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ロボットは製造の問題ではなく、知能の問題だ——Figure AI創業者が語る競争優位の本質

「ヒューマノイドロボット問題を解決できれば、それは世界最大のビジネスになる。世界GDPのほぼ半分は人間の労働によって生み出されている」——Figure AI創業者兼CEOのブレット・アドコックはこう語る。

シリコンバレーのロボティクス企業Figure AIは、設立から約4年で累計約2,000億円(非公開調達)を調達し、直近の評価額は390億ドルに達したと報告されている。BMW工場への試験導入を経て、現在は商業展開を本格化させようとしている段階だ。

本稿では、ポッドキャスト「Sorcery」でのアドコックへのインタビューをもとに、Figure AIの現状と課題、そして投資家・ビジネスマンが押さえるべきヒューマノイドロボット産業の構造を整理する。


1. なぜヒューマノイドロボットなのか


1-1. 「最大のビジネス」という根拠

アドコックが、Figure AIの創業に踏み切った理由は明快だ。世界の年間賃金総額は30〜40兆ドル規模とされており、その労働の多くはヒューマノイドロボットが代替しうる。仮に機能するロボットが数十億台規模で普及した場合、売上は「数十兆ドル」規模に達しうるとアドコックは見ている。

テクノロジー企業の一般的な売上高倍率(PER等の売上比較)が、10〜20倍とすれば、理論上の企業価値は「10兆ドル規模になりうる」という試算も示された。もちろんこれは現時点での仮定であり、実現には多くのハードルがある。

1-2. Archer Aviationを離れた理由

アドコックは、eVTOL(電動垂直離着陸機)企業Archer Aviationを共同創業し、上場まで導いた人物でもある。それでもFigure AIに転じた理由として、「ヒューマノイドロボットは、私のキャリアで最も重要な領域の一つ」という確信を挙げた。

「Boston Dynamicsには、研究はあったが、商業化への強い軸がなかった。これを大衆に届けるグループが必要だと感じた」という言葉は、単なる起業家精神ではなく、産業全体のタイムラインを前倒しにしたいという意図を反映している。

2. 技術戦略:垂直統合という選択


2-1. 部品から設計するアプローチ

Figure AIの特徴の一つは、ロボットを構成するほぼすべての部品を自社で設計していることだ。モーターのローター・ステーター、センサー、関節、バッテリーパックに至るまで、外部ベンダーへの依存を最小化している。

「外部ベンダーに頼ると、問題が起きたとき自分で解決できない。コードの問題かどうかも理解できない。スタック全体を上から下まで理解することが、自分たちの運命をコントロールすることにつながる」というアドコックの説明は、製造業におけるサプライチェーン管理の本質を突いている。

2-2. AIモデルの内製化とOpenAIとの決別

Figure AIは、当初、OpenAIとの協業のもとでロボット向けAIモデルの開発を進めていた。OpenAIは、シリーズBをリードし、MicrosoftとSatya Nadellaも共同投資家として参加した。

しかし、約1年の協業を経て、アドコックはOpenAIとの契約を打ち切った。その理由を「私たちのチームがOpenAIを凌駕していた。ロボット学習の背景を10年以上持つメンバーが揃っており、テスト、モデルのトレーニング、すべての面で優っていた」と説明している。

その後、Figure AIは、独自のAIモデル「Helix 2」を開発し、BMW工場での6ヶ月間の実証実験を経て、現在は第3世代の展開に向けて動いている。

3. 商業化の現状とスケールへの課題


3-1. BMW実証実験から得た教訓

Figure AIは、2024年、BMWの工場に少数のロボットを試験導入し、6ヶ月間の継続稼働を達成した。アドコックは、これを「学びの場」として位置づけており、この実験から得た知見をもとに、ソフトウェアとAIシステム全体のアプローチを見直したという。

「何千台ものロボットを出荷して毎時間に何千もの問題が起きるような状態にはしたくない」という発言は、スケールアップに対して慎重かつ実務的な姿勢を示している。

3-2. 生産ラインの拡張と目標

2026年3月には過去最高の生産台数を記録し、5月にはそれを3倍にすることを目標に掲げた。今年中に数千台のロボットを複数の商業顧客に展開し、数万台・数十万台・最終的には年間100万台を目指すというロードマップが示されている。

ただし、アドコックは、「ボトルネックはロボットの数ではなく、完全自律動作の品質にある」とも語っており、現時点では商業需要は十分にあるが、ロボット側の準備が追いついていないという認識を持っている。

3-3. ハードウェアとしての複雑さ

「ターボファンや航空機を一から設計するのと同様の難しさがある」という比較は、ヒューマノイドロボットの開発難易度を端的に表している。初期モデル「Figure 01」は、1時間程度で障害が発生していたが、現在の「Figure 03」では障害は週単位での発生頻度にまで改善されているという。

それでもロボットが取りうる状態の組み合わせは膨大であり、「すべてのタイムスタンプでロボットがどうなるかを合理的に予測することはできない」という課題は続いている。

4. 投資家視点から見たリスクと機会


4-1. 評価額と資金調達の構造

Figure AIは、公表ベースで約20億ドル(約3,000億円)を調達しており、最新の評価額は390億ドルとされている。アドコックは、この評価額についてリスクとは見ていないと述べ、「うまくいけば数十兆ドルの収益を生む事業になる」という見通しを示した。

一方、現時点では収益は限定的であり、商業展開が本格化するのはこれからだ。スタートアップ評価額が高水準にある現状では、こうした「大きな可能性」と「現時点での実態」のギャップをどう評価するかが投資判断の核心になる。

4-2. 競合環境とFigureの立ち位置

ヒューマノイドロボット市場には、TeslaのOptimus、Boston Dynamics、1X Technologies、Agility Roboticsなど複数のプレイヤーが参入している。アドコックは、「私たちはグローバルで同レベルのことをやっているグループの中で数年は先行している」と自己評価しているが、競争は激化している。

Teslaに関しては、「製造の問題ではなく、知能の問題だ」という見方を示しており、ハードウェアのスペックよりもAIモデルの質が差別化要因になるとの認識を持っている。

4-3. 関連企業への波及効果

Figure AI自体は未上場だが、この領域への関心が高まるとともに、関連する上場企業にも注目が集まっている。Rockwell Automationのような産業オートメーション企業や、ロボット関連ETF(ROBO、BOTZなど)は、ヒューマノイド普及の恩恵を間接的に受けうるセクターとして言及されることが多い。

5. Figure AI創業者のリーダーシップ哲学


5-1. 時間配分の原則

複数の会社を同時に経営するアドコックが示した時間管理の考え方は、多忙なビジネスマンにとっても参考になる。「家族・仕事・友人」という3つのバケツを持ちながら、Archer上場後に「3つすべてに時間を割くことはできない」と判断し、友人との交流の大部分を意図的に削減したという。

「本当に大切なものに全力を注ぐ」という選択は、リソースの有限性と優先順位の問題として、経営者・投資家ともに普遍的なテーマだ。

5-2. 「ブルペン」に座るという信念

上場企業のCEOだった頃、アドコックは、会議室と役員フロアに閉じ込められていると感じ、現場から離れることへの違和感を覚えたと振り返る。Figure AIでは、「ブルペン(現場の共有スペース)」に座り、製品・エンジニアリングに直接関わることを徹底している。

「PRイベントや業界カンファレンスのパネルに出ることより、現場で問題を解決することの方が重要だ」という姿勢は、スタートアップの実務において広く共感を呼ぶ考え方だ。

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