GoogleのCEOが語った「AI競争の正直な現在地」
ポッドキャスト「Hard Fork」にGoogle CEOのサンダー・ピチャイ氏が出演し、AI競争の現状、Geminiの進化、エージェントAI、規制問題、そして、AGIへの展望まで幅広く語った。率直な自己評価と長期的な楽観論が混在するこのインタビューは、投資家・ビジネスマンにとって現在のAI産業を俯瞰する上で参考になる内容だ。
1. AI競争の現在地——強みと弱みを率直に認める
1-1. 「一部は最前線、一部は遅れている」
ピチャイ氏は、GoogleのAI競争における立ち位置について、珍しいほど率直な評価を示した。
「テキスト・マルチモーダル・音声・推論といった総合的な能力では非常に競争力がある。一方、エージェント的なコーディング・ツール使用・長期タスクの実行では、現時点でやや遅れをとっている」
ただし、同氏は楽観的な見方を崩さない。「この分野は30〜60日が5年分に相当するほど動きが速い。3カ月前に『我々がリードしている』と言っていたところが、今は話が逆転している。それが最前線にいることの常だ」
1-2. コーディング分野での遅れと対策
コーディング領域での遅れの背景として挙げたのは、データフローへのアクセス不足だ。AnthropicがCursorというコーディング環境を通じてデータを蓄積してきたのと対照的に、Googleはそうしたサーフェスを持っていなかったと認める。
その打開策として、Gemini 2.0の社内利用を本格化させた。I/Oで公開された数字によると、社内でのトークン使用量は、毎週2倍のペースで増加しており、「今まで見たことのない水準だ」とピチャイ氏は述べた。実際の開発データが蓄積されることで、モデルの改善サイクルが加速するという狙いだ。
2. 検索の進化——10の青いリンクはなくなるのか
2-1. AIモードへの段階的な移行
Google検索における最大の変化として、AIモードの導入が挙げられた。ただし「10の青いリンク」と呼ばれる従来型の検索結果を即座に廃止することには慎重な姿勢を示した。
「ユーザーを旅に連れていくことが大切だ。ユーザーはWebとのつながりを望んでいる。だからソースやリンクは常に残る」
一方で、インタビュアーが、「過去1年間、従来型の検索をほぼ使っていない」と述べたことに対して、ピチャイ氏は、収益モデルへの懸念を一定程度認めながらも、こう述べた。「AIモードでは、10年前よりはるかに多くのことをユーザーのためにできる。価値が増えれば、サブスクリプションと広告の組み合わせで適切なモデルが成立する」
3. AIへの社会的不安——「健全な対話だ」
3-1. 16%しか支持しないという現実
ニューヨーク・タイムズの調査では、AIを「概ね良いもの」と答えた人は16%にとどまり、「概ね悪いもの」と答えた人は35%に上った。
この結果についてピチャイ氏は、「AIは人類がこれまで取り組んだ中で最も深遠なテクノロジーだ。人間はこれほどの変化速度に対応するよう進化してきていない。不安が生じるのは自然だ」と述べ、否定的な反応を一定程度理解できるとした。
3-2. 雇用不安への答え——スプレッドシートの比喩
雇用が失われるという懸念に対し、ピチャイ氏は、スプレッドシートの普及という歴史的な例えを使った。「スプレッドシートが登場する前、財務分析はどうやって行われていたのか。今となっては想像もできない。AIは同様に、多くの人の出発点を変えるだろう」
医師の例を挙げ、「医師の本来の使命は患者と向き合うことだが、実際には管理作業に多くの時間をとられている。AIはそこを変えられる」と述べた。
4. エージェントAI——信頼構築が鍵
4-1. 自分のカレンダーをAIに色分けさせた
ピチャイ氏自身のGemini Spark活用例として紹介したのは、カレンダーの自動色分けだ。「今後の予定を見て、種類ごとに色分けしてほしいと頼んだ。2つの配色案を提示されて選ぶだけだった。個人的な会議、健康関連、仕事など。本当にSFのようだった」
4-2. 「自動運転と同じ信頼の積み上げ」
エージェントAIの普及には信頼の構築が不可欠だとし、自動運転車のアナロジーを用いた。「人々が自動運転車の後部座席に乗るようになったのは段階的なプロセスがあったからだ。エージェントも同様で、予期しないことが起きた時に人々が信頼を失わないよう、透明性とコントロールが重要だ」
セキュリティの観点からも、エージェントシステムはハッキングの標的になりうるとして、慎重な姿勢を示した。
5. TPUと競合——「Anthropicが使っても問題ない」
5-1. ライバルへのインフラ提供という逆説
Googleは、Anthropicなど競合企業にもTPUを提供している。「なぜ自社で囲い込まないのか」という問いに対してピチャイ氏は、「Googleのファーストパーティサービスの計画と、Google Cloudのビジネスは、別々に計画されている。Cloudがなければそもそもその分の設備投資はしていない」と答えた。
さらに、Anthropicの研究者がTPUを使うことで、ハードウェアの次世代開発にもフィードバックが入り、Googleにとっても有益だと述べた。プラットフォームビジネスとしてのスケールメリットを優先する判断だ。
6. AGIとシンギュラリティ——「麓にいる」という認識
6-1. AGIの時間軸——「近い側だと感じている」
ピチャイ氏は、AGIという言葉を慎重に使う立場をとりながらも、「技術はAGIに向けて着実に進んでいる。直近1〜2年の進歩の速度を見ると、3〜5年か5〜10年かという問いに対しては、近い側にあると感じている」と述べた。
「AGIまで10年あるからといって、今すぐ対応しなくていいという意味にはならない。3年後のテクノロジーでさえ、今とは比べものにならないほど強力なものになる」
6-2. DeepMindのハサビス氏が語った「シンギュラリティの麓」
Google DeepMindのデミス・ハサビスCEOが基調講演で「シンギュラリティの麓にいる」と発言したことについて、ピチャイ氏はこう解釈した。「彼はシンギュラリティをAGIの到来として定義している。2030年頃を念頭に置いているとすれば、その文脈で語られた言葉だ。社会としてそれを内面化し、備えることが重要だというメッセージだ」

