OpenAI、サンフランシスコで「家族向け」専任プロダクトマネージャーを募集開始
2022年末のリリースから3年余りが経過したChatGPTだが、その利用者層に静かな地殻変動が起きている。OpenAIは、サンフランシスコで、家族・介護者・高齢者向けの体験設計を専門に担当するプロダクトマネージャーの求人を出したという。個人の生産性ツールとして広まったChatGPTが、いよいよ「家庭」というより大きな単位を意識した製品戦略に踏み出しつつあることを示す動きだ。本稿ではこの求人の背景にあるデータと、業界関係者の見立てを整理する。
1. サンフランシスコで新設された「家族向け」専任ポジション
OpenAIの求人情報によれば、募集しているのは、家族・介護者・高齢者向けの体験を、同社の各プロダクトを横断して設計するプロダクトマネージャー職だ。求められる経験として、親や家族向けの製品開発、あるいは信頼性が重視される消費者向け体験の設計経験が挙げられているという。なお、TechCrunchの取材時点でOpenAIは、この求人についてのコメント要請に応じていない。
1-1. GoogleやApple、Metaがたどった道と同じ、しかしリスクは大きい
テクノロジーコンサルティング会社Creative Strategiesのベン・バジャリンCEOは、家族向けの専任ポジションを新設する動きについて、GoogleやApple、Metaが自社プラットフォームを日常生活に組み込んでいく過程でたどった道と似ていると指摘する。ただし、同氏は、AIの場合はコンテンツやデバイスを単に仲介するだけの存在ではないため、リスクの度合いがより大きくなるとの見方を付け加えているという。
2. データが示す利用者層の変化
TechCrunchが独占的に共有を受けたSensor Tower社の推計によれば、ChatGPTの世界の利用者のうち35歳以上が占める割合は、直近四半期で31%に達し、1年前の26%から上昇した。一方、18〜24歳の割合は、34%から29%へと低下している。米国に限ると、スマートフォンを持つ親のうちChatGPTを利用した人の割合は、直近四半期で約4人に1人(24%)に達し、1年前の16%から大きく増加したという。
2-1. 競合との比較 ― GeminiとCopilotの立ち位置
Sensor Towerの推計では、AnthropicのClaudeやGoogleのGeminiでは、25〜34歳の利用者が世界全体の利用者の40%を占めており、この比率はChatGPTと同水準だという。一方MicrosoftのCopilotはこの年齢層が33%にとどまる一方、45歳以上の利用者比率は20%と、Claudeの14%、Geminiの12%、ChatGPTの11%と比べて高い水準にある。
ChatGPTは、高齢層への浸透度自体は競合と比べて相対的に低いものの、その増加スピードは競合より速いという。45歳以上の利用者比率は、前年同期比で3ポイント上昇しており、Copilotの2ポイント増を上回る一方、ClaudeとGeminiはこの層の比率が減少しているとのことだ。
米国の親であるスマートフォンユーザーに限ると、直近四半期でGeminiの利用率が32%と最も高く、ChatGPTが24%で続き、Claudeが4%、Copilotが2%という順位になっているという。
3. 見過ごされがちな「子供の生成AI利用」実態
家族向け製品戦略の背景には、子供による生成AI利用の実態を巡る調査結果もある。Family Online Safety Institute(FOSI)が今週公表した、米国とオーストラリアの4000世帯超を対象にした調査によれば、過去1週間に子供が生成AIを利用したと回答した米国の親は、27%にとどまった一方、子供自身は38%が利用したと回答しており、親の認識と実態には無視できないギャップが存在するという。
FOSIのスティーブン・バーカムCEOは、こうした家族向け専任ポジションの新設について、OpenAIの製品としての成熟と、子供・ティーンエイジャーが利用するAI製品には大人向けとは異なる安全対策が必要だという認識の広がりを反映していると説明する。同氏は、この動きを「安全性を後から設計に組み込み直す取り組み」という趣旨で表現し、当初は子供の利用を十分想定せずにリリースされた製品への、必要な対応だと位置づけている。
バーカム氏は、さらに、AI企業は若年層向けに、より強力なコンテンツ規制や年齢に応じた体験設計、保護者による監督機能、そして、相手が人間ではなくAIであることを利用者に伝える仕組みを備えた形で製品を構築すべきだとの考えを示した。
4. 訴訟と安全対策の強化
家族向けポジションの新設は、AI企業が若年層をどう保護するかという議論が強まる中でのタイミングでもある。OpenAIは、これまで、ChatGPTが、子供の自殺を含む深刻な被害に関与したと主張する複数の訴訟を、遺族らから起こされてきた。
こうした懸念への対応として、OpenAIは、この1年でいくつかの安全対策を導入してきた。ティーンアカウント向けの保護者管理機能、苦悩の兆候をより適切に扱えるよう設計された推論モデルへ機微な会話を振り分ける仕組み、そして、自傷の可能性がある場合に家族や介護者へ通知できる、任意設定の「信頼できる連絡先」機能などが挙げられる。
バーカム氏は、AI企業にはソーシャルメディア企業が過去に犯した過ちを繰り返さずに済む機会があると指摘する。ソーシャルメディア各社は長年、子供をほぼ大人と同じように扱い、世論の高まりや規制当局の監視が強まる中で、ようやく強力な保護対策を追加してきた経緯があるためだ。
また、OpenAIはサンアントニオ・スパーズのコミュニティ活動団体やPositive Coaching Allianceと共同で開催したワークショップにおいて、学習やコーチング、青少年の関わり方におけるAIの役割を模索する狙いがあると説明しているという。
5. 消費者向けAIの今後の方向性
Creative StrategiesのバジャリンCEOは、OpenAIが、家族向け専任のプロダクトマネージャーを採用する決定について、コンシューマー向けAI全体が今後向かう方向性を示すものだと位置づける。AIが世代を超えて共有される技術になるにつれ、各社はファミリープラン、子供・ティーン向けプロファイル、介護者向けツール、世帯で共有される記憶(メモリー)機能、AIによる学習支援、そして、より強力な安全管理機能を展開していくと同氏は予想している。
