SpaceXは「史上最大の企業」になるか——早期投資家ロン・バロンが語る投資哲学と長期展望
「この会社は将来、地球上で最大の企業になる」——こう言い切るのは、Baron Capitalの創業者兼CEOであるロン・バロン氏だ。彼は2017年からSpaceXへの投資を続け、約17億ドルの累計投資が現在約150億ドルの価値になったと語る。
2026年、SpaceXは、史上最大規模のIPOを計画している。本稿では、CNBCのスクワークボックスに出演したバロン氏のインタビューをもとに、同社の事業価値と投資家としての思想を整理する。数字の試算は同氏の個人的見解であり、確定的な予測ではない点に留意しながら読んでほしい。
1. ロン・バロンとは何者か——45年の運用歴が語ること
1-1. アイスクリームトラックから55億ドルへ
バロン氏のキャリアは決して華やかなスタートではなかった。若い頃はアイスクリームトラックを運転し、1982年にニューヨークでBaron Capitalを約1,000万ドルの運用資産でスタートさせた。それが1992年には1億ドルに到達し、現在は約55億ドル(正確には55億8,980万ドルと本人が補足)に達している。
1992年以来、クライアントと自社合わせて約61億ドルの利益を生み出してきた。その中で際立つのが、イーロン・マスク関連への集中投資だ。現在、SpaceXがファンド全体の約27.2%、テスラが8.4%を占める。合計で35%超がマスク氏関連企業という、異例の集中ポートフォリオだ。
1-2. テスラ投資の教訓——「4年越しの確信」
SpaceXへの投資を語る前に、テスラとの関係も整理しておきたい。バロン氏は、2010年のIPO時にマスク氏と出会ったが、確信を持つまでに4年かかった。2014年に「今がその時だ」と判断して初めて投資したが、その時点で株価はすでに25ドルから75ドルに上昇していた。
「株が2倍、3倍になっても一株も持っていなかった。その痛みに耐えられず、ようやく投資した」と語る。2014年〜2016年に約4億ドルを投じ、現在の利益は約80億ドルに達するという。
「テスラは、今後10年で2,000〜2,500ドルになると思っている」というのが彼の長期見通しだ。投資に確信を持つまで時間をかけ、確信が持てたら長く保有し続ける——これが彼の一貫したスタイルだ。
2. SpaceX投資の構造——なぜ非公開のまま大株主になれたか
2-1. テンダー制度という特殊な入口
SpaceXへの投資は、通常の株式購入ではなく「テンダー(入札)」を通じて行われた。SpaceXでは、全従業員が株主になれる仕組みがあり、年に2回、1回あたり約10億ドル規模のテンダーが実施される。
「株価が5億ドルになった優秀なエンジニアに、少し売って家族を守る現金を確保したらどうか、と促すわけだ」とバロン氏は説明する。Baronキャピタルは、このテンダーで最大規模の買い手として継続的に参加し、2017年以来17億ドルを投資してきた。
非公開のまま長期保有できたのも、この構造があったからだ。従業員の流動性確保という目的があるため、外部投資家を受け入れつつも、IPOを急ぐ必要がなかった。
2-2. IPOの概要と指数組み入れのスケジュール
SpaceXのIPOは、1.5〜1.75兆ドル前後の時価総額での上場が見込まれているとバロン氏は述べる。上場後5日・10日・15日のタイミングで段階的に各種インデックスへの組み入れが予定されており、機関投資家による購入圧力も見込まれるという。上場市場はNASDAQになる見通しとのことだ。
バロン氏自身は、IPO時点で10億ドルの追加購入を希望しているが、配分を受けられるかは不明だという。
3. SpaceXの事業構造——「宇宙インフラ独占」の論理
3-1. 再利用ロケットという根本的な革新
SpaceXの競争優位の出発点は、ロケットの再利用技術だ。従来の宇宙産業は使い捨てロケットを前提としており、再利用は、「ロケット需要が減る」という理由で誰も取り組まなかった。マスク氏はこのタブーを破り、実現不可能と言われた課題を達成した。
「不可能とされていた理由は、誰も本気で試みていなかったから」とバロン氏は語る。この再利用技術が、SpaceXのコスト構造を他社と根本的に異なるものにした。
3-2. Starlink——地球全体のインターネットになる可能性
再利用ロケットの成功が可能にしたのがStarlinkだ。現在10,000基の衛星を運用し、2万基に向けて展開中。顧客数は前年の900万人から今年は1,500万人に増加し、年率50%成長が続いているという。
バロン氏は、Starlinkが10年後に約3億人の顧客を持つ可能性を示唆し、企業向けや政府向けサービスを含めれば、年間収益1兆ドル規模に達する可能性があると述べる。利益率は、70〜80%が見込めるとし、「Starlinkだけで14〜15兆ドルの価値を持つ可能性がある」と試算した。
地上では、通信インフラの「ラストマイル問題」を解決しようとしており、スペクトラムの取得も進めているという。AmazonのKuiperについては、「競合にはなるが、ニッチな立ち位置に留まる」との見方だ。
「顧客の50%超を持つなら、あなたがインターネットそのものだ」というバロン氏の言葉が、Starlinkの戦略的な意味を端的に示している。
3-3. 宇宙データセンターという新市場
地上のデータセンター建設は、電力コストや水資源の問題で各地で反発を受けている。バロン氏はこの文脈で宇宙データセンターの優位性を指摘する。
宇宙では、太陽光を電力として直接利用できるため電気代がほぼゼロ。冷却も大型ラジエーターで対応でき、大量の水を必要としない。地上のインフラ制約とは無縁の環境だ。
この需要に応えるのが、Starshipだ。現在のFalcon 9が約17〜18トンを軌道に投入できるのに対し、Starshipは、200トンの輸送能力を持つ。この能力差が、宇宙インフラ構築のコスト・スピードを劇的に変える可能性がある。
4. TerapabとxAI——垂直統合の次の手
4-1. チップの自製——NVIDIAへの依存から脱却へ
マスク氏の企業群は、現在、NVIDIAが世界で供給するチップのわずか3%しか使っていないとバロン氏は述べる。それでも需要がひっ迫しており、必要量の50倍の計算資源が必要だという試算もある。
TSMCやSamsungへの増産要請では限界があるため、マスク氏は、「Terapab」と呼ばれる自社チップ工場の建設を進めている。NVIDIAが、80%近い利益率を維持している事実を見て、「自分でもっと安く、速く、シンプルに作れる」と判断したというのがバロン氏の解説だ。
4-2. Grokとコンピュート戦略
xAIのGrokについては、Anthropicとの対比で語った。バロン氏によればAnthropicは年率換算で9億ドルから45億ドルへ数カ月で成長しており、AI市場全体は27兆ドル規模に達するとの見方を示した。GrokはAnthropicと同様にコンピュートを重視する戦略をとっており、ソフトウェアに集中する他の競合と差別化を図っているという。
直近では、AnthropicがxAIのメンフィスのコンピュートを利用する契約を締結したとも述べた。
5. 「全力投資」の哲学と集中リスク
5-1. なぜここまで集中できるか
ポートフォリオの35%超をマスク関連に集中させることについて、バロン氏は「リスクは認識している」と認めつつも、確信の根拠を示す。
「130,000〜150,000人の優秀な人材がいる。毎年300〜500万人の応募者の中から30,000人を採用する。マスク氏が、会議室で『できる』と言えば、本当にできる」という組織への信頼がその根拠だ。
「私の全キャリアを通じて、これほどの投資先には出会ったことがない」というバロン氏の言葉は、単なる熱狂ではなく、45年間の経験との対比として受け取るべきだろう。
5-2. Jモルガンとロックフェラーの類比
バロン氏は自身の立場を、JPモルガンが、ロックフェラーを資金面で支援した関係に例えた。もちろん規模も立場も異なるが、「時代の変曲点を見抜いた上で長期的に関与する」という姿勢の類比として語った。
彼のスタンスは、「10年・20年先の姿を見て、今投資する」というものだ。IPO後の短期的な株価変動より、10〜20年後の企業価値を論点にしている点が、機関投資家の一般的な視点とやや異なる。

