自然を活かした気候変動対策——Al GoreのJust ClimateがMicrosoftとCalSTRSから1億7,500万ドル調達
気候変動への対応として、多くの投資家が注目するのはエネルギーや交通分野です。しかし、同じく重要な自然環境、すなわち生態系や森林、農業を活かした「自然を基盤とした解決策(Nature-Based Solutions, NBS)」への投資はこれまで十分に行われてきませんでした。このギャップを埋めるため、元アメリカ副大統領で環境活動家として知られるアル・ゴア氏が設立したJust Climateは、MicrosoftとCalSTRS(カリフォルニア州教職員退職年金基金)から1億7500万ドルの資金を調達しました。本記事では、この新たな資金調達の意義と、自然を活用した気候変動対策の具体的な取り組みについてわかりやすく解説します。
1. 自然を基盤とした気候変動対策とは
1-1. NBSの基本概念
自然を基盤とした解決策(Nature-Based Solutions, NBS)とは、森林再生や持続可能な農業、生物多様性の保護など、自然の力を活かして気候変動の原因と影響の両方に対処しようとするものです。国連環境計画(UNEP)もNBSの重要性を強調しており、「自然は最も手頃で効果的な気候変動対策の1つである」と述べています。
1-2. 現状の投資状況
2022年の統計によれば、気候変動対策に対する世界の投資額は約1兆4600億ドルに達しましたが、そのうちNBSに充てられたのはわずか350億ドルと、全体のごく一部に過ぎません。エネルギー転換やEV(電気自動車)分野に比べ、自然関連のプロジェクトは投資家の注目度が低いのが現状です。
2. Just Climateの取り組みと新ファンドの目的
2-1. Just Climateとは
Just Climateは、アル・ゴア氏とDavid Blood氏が共同設立したGeneration Investment Managementの一部門として2021年に設立されました。これまでは、工業分野における気候ソリューションへの投資を中心に展開してきましたが、今年からNBSにも本格的に取り組みを広げています。
2-2. MicrosoftとCalSTRSからの調達
今回の1億7500万ドルの資金調達は、MicrosoftのClimate Innovation FundとCalSTRSから行われました。Microsoftはすでに自社のカーボンニュートラル化を進める中で、自然を活用したカーボンオフセットにも注力しています。CalSTRSにとっても、長期的な視点で安定したリターンが期待できるNBSは魅力的な投資対象です。
2-3. 新ファンドの投資対象
Just Climateの新ファンドでは、以下のような多様な自然関連プロジェクトに投資を行う予定です。
森林再生プロジェクト
例えば、劣化した土地に新たに植林を行い、二酸化炭素を吸収。生物肥料・生物農薬
化学肥料に頼らず、微生物を活用した持続可能な農業の促進。カーボン削減や生物多様性保護の検証技術
環境DNA(eDNA)を用いて現地の生物多様性を正確に把握する技術。
3. 具体的事例:NatureMetricsへの投資
3-1. NatureMetricsとは
Just Climateが今年1月に最初の投資先として選んだのが、イギリスに本拠を置くNatureMetrics社です。この企業は、環境DNA(eDNA)を活用して、土壌や水中に漂う微量なDNAを分析し、その地域の生物多様性を迅速に評価できる技術を提供しています。
3-2. eDNA技術の可能性
従来の生物多様性調査は、現地での目視観察やトラップ調査などが主流でした。しかし、これには時間やコストがかかる上、人為的ミスも発生しやすいという課題がありました。eDNAは、簡単なサンプル採取で「その場に存在するすべての生物種」を網羅的かつ高精度で把握できる革新的な技術です。
Just Climateの投資により、NatureMetricsは調査規模を拡大し、世界中の企業や政府機関が生物多様性保護の取り組みを定量的に示すことを可能にしています。
4. なぜ自然への投資が重要なのか
4-1. NBSの気候変動への貢献
農業、林業、土地利用の変化は、世界の温室効果ガス排出量の約15%を占めています。しかし、適切なNBSを導入すれば、これらの排出を削減するだけでなく、既に大気中にある二酸化炭素も吸収・固定化できます。森林再生や湿地回復は、年間数十億トン単位のCO₂吸収ポテンシャルがあるといわれています。
4-2. 生物多様性の危機
IPBES(生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)の報告書によると、人類の活動により約100万種の動植物が絶滅の危機に瀕しています。気候変動と生物多様性の損失は密接に関連しており、片方だけの対策では持続可能な未来は築けません。
5. 企業や投資家に求められる姿勢
5-1. 短期的利益からの脱却
これまでNBSが過小評価されてきた背景には、「短期的にリターンが見えにくい」という側面があります。しかし、長期的視点で見れば、気候変動対策や生物多様性保護への取り組みは、社会的信用の向上、規制リスクの軽減、新たな市場機会の創出につながります。
5-2. 技術と自然の融合
近年はAIやIoT技術とNBSを掛け合わせた新たなソリューションも登場しています。Microsoftのように、大手テクノロジー企業が積極的にNBSを支援する動きは、その象徴と言えるでしょう。
エネルギーや交通の脱炭素化が進む一方で、自然という最大の味方を活かした対策はまだ発展途上です。しかし、今回のJust Climateの動きが示すように、「自然と共存する未来」は確実に注目を集め始めています。
企業、投資家、消費者それぞれがNBSの重要性を理解し、持続可能な社会を目指す行動を取ることが求められる時代が、すでに始まっているのです。
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