Oaktree創業者Howard Marksが語る市場サイクルの読み方——「逆張り」「黒い白鳥」「AI」への視点を投資判断に活かす
Howard Marks氏は、Oaktree Capital Managementの共同創業者として、主に不良債権(ディストレスト債務)への投資で数十年にわたり実績を積み上げてきた。同氏が定期的に発行するメモは、Warren Buffettをはじめ多くの投資家が熟読することで知られている。
2026年に行われたインタビューでは、市場サイクルの基本原理から、AIが社会に与える影響・米中の技術覇権競争・個人投資家のポートフォリオ設計まで、幅広いテーマについて率直な見解を語った。
本稿は、Marks氏の発言をもとに、投資家・ビジネスマンが実践的に活用できる視点を整理する。
1. 市場サイクルの基本構造——人間の心理が生む「行き過ぎ」
1-1. トレンドラインと価格の乖離
Marks氏は、市場サイクルの本質をこう説明した。「企業・市場・経済はいずれもトレンドラインに沿って価値を生み出していく。しかし、価格はそのトレンドラインを中心に激しく上下に振れる。主な理由は心理の変動だ」
価値の進歩は緩やかでも、それに対する人々の評価は時に大きく行き過ぎる。上昇局面では過度の楽観が価格を持続不可能な水準に押し上げ、やがて何かのきっかけで修正が始まる。しかし、その修正も過度になり、今度は持続不可能な安値をつける——というサイクルが繰り返されてきた。
1-2. 歴史は繰り返さないが「韻を踏む」
チューリップバブル(1620年)・南海泡沫事件(1720年)など、数百年前から同様の過剰が繰り返されてきた。Marks氏が、Mark Twainの言葉として引用したのは、「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」という表現だ。韻を踏むのは、「一攫千金への欲望」「他人が儲けるのを見る嫉妬」「取り残されることへの恐怖」「価格が上がるほど興奮が増す」といった人間本来の性質であり、これらは時代を超えて変わらない。
2. 逆張り思考——「過剰な悲観」も「過剰な楽観」と同じくらい誤りだ
2-1. 逆張りとは何か
Marks氏は、Oaktreeの共同経営者Bruce Karsh氏と自身を「本質的に逆張り派(コントラリアン)」と表現した。「群衆が極端なことをしているとき、その反対をするのが最も居心地がいい。そこに誤りを見るからだ」
注意すべきは、これが単に多数派に反対することではない点だ。「過剰な楽観」「過剰な悲観」のどちらにも行き過ぎがあり、それぞれの極端において逆方向への動きが意味を持つ。2008年のリーマンショック後に「ネガティビズムの限界」というメモを書いたことを引き合いに出しながら、「過度に悲観的になりすぎることも、誤りだ」と述べた。
2-2. 逆張りは学べるのか
「逆張りは習得できるか」という問いに対し、Marks氏は、「なぜ重要かは説明できる。論理も伝えられる。しかし、それが自分のものになるかどうかはわからない」と答えた。
自身がこれを自然にできる理由として、感情的な気質と論理の組み合わせを挙げた。「確信を持っていたら馬鹿だ。高値・安値でどちらの判断をするにしても、必ず迷いを伴う」と語り、逆張りが容易であるかのような印象を与えることを意識的に避けた。
3. ブラックスワン(黒い白鳥)——対策できないリスクとの付き合い方
Marks氏は、Nassim Talebが「ブラックスワン」と呼ぶものを「あり得ない災害(improbable disaster)」と表現し、保険の例えで説明した。
「オマハのあの人(Warren Buffett)に電話すれば、そうした事態に対する保険証書を書いてくれる。ただし、保険料が気に入らないだろう」。その保険料を払い続けて何も起きなければ、いずれ支払いをやめる——そして、大抵そのタイミングで何かが起きる。
確率分布の遠い裾の部分にある事象は、「生きている以上、受け入れるしかないものだ」というのがMarks氏の結論だ。対策を打とうとすれば非現実的なコストがかかる。そのリスクを把握した上で、正常な範囲の判断に集中することが現実的だという考え方だ。
4. AIの衝撃——「史上最速の技術」が社会に突きつけるもの
4-1. AIは過去の技術革命と何が違うか
Marks氏は、自身をAIに関する「心配派(worrier)」と位置づけた。その理由は単純な技術懐疑ではなく、変化の速度と性質にある。
「AIの技術革新の速さは、社会が適応できる速さを上回っている。最低でも相当な混乱期間が続くと思う」
また、より本質的な違いとして「自律性」を挙げた。鉄道からインターネットまでの過去の技術はすべて「労働節約型ツール」——人間が定めた仕事をより速く安く行うためのものだった。AIは異なる。「AIは私たちが頼んでいない仕事を設計し、割り振り、指示なしで動き始める。そのような前例はない」
ChatGPTが新モデルの開発にAI自身を活用したという発表を引き合いに出し、「AIがAIを設計した。これに類するものは過去になかった」と述べた。
4-2. 雇用への懸念
「職がなくてもいいという人もいるが、私にとってそれは悪いニュースだ。仕事から得るものは給与だけではない」と述べ、労働が人間に与える意味・目的・社会的つながりがどう代替されるのかに率直な懸念を示した。
一方で、Marks氏は、「新たに生まれる仕事を十分に想像できない」とも認めており、この問題に単純な答えを持たないことを正直に述べた。
4-3. AIとOaktreeの実務
Marks氏は、AIを実際に使った経験も語った。息子Andrew氏(TQ Ventures共同創業者)の勧めで、Claudeに自身のメモの更新作業を依頼した。返ってきた文章は、「同僚や友人からのメモのようだった。個人的で温かみがあり、35年分のメモへの参照があり、ユーモアもあった」と振り返った。
「AIは批評家か?」と問い返してみると「ハイパークリティカルにすべきか、ハイポクリティカルにすべきか?」という冗談で返ってきたというエピソードも紹介し、「AIは私たちの世界を変える」と述べた。
ただし実務的な評価としては、AIはデータの整理・論理の整理・問いの枠組みには優れる一方、「確立されたパターンがない全く新しい事象の分析」は依然として人間が優れているとClaudeに確認させたという。
5. 米中AI覇権競争と「倫理的な判断」のコスト
Marks氏は米中の競争について、アメリカが初めて本格的な経済的ライバルを持つ時代に入ったと指摘した。
「もし私たちが倫理的な判断から減速し、彼らが全力で進み続けるなら、それは彼らに有利に働くだろう」
その文脈でレアアースの例を挙げた。かつてアメリカはレアアース生産の主要国だったが、環境問題への懸念から生産を縮小し、中国がその需要を引き受けた。結果として現在のアメリカはレアアースを中国に依存している。ドイツのエネルギー政策(原発廃止→ロシア依存)との類比も示した。
「どちらの場合も、純粋に経済的・環境的な判断が行われた。地政学的な戦略が考慮されなかった」というのがMarks氏の見立てだ。倫理や環境への配慮を否定しているのではなく、それが戦略的コストを伴うことへの認識が欠けていたという問題提起だ。
6. ポートフォリオ設計——「年齢=債券比率」ルールへの批判
「年齢と同じ%を債券に振り向けよ」というルール・オブ・サムについて、Marks氏は明快に否定した。「すべての一般化には欠陥がある。数字が入ったルール・オブ・サムは捨てるべきだ。唯一のルールは、ルール・オブ・サムなどないということだ」
代わりに提示したのは、各人が自分の「適切なリスク姿勢」を以下の要素に基づいて考えることだ。年齢・資産規模・収入水準・資産の十分性・将来の見通し・扶養家族の有無・そして「価格変動に耐えられる精神的強さ(intestinal fortitude)」。
これらは人によって異なり、機械的な計算式では決められない。「若い人は先の長い不確かな道を歩んだほうがいいかもしれない。でも数字で答えを出すのは間違っている」と述べた。
7. Oaktreeの投資哲学——「良い時代に守り、悪い時代に攻める」
Marks氏は、Oaktreeを「世界有数のディストレスト債務投資家」と表現しつつ、その運用サイクルを説明した。信用不安・企業破綻が相次ぐ局面では資金を積極的に投じ、すべてが穏やかな局面では小規模なファンドでの選択的な投資にとどまる。
Buffettの言葉を引きながら、「周囲が分別なく行動しているとき、自分はより慎重に行動しなければならない」というのが基本姿勢だ。
「最も怖いのは、リスクがないと信じられているときだ。誰もが怖がっているときに積極的になり、誰もが平然としているときに慎重になる——それが私たちのサイクルだ」
オススメ記事
Next Big Wave——成長株・アイデアの種・トレンド深掘り
いいなと思ったら応援しよう!
この記事は noteマネー にピックアップされました

