、タスクの切り分け方、サブエージェントへの指示——これらは一人で磨くより、チームで共有・改善していくほうが速い。
「私たちは社会的な生き物だ。好奇心は他者のアイデアに触れることで育つ」とShevelenko氏は述べ、組織内でのAI活用の可視化と共有が重要だと強調した。
5. 広告モデルの放棄と、精度への投資
5-1. なぜPerplexityは広告をやめたのか
Perplexityは、かつて広告モデルを検討・実験したが、最終的に放棄した。理由は「広告の存在がコンテンツの信頼性を損なうと、ユーザーは思う」という実証的な発見だ。
「たとえ広告がオーガニックなコンテンツに影響を与えていなくても、ユーザーはそう信じない。広告があるだけで、画面上のすべてが汚染されたと感じる」とShevelenko氏は述べた。「信頼と精度」を軸に置く以上、広告は構造的に相容れないという結論だ。
5-2. 検索インフラへの独自投資
Perplexityは、モデルを自社開発していない代わりに、AIエージェント向けに特化した検索インフラ(ランキング・リトリーバル・インデックス)を独自に構築している。SamsungのBixbyへの提供や、大手AI企業(MAG7のうち4社)による本番環境での活用もあるという。
「ハルシネーションを愛した時代は終わった。今は一貫性と精度が求められる。検索とアキュラシーはAIのコンテキストレイヤーとしてますます重要になる」とShevelenko氏は語る。ユーザーのクエリがフィードバックとなって検索モデルを改善するデータフライホイールも、競合に対する優位性として機能しているという。
