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エネルギー株が「上がるべき時に下がる」理由——Bernsteinアナリストが解説するサイクル投資の現在地

世界の原油供給の約20%が市場から消えた。それにもかかわらず、エネルギー株はむしろ下落している。なぜか。

この「矛盾」を解き明かすのが、Bernsteinのエネルギー・鉱業アナリストBob Brackett氏だ。地質学の博士号を持ち、Hessでのエグゼクティブ経験を経て17年以上同社に在籍する彼が、The Real Eisman Playbook(第60回)でSteve Eisman氏とともに語った内容は、エネルギーセクターへの理解を根本から問い直すものだった。

本稿ではその内容を整理し、投資家・ビジネスパーソンに向けたインサイトをまとめる。


1. ホルムズ海峡封鎖——「前例のない」供給ショック


1-1. 何が起きているのか

今回の状況は、過去のエネルギーショックとは性質が異なるとBrackett氏は強調した。

「ロシア・ウクライナ戦争では、1日700万バレルの輸出が影響を受け、原油価格は120ドルに達した。しかし、今回は2,000万バレル——全世界需要の約20%——が遮断された。それでも、価格はピーク時でも115ドル程度に留まっている」

ホルムズ海峡の封鎖は、機雷・艦船・ドローン・保険リスクが組み合わさった実質的な通行遮断だ。海峡西側に留まっている原油は新たな輸送ルートを模索し、世界の在庫が急速に減少している。

「在庫の減少速度は、商業在庫・政府戦略備蓄を含め、これまでに見たことのないペースだ。減少"水準"にはまだ達していないが、減少"速度"が前例のない領域に入っている」

1-2. 価格が上がらない理由——市場の「希望的観測」

供給ショックの規模に対して原油価格が抑制されている理由について、Brackett氏は「市場の希望」と「エネルギーセクターの小ささ」を挙げた。

「市場は単純に、この状況が解決されると信じている。そして、エネルギーは今やS&P500の4%に過ぎない。ポートフォリオマネージャーは、AI・テクノロジーで収益を上げることに集中しており、エネルギーを完全に読み解かなくても、他で取り返せると考えている」

グロース投資家にとってエネルギーセクターのS&P成長インデックスへの寄与はゼロであり、バリュー投資家でさえ「時間をかければ戻る」という中期的な視点で動く。これが、供給ショックが株価に即座に反映されない構造的な理由だ。

2. フォワードカーブと原油株の「逆説」


2-1. フォワードカーブとは何か

原油価格が高くてもエネルギー株が下がる理由のひとつが「フォワードカーブの構造」だ。Brackett氏は農業のアナロジーで説明した。

「農家が将来の収穫物を今の価格で売り、リスクをヘッジするのと同じように、石油にも先物価格がある。このフォワードカーブが今、現在の3桁の価格から来年には75ドル程度へと下落する形(バックワーデーション)になっている」

現物価格がいかに高くても、市場が1年後の価格を75ドルと織り込んでいれば、その価格を基に企業価値を評価する投資家は株を積極的に買わない。これが「価格は高いのに株は上がらない」という見かけ上の矛盾を生んでいる。

2-2. しかし、中期的な強材料は多い

バックワーデーションにもかかわらず、中期的にはエネルギー株にとって好材料が積み重なっているとBrackett氏は言う。

まず「在庫補充需要」だ。封鎖によって約10億バレルが市場から失われており、いずれ各国・各企業が在庫を補充する必要が生じる。これは一時的に需要が上乗せされる効果をもたらす。

次に「リスクプレミアムの恒常化」だ。

「仮に明日海峡が再開されたとしても、再び封鎖されるリスクをゼロと見積もるのはさすがに無理がある。イランが圧力をかけようとする可能性は今後も残る。したがって、原油には一定のリスクプレミアムが恒常的に上乗せされるべきだ」

3. 天然ガス——AI電力需要という「成長の物語」


3-1. 原油とは異なるガスの需要構造

天然ガスは石油とは異なり、主に発電用途に使われる。そのため、ガス需要はEVや自動車需要ではなく、電力需要の動向に左右される。

「世界の電力需要はGDP成長率を上回るペースで増加している。脱炭素に向けた電化トレンドに加え、AIやロボティクスの普及も加速している。米国の電力需要は年率3〜4%で成長しており、これは毎年ニューヨーク市が消費する電力量に相当する新規需要が生まれていることを意味する」

データセンターについては具体的な数字も示した。1ギガワットのデータセンターは人口100万人都市の電力需要に匹敵する。米国にはまだ15〜20施設程度しかなく、これが急速に増加しつつある。

3-2. 供給側の規律——「アパラチアの掘削業者」が価格を動かす

天然ガスの価格設定において鍵を握るのは、アパラチア(ウェストバージニア・ペンシルバニア・オハイオ)とルイジアナ北西部のハンズビルで掘削するガス専業企業だという。

過去10〜15年、これらの企業は掘れば掘るほど供給が増えてガス価格が下落するというサイクルを繰り返してきた。しかし機関投資家からの圧力によって、今は「余剰キャッシュフローを株主に還元し、再投資を抑制する」という規律が定着している。

「需要が伸びる中で供給側に規律がある。これが天然ガスで初めて、スルーサイクルでまともな投資リターンを得られる環境が整った理由だ」

3-3. 注目銘柄:EQTとEXE

Brackett氏が具体的に名前を挙げたのが、EQT Energy(ティッカー:EQT)とExpand Energy(ティッカー:EXE)だ。

「ガス価格への純粋なエクスポージャーが欲しければ、ガス専業の大型上流企業が理想だ。EXEは、米国最大のガス生産者であり、EXXon・Chevronを上回る。EQTは、一段下だが同様のポジション。どちらも専業の乾性ガス掘削業者だ」

4. 銅——「フラッキングのような技術革新が存在しない」


4-1. 銅の構造的な供給制約

鉄鉱石・銅・金・アルミニウムという4つの「1,000億ドル超の年間市場規模を持つ金属」の中で、Brackett氏が特に注目しているのが銅だ。

「毎年3,000万トンの銅を採掘・リサイクルしている。供給は年間100万トン程度しか増えない一方で、既存鉱山の自然減少も年間100万トン超だ。この不足を補うために、毎年より質の悪い鉱山を使わざるを得ない」

銅の供給問題で決定的なのは、シェールオイルのような「技術革命による価格崩壊」が起きにくいという点だ。

「石油にはフラッキング技術があった。銅はフラッキングできない。供給は年々分散化し、地政学的リスクも高まっており、技術的なブレークスルーの見込みは現時点では薄い」

4-2. EVと電力インフラが需要を押し上げる

需要側には明確な上昇要因がある。

「ガレージにEVが2台あれば、家全体と同量の銅がそのガレージにある。EV・風力・太陽光・送電網すべてが銅を大量に必要とする」

ただし、短期的には、トランプ政権の関税政策によって米国が銅を大量に備蓄した結果、市場が人為的に引き締まっている。Brackett氏はこの備蓄が解消される局面では価格圧力になり得るとして、「1〜2四半期ほどの時間軸で慎重に見ている」と述べた。

銅関連の大型銘柄としては、Freeport-McMoRan(銅株の代表格)が挙げられたが、エントリーポイントの見極めが重要だとした。

5. 石油メジャー・シェール掘削業者・LNG——各セクターの見方


5-1. エクソンとシェブロン——「インフレ連動の株主還元装置」

Brackett氏は、Exxon Mobileを現在の推奨銘柄として挙げた。理由は2点だ。

ひとつは、下流(精製)部門のバッファー機能だ。原油価格が下落する局面では、精製マージンが拡大する傾向があり、上流だけの企業より安定性が高い。

ふたつ目は、配当の強固さだ。

「コロナ禍で原油価格がマイナスになった時でも、Exxon・Chevron・ConocoPhillipsは配当を維持した。欧州のメジャーは削減した。配当を守ることが財務規律の証拠だ」

ExxonとChevronはそれぞれ年間200〜250億ドル規模の配当と自社株買いを実施しており、利回りはTIPS(インフレ連動国債)との比較で評価すべきとした。

5-2. 掘削業者(E&P)——「規律ある退屈な優等生」に変身

2014〜2016年の原油価格崩壊を経て、シェール掘削業者は株主への還元を最優先にする姿勢に転換した。

「かつてのカウボーイ経営から、1ドル稼いだら1ドル返すという哲学に変わった。フリーキャッシュフロー利回りは高質な企業で6〜7%、信用度の低い企業でも低二桁台という水準は、かつてのタバコ株やREITに匹敵する」

Brackett氏が特に推したのは、Diamondback Energy(ティッカー:FANG)だ。パーミアン盆地のミッドランド地区に集中特化し、地政学・探鉱リスクがほぼゼロの「テキサスの石油」として評価される。EOGについてはビジネスの質の高さを認めつつも、「優良すぎて常に割高」という構造的な問題を指摘した。

5-3. LNG——Cheniere Energyという「安定したトールブース」

天然ガスの成長ストーリーを最も安定した形で投資するルートとして、Brackett氏が挙げたのがCheniere Energy(ティッカー:LNG)だ。

「ルイジアナとテキサスに巨大な液化施設を持ち、世界の顧客と平均17年・テイクオーペイ型の長期契約を結んでいる。価格リスクも地政学リスクも、収益認識はルイジアナの数平方マイルの中で完結する」

現在のフリーキャッシュフロー利回りは約8%で、同種のパイプライン・ミッドストリーム企業がS&P500に入ると5%程度まで圧縮される傾向を考えると、S&P500への採用が実現した場合には株価上昇の余地があるとした。

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