スマートフォンの次へ——Qualcomm CEOが語る6G・AIデバイス・ロボティクスの未来
あなたがQualcommという名前を知らなくても、毎日その技術を使っている可能性は高い。スマートフォンのチップ、Wi-Fi、Bluetooth、4G・5G通信——これらの多くにQualcommの技術が組み込まれている。現在、世界で約50億台のデバイスがQualcommのチップで動いている。
フォーチュン誌のポッドキャスト「Titans and Disruptors」に登場したQualcommのCEO、Cristiano Amon氏は、「スマートフォンは、次のデバイスに主役の座を譲りつつある」と述べ、6G・AIウェアラブル・ロボティクス・データセンターという4つの分野での事業転換を語った。
本稿では、その発言を整理し、投資家・ビジネスパーソンが押さえるべきポイントを解説する。
1. 2026年は「エージェントの年」——AIの転換点とは何か
1-1. チャットボットからエージェントへ
Amon氏は、AI進化の現段階をこう整理する。
「2026年はエージェントの年だ。エージェントとは、あなたが何を望むかを伝えれば、デバイスやクラウドに入り込んで実際に動いてくれるものだ。これがAIをスケールさせる転換点になる」
従来のAIは、「質問に答える」ものだったが、エージェントは「代わりに行動する」ものだ。カレンダーの競合を検出して医師の予約を自動変更する、レストランの請求書をスマートグラスで見て支払いを指示する——このような低摩擦の体験が積み重なることで、AIが日常に溶け込んでいくと彼は見ている。
1-2. OSとアプリストアからエージェントへ——コントロールポイントの移動
Amon氏が強調するのは、産業の「制御の核心(コントロールポイント)」が変わりつつあるという点だ。
「これまでの制御の核心はOSとアプリストアだった。これからは、あなたがどのエージェントを選ぶかになる。一つのエージェントが支配するのではなく、複数のエージェントが並立する時代になる」
中国では、すでにByteDanceがエージェント内蔵スマートフォンを発売しており、ユーザーがテキストや音声で指示するとアプリを横断して自律的に動く体験が実現しているという。
2. 6G——「世界のデジタルツイン」を作る通信インフラ
2-1. 偶数世代は常に大きな転換点
Amon氏は、通信の歴史の中で「偶数世代(2G・4G・6G)」が常に大きな変革をもたらしてきたと指摘する。4Gがスマートフォン上での動画ストリーミングを可能にしたように、6Gは全く異なる体験を生み出すと述べる。
「4Gが高解像度動画をデバイスにストリーミングしたように、6Gは私たちが見ているものをクラウドにアップロードする——高速なアップリンクがその核心だ」
2-2. 「世界全体のレーダー」という発想
Amon氏の6Gビジョンで最も印象的なのは、ネットワーク全体を巨大なセンサー網として捉える発想だ。
すべてのユーザーが6Gネットワークに接続された場合、各端末が発する・受け取る無線信号(RF信号)をAIで処理することで、道路上のすべての車・自転車・歩行者の動きをリアルタイムで把握できる「レーダー at scale」が実現するという。
「あらゆる動くもの——すべての車、バス、自転車、歩行者——が把握できる。世界全体のデジタルツインを作ることができる。それがエージェントにとって非常に重要なデータになる」
これはドローン管理、交通渋滞の予測、自律走行など、あらゆる「物理AIアプリケーション」の基盤となりうる。
3. スマートフォンの次——ウェアラブルAIデバイスの時代
3-1. グラスが最有力フォームファクター
Amon氏は、次の主役デバイスとして、スマートグラスに強い確信を持っている。
「グラスは人間の感覚にもっとも近い。目の前に見えるものをカメラが捉え、耳元で聞き、口元でしゃべる。これがエージェントに最も豊富なコンテキストを提供できる」
2027〜2028年にかけてスマートグラスが「数千万台から数億台」へスケールすると彼は予測する。
3-2. ファッションと技術の融合
ウェアラブルデバイスの普及にあたって重要な変化として、Amon氏はファッションとテクノロジーの融合を挙げる。
「消費者電子機器は1種類を全員が使うが、身につけるものは違う。眼鏡だけでなく、ジュエリー・ピン・ペンダントにもなる。ファッションブランドと技術企業の垣根がなくなる」
このフラグメンテーション(断片化)は、単一の支配的プレイヤーが生まれにくい市場構造をもたらし、新規プレイヤーにとっての参入機会を生む可能性がある。
4. Qualcommの事業多角化——2029年に非モバイル50%を目指す
4-1. 自動車部門が四半期売上10億ドルを突破
Qualcommの実績として特筆すべきは、自動車部門の急成長だ。2026年第1四半期の自動車部門売上は、11億ドル(約1,600億円)を記録し、2期連続で10億ドルを超えた。
自動車業界への参入時には「自動車のことは何もわからない」と批判を受けたが、現在はAdvanced Silicon(高度な半導体)の最大手サプライヤーの一角を占めるまでになった、とAmon氏は語る。
4-2. 「スマートフォン75%」から「非モバイル50%」へ
Amon氏は、事業多角化の目標をこう語る。
「2029年までに、非モバイル事業で220億ドル以上を達成し、全体の約50%を非モバイルにする。そこにはデータセンターのような新しい賭けはまだ含まれていない」
スマートフォン依存度が5年前の約75%から大幅に低下し、自動車・PC・IoT・ロボティクス・データセンターへと分散が進んでいる。
4-3. データセンター参入——エネルギー効率で差別化
Amon氏がデータセンター事業で差別化要因として挙げるのは「エネルギー効率」だ。スマートフォン向けチップ開発で培った「限られた電力の中に高密度の計算を詰め込む技術」が、電力制約が深刻になりつつあるデータセンター市場でも競争力を持つと見ている。
「GPUが万能とされていたが、Nvidiaのgroqが示したように、異なるタスクには異なるアーキテクチャが有効だ。私たちはCPU・推論の観点からより省エネなソリューションを構築している」
詳細は2026年6月末に発表予定とのことだ。
5. ロボティクス——自動車と同じ道を歩む
Amon氏は、ロボティクスの発展軌跡を自動車の進化になぞらえる。
まずは産業用途での単一タスクの自動化から始まり(スーパーの棚の補充など)、タスクが蓄積・精緻化されながら汎用性が高まっていく——それがRoboTaxiと同じ道筋だというのが彼の見立てだ。
「工場での特定の作業をロボットに完璧にこなさせることはできる。そこから始まり、やがて一般家庭で何でもできるロボットへ。これには時間がかかるが、産業用途の機会はすでに大きい」
Qualcommのチップはロボティクスでも「エッジAI」——クラウドではなくロボット本体でのリアルタイム処理——に強みを持つと彼は述べる。
まとめ——投資家が読み取るべき3つのシフト
Qualcomm CEOの発言から、投資家が注目すべき3点が見えてくる。
① スマートフォン依存の減少は「リスク」ではなく「進化の証拠」
Qualcommのスマートフォン依存度が下がることは、業績の不安定化ではなく多角化の進行だ。自動車・データセンター・ウェアラブルという高成長市場への露出が増えていることを意味する。
② 6Gとエージェントの組み合わせが新しい需要サイクルを生む
6Gの普及は単なる通信速度の向上ではなく、デジタルツイン・物理AI・エージェントインフラという新たな市場を開く。Qualcommはその全スタック(デバイス・ネットワーク・データセンター)に対応できる数少ない企業の一つだ。
③ ウェアラブルAIデバイス市場のフラグメンテーションは「複数の勝者」を生む
OSとアプリストアが支配した時代とは異なり、AIウェアラブル時代はファッション×テクノロジーのフラグメンテーションが進む。Qualcommはどのプレイヤーが勝ってもチップを供給できるポジションにある。

