MetaのAI責任者が語った「次の一手」——エージェント・安全性・中国との競争を先読みする
MetaのAI部門を率いるアレックス・ワン氏が、Bloomberg Techのステージに登場し、同社のAI戦略について率直に語った。
Meta Superintelligence Labsが発足してからおよそ1年。新しいスケーリング基盤の構築、モデルファミリーの刷新、そしてオープンソース方針の見直しと、この1年でMetaのAIへの取り組みは大きく変化した。エージェントAI、中国との競争、雇用問題——投資家やビジネスパーソンにとって示唆に富む発言を整理する。
1. MetaのAI——この1年で何が変わったのか
1-1. Llama 4から始まった軌道修正
ワン氏が参加した約1年前、Metaは、すでにオープンソースモデル「Llama 4」をリリースしていた。しかし、同氏はその状況をこう評価した。
「Llama 4は、依然として注目を集めるリリースでしたが、Metaが構築しようとしていた製品や体験を継続するうえで、必要なトラジェクトリに十分乗れていなかった」
この認識のもと、Meta Superintelligence Labsが発足し、新しいスケーリング基盤の構築、インフラ整備、研究体制の刷新が本格的に始まった。
1-2. 「前菜」としてのMuseSparkモデル
2025年4月にリリースされたMuseSparkは、この新体制の最初の成果物だ。ワン氏は、これを「スケーリングラダーの初期データポイント」と位置づけており、最終的に目指すモデルとはまだ規模が異なると認めている。
ただし、社内の期待を上回る結果が出たとも述べており、Meta AIのアプリストアランキングの上昇など、実際のユーザー反応も好調だったという。
「次にリリースするモデルは、世界のトップクラスのモデルと十分に競合できるものになると考えています」
本命モデルは、現在トレーニング中であり、時期については明言を避けながらも、「結果は非常に有望」と述べた。
2. オープンソース戦略の転換——安全性が判断の軸に
2-1. なぜMuseSparkはオープンソースにしなかったのか
Metaは、これまでオープンソース戦略を中心に据えてきたが、MuseSparkはクローズドでのリリースとなった。その理由として、ワン氏は安全上のリスク評価を挙げた。
「早期のトレーニング過程で、いくつかの高リスク領域——特にバイオリスクなど——が実際にトリガーされることが確認されました」
製品として展開する場合は、リスク軽減の手段が多数あるが、オープンソースとして公開した場合はその制御が難しくなる。これは業界全体で共通する課題だとワン氏は述べ、Metaだけの問題ではないと強調した。
2-2. オープンソースは続ける——ただし条件付きで
ただし、オープンソース自体を放棄したわけではない。
「パフォーマンス性能をできる限り維持しながら、安全にオープンソース化できるモデルを現在開発中です」
ブランド名については社内で議論中とのことで、今後の「Llama」の位置づけも変化する可能性がある。
3. エージェントAI——個人と仕事の両方を変える
3-1. 「エージェントの数は多くない」という設計思想
エージェントAIについて、ワン氏は、ユーザーが使うエージェントの数についての考え方を示した。
「1つ、多くて2〜3つの少数のエージェントになると思います。健康管理や人間関係の維持を担うパーソナルエージェントと、仕事用のエージェントが組み合わさるイメージです」
スマートフォンのアプリのように何十個も使い分けるのではなく、メールアドレスのように少数の核となるエージェントに依存する形になると見ている。
3-2. ビジネス向けエージェントの展開
インタビュー前日には、ビジネス向けエージェントの発表も行われた。広告主が顧客とのやり取りや広告キャンペーン開発に活用できるツールで、MetaのAIを企業の業務フローに組み込む取り組みの一環だ。
コンシューマー向けエージェントも開発中とのことで、こちらも「現在仕込み中」と表現した。
3-3. ワン氏自身のエージェント活用
ワン氏は自分自身のエージェント活用についても具体的に語った。
「健康管理のためのエージェントと、友人との関係を維持するためのエージェントを使っています。エージェントがない頃との差は明確で、これらは自分にとって本当に変化をもたらしています」
4. 中国との競争——「米国はリードしているが油断はできない」
4-1. 現状認識
AIにおける米中競争について、ワン氏は現時点では米国が優位にあるとしながらも、慎重な姿勢を崩さなかった。
「現在、米国はリードしていると思います。ただ、他国——特に中国の動向を常に追跡し、何が起きているかを正確に理解することが重要です」
同社がDeepSeekなど中国のオープンソースモデルを学習に活用してきた事実についても、業界の実態として認識した上での発言とみられる。
4-2. リードを脅かすリスクとは
米国の優位性を崩しかねない要因として、ワン氏は「スケーリングの継続」が鍵だと述べた。データ・計算資源・研究の三位一体でモデルを拡張し続けることが、競争優位を維持する条件だという。
「現在の研究の進歩ペースは、ある意味でほとんど奇跡的とも言えます。このペースを維持できるかどうかが重要です」
5. AI・雇用・規制——社会的論点への視点
5-1. 雇用喪失の懸念に対する反論
Metaは、AIへの数百億ドル規模の投資を続ける一方で、直近では一部人員削減も実施した。この矛盾について、ワン氏は正直に向き合いながら、一方でデータに基づく別の視点も示した。
「あまり語られていないことですが、AIは今まで以上に多くのビジネスを生み出しています。私たちのデータでは、AIツールを活用した新規起業の数が過去最多水準で増加し続けています」
大企業での雇用が変化する一方で、小規模事業者や起業家にとっての機会が広がっているという見方だ。
5-2. 規制についての立場
トランプ政権によるAIモデルの事前審査に関する大統領令については、概ね肯定的に評価した。
「この強力な技術について政府が真剣に考えていることは良いことだと思います。規制は常にバランスが難しいですが、モデルが劇的に高性能化している今、導入の在り方を慎重に考えることは重要です」

