テスラでも、Waymoでもない——"逆張り戦略"で年間270万台の自動車市場を狙う2社の静かな野心
2025年末から2026年にかけて、自動運転業界に静かな変化が起きている。話題の中心はWaymoやテスラではなく、英国発のWayve(ウェイブ)と、カナダ発のWaabi(ワービ)という2つのスタートアップだ。
どちらも「世界モデル(World Model)」と呼ばれるAI技術を核に据え、製造は自動車メーカーに任せ、ソフトウェアのライセンスで稼ぐという戦略を採る。派手さはないが、事業モデルとしての再現性と拡張性は高い。
This Week in StartupsのポッドキャストにWayve CEO・Alex Kendall氏とWaabi CEO・Raquel Urtasun氏が登場し、技術・ビジネス・資金調達について詳しく語った。本稿ではその要点を整理する。
1. 「世界モデル」とは何か——自動運転AIの核心技術
1-1. 世界モデルの基本的な役割
「世界モデル(World Model)」とは、現在の世界の状態と、ある行動を取った結果として世界がどう変化するかを予測するAIモデルだ。
自動運転に応用した場合、クルマが進む道の先にある信号、車線、他の車両、歩行者などを予測することで、「何に注意すべきか」をモデル自身が学習する。空の雲や遠くの看板などの無関係な情報は自動的に無視されるため、効率的な判断が可能になる。
Wayve CEO・Alex Kendall氏はこう説明する。「世界モデルは、強力な表現学習の手法であり、同時にシミュレーターとしても機能します」
1-2. シミュレーターとしての使い方
世界モデルは、仮想環境として機能し、実際の道路を走らなくてもAIが「経験を積む」ことができる。雨天、夜間、霧、センサーの配置が異なる車両など、あらゆる状況を仮想的に生成し、AIドライバーをテストすることが可能だ。
Waabi CEO・Raquel Urtasun氏は、この点を重視している。「現実世界では何年、場合によっては何百年もかかる実験を、クラウド上で並行して実行できる。それが世界モデルの価値です」
2. Wayveのビジネス戦略——「逆張り」の技術と事業モデル
2-1. 2017年から続く「端から端まで(End-to-End)AI」へのこだわり
Wayveは、2017年の創業当初から、「エンド・ツー・エンド(E2E)学習」と呼ばれるアプローチを採用してきた。センサーから運転操作までをひとつのAIモデルで処理する手法で、当時は業界の主流ではなかった。
しかし、現在、この手法はテスラも採用し、業界のスタンダードとなりつつある。「かつては反対意見ばかりでした。今は業界全体が私たちのやり方を支持しています」とKendall氏は振り返る。
2-2. Nissan車の90%への搭載——その規模感
2026年初頭、Nissanは、Wayveの技術を自社車両ラインナップの90%に搭載すると発表した。Nissanは年間約300万台を生産するため、対象は約270万台に上る。
「これはテスラの年間生産台数の約2倍です。そして、これは、Wayveのパートナーの一社に過ぎません」とKendall氏は述べた。
2-3. ロボタクシーと消費者向けの両輪戦略
Wayveは、Uberと組んでロボタクシー事業も展開しており、ロンドン、東京、その他10都市でのスーパーバイズド(有人監視付き)ロボタクシー試験が2026年中に開始される予定だ。
2027年以降は、NissanやMercedes、Stellantisといたパートナーを通じて、消費者向け車両への搭載も始まる。
2-4. 3つのビジネスモデルの選択
自動運転を市場に投入する方法として、Kendall氏は3つの選択肢を整理した。
テスラ型:自社でクルマを作る。ただしブランドが限定される
Waymo型:都市ごとに自前のフリートを展開する。資本集約的
Wayve型:既存のOEMやフリート事業者にライセンスを供与する
Wayveが第三の道を選んだ理由は、「最も大きな市場に届けられるのはライセンスモデルだから」だ。
3. 自動運転の「どこまで解決されたか」問題
3-1. 「科学的リスク」は終わった
Kendall氏は、自動運転の進捗を「科学的リスク」「エンジニアリングリスク」「市場リスク」の3段階で整理する。
「科学的なリスクは、おおむね乗り越えました。これからはエンジニアリングの実行リスクと、製品統合・展開のリスクです」と語る。
ハンズオフ(手を離した)走行については、すでに世界500都市以上でのテストを経て商業化の見通しが立っている。一方で、アイズオフ(目を離した)走行や完全無人ドライバーレス走行には、まだ性能面での差がある。
3-2. 規制の整備も進む
2026年初頭、国連(UN)が国際自動運転規制の法的枠組みを整備した。これはアメリカと中国を除くほぼすべての国に適用される。Wayveは業界委員会の共同議長として、この規制策定にも関わっている。
4. 消費者はどう支払うか——価格モデルの模索
4-1. サブスクリプションへの移行
自動運転機能の料金モデルはまだ模索中だが、Kendall氏は、「最終的にはサブスクリプション型に収斂するだろう」と予測する。テスラは月額約1万5,000円の課金を行っており、一定の市場受容は証明されている。
「自分専用のプロのドライバーを車に持てる体験に、人は対価を払うと思います」とKendall氏は述べた。
4-2. 保険と責任の所在
自動運転に事故が伴った場合、誰が責任を負うか。Kendall氏は、「ハンズオフ走行ではドライバーが責任を持ち、アイズオフ・無人走行ではメーカーや事業者が責任を持つことになる」と説明した。Wayve自身は保険商品を提供するつもりはなく、あくまでAI技術の提供者に徹するとしている。
5. Waabiの戦略——トラックから始まり、ロボタクシーへ
5-1. 「世界モデル」を核にした単一プラットフォーム
Waabiは、高速道路でのトラック自動運転から出発し、現在は一般道でのロボタクシーにも展開している。Urtasun氏が強調するのは、「同じ頭脳(AIプラットフォーム)が両方に使える」という点だ。
「人間は車を乗り換えるたびに脳みそを入れ替えません。私たちのAIも同じです」と述べた。
5-2. ハブ&スポーク方式を否定
業界の一部では、高速道路区間のみ自動走行し、市街地は人間が運転する「ハブ&スポーク型」が採用されてきた。しかしWaabiはその手法を批判する。
「顧客が本当に求めているのは、ドアツードアの配送です。ハブ間の運賃に加えて、市街地部分の運賃を別途支払うモデルは、経済的に成り立たないケースが多い」とUrtasun氏は語る。
5-3. 現時点の事業規模と今後の展開
現在、Waabiは、北米でのトラック自動走行を商業運用中だ。フリートはダブルデジット(二桁台)の規模で、Uber Freightとの大型提携も結んでいる。
OEMパートナーのVolvoは「2027年に数百台規模のデプロイ」を公言しており、商業化のタイムラインは現実的なところまで来ている。
5-4. Uberとのロボタクシー契約——「上限」ではなく「下限」
Waabiは、今年、Uberのロボタクシーネットワーク向けに大型契約を発表した。注目すべきは、その規模の表現だ。「2万5,000台まで(up to)」ではなく、「2万5,000台以上(over)」、すなわち最低2万5,000台以上という表現が使われている。
「これはフロアであって、シーリングではない」とUrtasun氏は強調した。
6. 資金調達と財務戦略
6-1. Wayveの資金調達
Wayveは、総額15億ドル超(約2,200億円)を調達。NvidiaやQualcomm、ARM、AMD、Microsoft、Uber、Nissan、Mercedes、Stellantisなど、ハードとソフト両面の業界大手が出資している。
Kendall氏は、「現時点でフリーキャッシュフローが黒字になるまでの資本はすでに持っている」と述べ、追加調達の必要はないとした(ただし加速のための調達は排除しない)。
6-2. Waabiの「余裕ある」資金調達
Waabiは、最新ラウンドで10億ドル以上(約1,500億円)を調達した。Urtasun氏は「私たちには、億ドルが事実上の無限大のように感じられるほどの資本効率がある」と語る。
多額の資金調達を行った理由として、「市場に何らかの遅延が生じても揺るがない安定性を確保するため」「トラックからロボタクシーへの展開を同時に進めるため」を挙げた。
7. 「モビリティから物理AIへ」——より広い視野
7-1. 車以外への応用可能性
Kendall氏は、Wayveの世界モデルは、「ゼロデイ(新たなデータがほぼなくても)」他の領域に転用できると述べる。歩道配送ロボット、採掘車両、倉庫物流などで概念実証を完了済みだ。
Urtasun氏も同様の見方をしており、「物理AIのパワーハウスを作ることが最終目標」と明言した。
7-2. 「操作(マニピュレーション)」より「移動(モビリティ)」が先
最近、ヒューマノイドロボットなど「物を掴む操作系ロボット」への関心が高まっているが、Kendall氏は「移動のほうが操作より先に普及する」と予測する。
自動車産業のインフラ、センサー、Nvidia製GPU、ソフトウェア定義車両——これらの基盤はすでに存在する。移動の自動化は、工場内の操作ロボットよりも現実的なロールアウトが見込まれるという判断だ。

