Jamie Dimonが語るAI・金利・雇用・地政学——JPMorgaのCEOが直視する「不確実な世界」の輪郭
JPMorgan ChaseのCEO、Jamie Dimon氏は、世界の金融・経済を最前線で観察する数少ないリーダーの一人だ。2026年、彼が上海でのインタビューで語った内容は、金利・AI・雇用・地政学・都市政策と多岐にわたり、投資家・ビジネスマンにとって示唆に富む視点を多数含んでいた。
本稿では、そのインタビューをもとに、Dimon氏の発言を4つの論点に整理し、現在の経済環境を読む上での参照軸として提示する。
1. 金利と債務——「上がることへの驚きは不要、でも上限は不明」
1-1. 「金利が上がること自体は驚くべきことではない」
インタビュー冒頭、Dimon氏はこう述べた。「金利が上がることを驚くべきだという考えは間違いだ。私たちのような会社は、高い金利にも低い金利にも備えている」。
過去十数年の低金利は「貯蓄過剰(savings glut)」の時代だったが、今はその逆の局面に向かっている可能性があるという。具体的には、AIインフラへの巨大投資(米国だけで2024年に4500億ドル、2025年に7500億ドル、2026年には1兆ドル規模と見込む)と、各国政府の記録的な財政赤字が資本需要を押し上げているという構図だ。
1-2. 米国債30兆ドルという現実
Dimon氏はより具体的な数字も示した。「米国政府の債務は30兆ドル。平均金利は3.5%。今の水準ではそれ以下で借り換えはできない。今年だけで2兆ドルの借り換えが必要だ」。
これは単なる金利上昇リスクではなく、政府の「信頼性(credibility)」にも関わる問題だと彼は指摘する。インフレの問題だけでなく、財政規律への疑念が長期金利を押し上げる「クレジットストーリー」になりうるという見立てだ。
1-3. 「クリスタルボールは持たない」という認識論
Dimon氏は予測することへの慎重さを明確に示す。「私は、クリスタルボールを信用しない。景気後退ありのインフレ、景気後退なしのデフレ、住宅価格40%下落、株価40%下落——幅広い結果の可能性を見て、その全てに対応できるようにしている」。
「一つの予測に賭けること」を知的な誤りと表現し、「可能性の幅と確率で物事を考えること」を推奨する姿勢は、投資家にとっても参考になる思考フレームだ。
2. AIと雇用——「自然減で対応、リストラ宣言はしない」
2-1. JPMorganのAI活用の現状
Dimon氏によれば、JPMorganは、13年前からすべての経営会議でAI活用を議論してきたという。現在の活用領域はリスク管理・詐欺検知・マーケティング・デザイン・ドキュメント管理・営業支援(Salesforce的用途)・支店立地最適化と多岐にわたる。
「AIはリスク、詐欺、マーケティング、設計、文書管理、誰に朝電話すべきかのSalesforce的なこと、支店の立地最適化——これらはすべて氷山の一角だ」と彼は述べた。コーディングの分野でも急速に活用が進んでいるという。
2-2. 「AIで雇用増、バンカーは削減」という現実
3〜5年後のJPMorganの姿について問われると、Dimon氏はこう答えた。「AIの人材はより多く採用し、特定のカテゴリーのバンカーは減るだろう。例えば、面接準備のために候補者について14か所の情報を集めてきてくれるAIを使えば、あなたの仕事は変わらないが、仕事のやり方は格段に賢くなる」。
ただし重要なのは、彼が「大規模リストラ」ではなく「自然減(attrition)」を基本方針としている点だ。「JPMorganは、年間10%の自然減がある。それだけで年間2.5〜3万人規模の変化だ。私たちはその人たちを大切にする。リスキリング、新しいスキル、より良い仕事、異動、早期退職——そういった対応をする」。
2-3. Standard Chartered「低価値人的資本」発言への反応
インタビューでは、同業Standard CharteredのCEOが、「低価値の人的資本をAIで置き換える」と発言し批判を受けた件について質問が向けられた。Dimon氏は、「Bill(Winters氏)は友人だ。誰でも言い方を間違えることはある」としつつ、自身の見解をこう示した。
「AIは高い仕事も低い仕事も変える。ただ、バックオフィスの仕事がなくなれば、フロントオフィスでより多くのクライアントをカバーするための仕事が必要になる。騒音は多いが、テクノロジーは止められない。やるべきことをやる。人々を大切にし、社会を大切にする。それでうまくいく」。
3. ニューヨーク対テキサス——都市競争力と雇用移動
3-1. JPMorganの従業員移動が示す現実
Dimon氏が、「ニューヨークの税負担」について語った場面では、具体的な数字が示された。「JPMorganはニューヨークで就任時に3.5万人の従業員がいたが、今は2.6万人だ。テキサスでは1.2万人から3.3万人に増えた。これは個人税・法人税・州税の影響だ。ダラス市長はいつでも電話してきて『何か手伝えることは?ここに土地がある』と言う。それがビジネスに対する姿勢だ」。
これは単なる不満の表明ではなく、都市・地域間の競争という構造的な問題を示している。
3-2. 「思想ではなく、競争」という現実認識
Dimon氏は新任のニューヨーク市長とも対話したという。そのメッセージはシンプルだ。「すべての都市は競争しなければならない。芸術、科学、学校、犯罪対策、生活環境——あらゆる面で。上海・香港・シンガポールと競争している。人々は足で投票する。これは道徳の問題ではない。人々が住み、働き、家族を持ちたいと思える都市を作れるかどうかだ」。
「フェアシェア(公平な負担)」という議論についても、「具体的に何%が公平なのか数字を出して議論すべき」という現実主義的な立場を示した。
4. 地政学と中国——「両国は多くの共通利益を持つ」
4-1. 米中関係への現実的な見方
Dimon氏は、中国でのインタビューという場でも、率直な見解を述べた。「米中には本質的な違いがある。でも、共通の利益も多い——テロ対抗、核拡散防止、貿易の適正化。だから常にあらゆるレベルで関与し続けるべきだ。世界の二大大国として、協力し合うことは世界全体に良いことだ」。
G2の首脳会談については「歓迎する」と述べ、建設的な関与を支持するスタンスを示した。
4-2. 中国経済のリスクと機会
「中国経済の最大のリスクは何か」という問いには、輸出依存・南シナ海をめぐる近隣諸国との摩擦・不動産・地方投資の問題を挙げた。一方で「中国企業が示す電気自動車、バッテリー、太陽光、工作機械の能力を見れば、投資家は必ず印象を受ける」と、技術力と産業競争力については評価を示した。

