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「10兆ドル企業が来る」——Sequoia共同ステュワード、アルフレッド・リンが語るAI時代の投資哲学

Sequoia Capital(セコイア・キャピタル)の共同ステュワード(共同責任者)であるアルフレッド・リンが、ソーシーのポッドキャストに登場し、AI時代のパラダイムシフト・投資判断・エンジニアリングの変容について語った。運用実績については「次の投資だけが重要」という哲学のもと多くを語らないが、2020年以降のLP(出資者)への分配額は、430億ドルにのぼると明かされている。企業価値の天井が急速に上がり続ける今、その思考法は投資家・経営者ともに参考になる。


1. 「AIはSaaSを殺さない」——シンプルなナラティブの罠


1-1. 1997年の教訓:「アマゾンはウォールマートを殺す」

アルフレッド・リンは、1997年に統計学の博士課程を中退し、「インターネットに乗り遅れたくない」とVC業界に飛び込んだ。その時に抱いた確信は「Eコマースはリアル店舗を破壊し、アマゾンはウォールマートを殺す」というものだった。

しかし、実際はどうだったか。「ウォールマートは1997年比で20倍の規模になっている。変化を受け入れ、デジタルとフィジカルの両方を展開した企業は生き残った。破綻した企業は、テクノロジーのせいではなく、変化を拒んだからだ」と彼は振り返る。

この経験を踏まえた上で、現在の「AIがSaaSを殺す」というナラティブに対しても、同様の懐疑的な見方を示す。「AIもSaaSも、突き詰めればどちらもソフトウェアだ。Oracleは今もある。OpenAIがOracleのバランスシートとデータセンターを使いたいと思うなら、それはOracleが価値を持つからだ」。

1-2. エンドゲームは決まっている、問題はミッドゲームだ

リンが繰り返し強調するのは「エンドゲームとミッドゲームの区別」だ。最終状態は比較的明確だ。「すべての企業が——伝統的なソフトウェア企業も、SaaS企業も、ネイティブAI企業も——AIを取り込む。それがエンドゲームだ」。

しかし、誰が勝ち、誰が負けるかはミッドゲームで決まる。「ビジョンを語るのは簡単だが、今いる場所からそのビジョンまでの点をつなぐのが、創業者・経営チームの本当の仕事だ」。この「点をつなぐ能力」こそが、優れた創業者と凡庸な創業者を分けると彼は言う。

2. モートの変化——レガシーソフト→SaaS→AI


2-1. 各時代の競争優位の構造

パラダイムシフトのたびに、競争優位(モート)の構造が変わってきた。レガシーソフトウェア時代は、CIOへの人脈と「一度導入されたら変えにくい」という組織的慣性がモートだった。SaaS時代は、ボトムアップ販売(ユーザーから始まり、気づけば組織全体に広がる)と使いやすさがモートに変わった。「Slackのように、まず30人が使い始め、次に200人になった頃にCIOに『エンタープライズ版を買いませんか』と持ちかける——これは伝統的なソフトウェアとまったく異なる売り方だ」。

AIの時代には、このモートの構造が再び変わる。「コードの1行を生成するコストがほぼゼロになった以上、コードベースの積み上げ量だけがモートにはなれない。では何がモートか——顧客との関係、流通チャネル、データ、そして、知性そのものが製品に埋め込まれているか、だ」とリンは整理する。

2-2. 変化を拒む企業が最も脆弱

最も危険なのはどういう企業か。リンは明確に答える。「変化を受け入れない企業、パラダイムシフトが起きていることを理解していない企業、昨日の方法が今日も通じると思っている企業だ」。

逆に、変化を早期に受け入れ、新しいツールを積極的に取り込んだ企業は生き残り続けてきた——それが歴史的な教訓だとリンは言う。

3. エンジニアリングの変容と生産性の新しい天井


3-1. トップエンジニアの生産性が3倍に

リンが参加したあるボードミーティングでの観察が示唆に富む。AIコーディングツールの利用状況と生産性を分析したところ、「最上位5〜10%のエンジニアが、前年比3倍の成果を出している」という相関が確認された。

しかし、ここで新たな問題が浮上している。「その人たちは今、調整とコミュニケーションでボトルネックになっている。もっと速く動けると思っているのに、組織全体をそのスピードに合わせられないでいる」。生産性の問題が、技術から組織・コミュニケーションのレイヤーに移行しつつあるという観察は、経営者にとっても重要な示唆だ。

3-2. 「すべてのツールを使え」という実用的なアドバイス

現時点で特定のAIツールに絞る必要はないとリンは言う。「すべてのツールを使え。今年はこれだが来年は別のものがリードするかもしれない。変化についていくことが大事だ」。ちょうどクラウドコンピューティングが普及する過程でAWS・GCP・Azureが共存したように、AIの世界でも複数のプレーヤーが共存する可能性が高いと見ている。

4. 10兆ドル企業という新しい基準


4-1. 評価の天井が動き続けている

リンがSequoiaに参加した2010年当時、最大時価総額の企業でも3,000〜4,000億ドル程度だった。今日では4.5〜5兆ドル規模の企業が存在する。「あと5〜10年で複利成長が続けば、10兆ドル以上の企業が出てくる」という見通しを示す。

これはSequoia社内の指標にも反映されている。伝説的企業として名を連ねるための基準は、かつて「利益1億ドル以上」だったが、今では「10億ドル以上」になった。「数年後には100億ドルになっているだろう」とリンは述べる。「何が例外的なパフォーマンスかは、動き続けるゴールポストだ」。

4-2. ユニコーンは「目標」ではなくなった

リンがSequoiaに入った2010年、「ユニコーン(評価額10億ドル超)」という言葉すら存在しなかった(この言葉を作ったのはアイリーン・リーで2012〜13年頃)。今日、ユニコーンは数多く存在し、「10億ドルの評価額は昔ほど意味を持たない。それがエンドゲームではなくなった」とリンは率直に言う。

まとめ——「スパイクを磨け」という最後のメッセージ


インタビューの締めくくりとして、リンは創業者・個人双方へのアドバイスを送った。「あなたが他の誰とも違う点(スパイク)を見つけ、それを最大化せよ。AIは多くの弱点をカバーしてくれる。弱点が致命的にならないようにしつつ、あなただけのスパイクを磨くことに集中せよ」。

AIがあらゆるレイヤーに浸透する時代において、均質的な能力ではなく「飛び抜けた個性」こそが人間の付加価値になる——という見解は、投資家として無数の創業者を見てきたリンの言葉として重みを持つ。

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