Anthropic新モデル「Mythos」——数千件のゼロデイ脆弱性を発見、Apple・Microsoft・Amazonら12社が参画
Anthropicが2026年4月、新たなフロンティアモデル「Mythos」のプレビューを発表しました。同社が、「過去最も強力なモデルの一つ」と位置づけるこのモデルは、サイバーセキュリティの防御用途に特化した新プロジェクト「Project Glasswing」の一環として、Apple、Microsoft、Amazonを含む12の主要パートナー組織に限定公開されています。
すでに数千件のゼロデイ脆弱性を発見したとされるMythos。その能力と背景にある戦略、そして投資家・ビジネスパーソンが注目すべきポイントを整理します。
1. Mythos とは何か——Anthropic史上最強のフロンティアモデル
1-1. モデルの位置づけと基本性能
Mythosは、AnthropicのClaude AIシステム向けに開発された汎用フロンティアモデルです。同社のフロンティアモデルは、最も高度かつ高性能なモデル群と位置づけられ、エージェント構築やコーディングなど複雑なタスクに対応する設計がなされています。
Anthropicによれば、Mythosは、「強力なエージェント的コーディング能力と推論スキル」を持つとされ、ソフトウェアコーディング、学術的推論、サイバーセキュリティといった領域で、現在公開されている同社モデルの性能を大幅に上回るとしています。
1-2. リークされた内部文書が示す開発経緯
実はMythosの存在は、正式発表の約1か月前にすでに明るみに出ていました。Fortune誌が報じたデータセキュリティインシデントにおいて、当時「Capybara」というコードネームで呼ばれていたモデルに関するブログ草稿が、公開アクセス可能なデータレイク上のセキュリティ未設定のキャッシュから発見されたのです。
リークされた文書には次のような記述がありました。
「『Capybara』は、新しいモデル階層のための新しい名称であり、これまで我々の最も強力なモデルであったOpusモデルよりも大規模かつ高い知能を持つ」
「これまでに我々が開発した中で、はるかに最も強力なAIモデルである」
Anthropicは、このリークを「人為的ミス」に起因するものとしました。皮肉なことに、サイバーセキュリティ強化を掲げるプロジェクトの発表が、自社のセキュリティ上の問題から漏洩するという事態となりました。
2. Project Glasswing——AIによるサイバー防御の新枠組み
2-1. プロジェクトの概要と参画企業
Project Glasswingは、Mythosを活用した「防御的セキュリティ業務」および重要ソフトウェアの保護を目的とした新たなセキュリティイニシアチブです。
参画するパートナー組織は以下の12社です。
Amazon
Apple
Broadcom
Cisco
CrowdStrike
Linux Foundation
Microsoft
Palo Alto Networks
その他非公開の4組織
加えて、パートナーシップ外の40組織にもMythosプレビューへのアクセスが付与される予定です。ただし、一般公開は予定されていません。
2-2. 具体的な活用方法
Mythosは、サイバーセキュリティ専用に訓練されたモデルではありません。しかし、その汎用的な推論・コーディング能力を活かし、自社ソフトウェアおよびオープンソースソフトウェアのコード脆弱性スキャンに活用されます。
パートナー組織はプロジェクトを通じて得た知見を最終的に共有し、テック業界全体がその恩恵を受けられる仕組みを目指しています。これはオープンソースコミュニティにとっても意義のある取り組みと言えます。
3. 数千件のゼロデイ脆弱性を発見——その意味と影響
3-1. 発見された脆弱性の規模
Anthropicの発表によれば、Mythosは、ここ数週間の運用で「数千件のゼロデイ脆弱性を特定し、その多くがクリティカル(重大)なもの」であったとしています。さらに注目すべきは、これらの脆弱性の多くが1〜2十年前から存在していたという点です。
ゼロデイ脆弱性とは、ソフトウェア開発者やベンダーがまだ認識していない(あるいはパッチが適用されていない)セキュリティ上の欠陥です。これが10年以上にわたって発見されずに残っていたという事実は、従来の人手によるセキュリティ監査やツールの限界を浮き彫りにしています。
3-2. AIがセキュリティを変える理由
従来のコード監査は、人間のセキュリティ研究者や既存の静的解析ツールに依存していました。大規模なコードベース——特にオープンソースプロジェクト——では、すべてのコードを網羅的にチェックすることは現実的に困難です。
AIモデルが膨大なコードを高速かつ文脈を理解しながらスキャンできるとすれば、これはサイバーセキュリティの生産性を根本から変える可能性があります。一方で、Anthropic自身もリーク文書内で認めているように、この能力は悪意あるアクターがバグを発見し、修正ではなく悪用する方向に使われるリスクも孕んでいます。
4. Anthropicが抱える矛盾と課題
4-1. 自社のセキュリティインシデント
サイバーセキュリティ強化を旗印にするAnthropicですが、皮肉にも自社で複数のセキュリティ問題が発生しています。
Mythosリーク事件:内部文書が公開データレイク上で発見された
Claude Codeのソースコード流出:バージョン2.1.88のリリース時に、約2,000のソースコードファイルと50万行以上のコードが公開状態になった
GitHub上のリポジトリ削除騒動:上記の修復作業中に、数千のコードリポジトリが誤って削除される事態が発生
セキュリティを事業の柱にしようとする企業が、自社のセキュリティ管理で問題を起こしている現状は、信頼性の観点から注視すべきポイントです。
4-2. トランプ政権との法的対立
Anthropicは、現在、トランプ政権との間で法的な問題を抱えています。国防総省がAnthropicを「サプライチェーンリスク」と認定したことが発端で、その背景には、Anthropicが米国市民への自律的な標的設定や監視にAIを使用することを拒否した姿勢があるとされます。
こうした状況下で、Anthropicは、連邦当局とMythosの利用について「継続的な協議」を行っていると述べていますが、この交渉が複雑なものであることは想像に難くありません。
5. 投資家・ビジネスパーソンが注目すべきポイント
5-1. AIセキュリティ市場の拡大
Project Glasswingのようなイニシアチブは、AIを活用したサイバーセキュリティという新たな市場セグメントの成長を示唆しています。参画企業にはCrowdStrikeやPalo Alto Networksといったセキュリティ専業企業のほか、クラウドインフラを持つAmazonやMicrosoftも含まれており、市場の裾野は広いと考えられます。
5-2. Anthropicの競争力と評価
Mythosが、Opusモデルを超える性能を持つとすれば、Anthropicは、OpenAI、Google DeepMindとのフロンティアモデル競争においてさらに存在感を増す可能性があります。ただし、一般公開されていない現時点では、第三者による独立した性能検証は行われておらず、同社の主張をそのまま受け取るかどうかは慎重に判断する必要があります。
5-3. リスク要因
政府との関係悪化が事業拡大の障壁となる可能性
自社セキュリティ管理の不備が企業パートナーの信頼に影響するリスク
武器化リスク:モデルの能力が攻撃用途に転用される懸念
限定公開モデルであるため、短期的な収益への直接的寄与は不透明
