Anthropic売上300億ドル、Samsung利益755%増——AI半導体バリューチェーンの"今"と投資判断のヒント
2026年4月、AI半導体のバリューチェーンを巡るニュースが一斉に飛び込んできた。Anthropicは、Google TPU契約を数ギガワット規模に拡大し、年間売上ランレートが300億ドルに到達。Samsungは、四半期利益が前年比755%増で過去最高を更新した。一方、チップ調達では、Nvidia一強からの分散が全プレーヤーで加速している。Bloomberg Techの報道をもとに、AI経済の最前線と投資家が押さえるべきポイントを整理する。
1. Anthropic——年間売上300億ドルとTPU大増強
1-1. Claude CodeとCo-Workerが需要を牽引
Bloomberg TechのShirin Ghaffary記者によると、Anthropicは、GoogleとのTPU契約を数ギガワット規模に拡大した。当初は1ギガワットだった契約が3倍以上に膨らんでいる。
「Claude Code(コーディングエージェント)とClaude Co-Worker(汎用エージェント)の人気が急上昇し、エンタープライズ成長が非常に強い。 計算資源の増強が急務になっている」
Anthropicの年間売上ランレートは、300億ドルに到達。この規模は、Broadcomを含むTPU・カスタムチップ事業のエコシステム全体を押し上げている。
1-2. ペンタゴンとの係争がありながらも成長は止まらない
Anthropicは、現在、米国防総省との訴訟を抱えている。同社はこの紛争が「顧客喪失と数十億ドル規模の売上リスク」をもたらすと訴状で主張している。しかし、Ghaffary記者は、「少なくとも現時点では、売上成長を止めるには至っていない」と報じた。製品の競争力そのものが、地政学的リスクを上回る需要を生み出している状況だ。
1-3. 敵対的モデル蒸留——米フロンティアラボ3社の異例の協力
Anthropic・OpenAI・Googleという通常は激しく競合する3社が、敵対的モデル蒸留(Adversarial Model Distillation) という課題で珍しく協力体制を取っている。
「旧モデルの出力を使って新モデルを訓練する手法自体は日常的に行われている。 問題は、中国などの企業が米国企業のモデルをコピーし、無料のオープンモデルとして公開していること」
3社はこの手法の検出方法に関する情報を共有している。米中AI競争のフロントラインが、モデル性能だけでなく知的財産の防衛にも広がっていることを示す動きだ。
2. Samsung——四半期利益755%増、約90%がメモリ
2-1. 予想を上回る速報値
Samsungは、2026年1〜3月期の速報値で、営業利益が前年比約8倍(755%増) の過去最高を記録した。市場の高い期待値すら上回り、2025年通年の利益を1四半期だけで超えた計算になる。
アナリストの推定では、営業利益38兆ウォンの約90%がメモリチップ部門から来ている。AIデータセンター向け高帯域幅メモリ(HBM) への需要が爆発的に伸びた結果だ。
2-2. ネガティブ・ナラティブからの急転換
Bloomberg Techの記者が指摘するように、Samsungはつい最近まで「HBMでSK hynixに大きく遅れを取っている」というネガティブな見方が支配的だった。
「いかに素早くナラティブを転換したかが興味深い」
この急転換は、AI半導体需要の裾野がTSMCやNvidiaだけでなく、メモリメーカーにも構造的な恩恵をもたらしていることを裏付けている。なお、速報値のため部門別の詳細は4月30日の本決算で明らかになる見込みだ。
3. チップサプライチェーンの多極化——「脱Nvidia」の全体像
3-1. 全プレーヤーが分散を加速
Bloomberg Techの報道を横断すると、ハイパースケーラーとフロンティアラボのチップ調達多角化が明確なトレンドとして浮かび上がる。

D.A. DavidsonのGil Lurie氏はこの構図を総括する。
「ハイパースケーラーとフロンティアラボのすべてが、大手チップメーカーに分散し、Nvidiaに依存しすぎないようにしている。 ミックスがどうなるかは彼ら自身もまだ分かっていない。最も実行力のあるチップ企業が量を獲得する」
3-2. Broadcomの受益
この多極化の最大の受益者の一つが、Broadcomだ。Google TPU向けカスタムチップの供給拡大に加え、Anthropicの急成長がそのまま受注増につながっている。Bloomberg Techの放送時点でBroadcom株は約4%上昇していた。
4. ARM——スマホからデータセンターへの「桁違い」の転換
ARMのCEOは、Bloomberg Tech Euroのインタビューで、事業構成の劇的な変化を語った。
「数年後にはクラウド・AIデータセンターが最大の事業になり、5年後にはスマートフォンの数桁上(orders of magnitude)の規模になる」
ARMは100億ドル規模のデータセンター市場への参入を目指しているが、一方でMorgan Stanleyは同社をイコールウェイト(中立)に格下げし、実行リスクへの懸念を表明した。スマートフォン向けライセンスという安定収益源から、データセンター向けチップ販売というまったく異なるビジネスモデルへの転換は、成功すれば大きなアップサイドだが、道のりは平坦ではない。
5. マクロ環境と投資戦略——「追いかけるな、しかし備えろ」
5-1. 中東リスクがテック株を圧迫
Bloomberg Techの放送当日、市場は、米国・イラン間の緊張に強く反応していた。Nasdaq 100は1.5%下落、原油価格は上昇。トランプ大統領が設定した午後8時の期限を前に、イランが交渉を打ち切ったとの報道が不安を増幅させた。
5-2. Brewin Dolphin Janet Mui氏の見解
資産運用会社Brewin DolphinのJanet Mui氏は、テック株への慎重姿勢を明確にした。
「原油価格が高止まりすれば、世界経済の成長圧力とインフレの上振れリスクをもたらす。 中央銀行の利下げアジェンダは放棄され、利上げすらあり得る。先週のラリーを追いかけるべきではない」
ポートフォリオの防衛策としては3つを推奨している。
エネルギー株:インフレヘッジ+高配当
金:直近の高値から下落しており、比較的良いエントリーポイント
物価連動債:高インフレ見通しへの直接的なヘッジ
5-3. しかし、AIファンダメンタルズは監視を継続
一方で、Mui氏はこうも述べた。
「テーマは並行して進む。 一部の高品質成長株やAIインフラの"ピックス・アンド・ショベルズ"銘柄には、ここ数カ月で大幅なディスカウントが生じている。ボラティリティでさらに割引が進めば、ポジションを追加する機会になる」
テック株のエクスポージャーは、依然として米国中心であり、「AIインフラの基盤レイヤー(ピックス・アンド・ショベルズ)は、ソフトウェアの陳腐化に関わらず構造的な成長ドライバーだ」との見方を維持した。
6. VC最前線——再工業化と「非自明なAI活用」
6-1. Eclipse:物理産業への13億ドル
VC firm Eclipseが、ロボティクス・製造・エネルギー分野のスタートアップ向けに13億ドルを2つのファンドで調達した。創業者のLior Susan氏はワシントンD.C.から語った。
「米国経済のGDP成長率を5%に引き上げるには物理的産業が不可欠だ。 物理産業は世界GDPの85%を占めている。資本・政策・技術・人材・顧客需要の5つの力が揃ったのは、米国の歴史でヘンリー・フォードやカーネギーの時代以来だ。以前これらが揃っていたのは中国だけだった」
Susan氏は、J.P. MorganのJamie Dimonと防衛生産法について登壇する予定で、「J.P. Morganが1.5兆ドルをこれらの事業支援に充てている」と述べた。
6-2. FPV Ventures:「AI企業に見えないAI企業」に投資する
FPV VenturesのWesley Chan氏(元Google Ventures創設パートナー)は、自身の投資哲学をこう表現する。
「すべてのAI勝者が最初からAI企業に見えるわけではない」
その象徴が、Canvaだ。
「Canvaは、35歳以下が最もAIにアクセスする手段の第3位だ。 ChatGPTが1位、Googleが2位。ほとんどの人はCanvaをデザイン会社だと思っているが、今やAI企業だ」
Chan氏は、AI創薬分野にも投資しており、ポートフォリオ企業の一つはAIで膝の軟骨を再生させる薬を発見した。
「AIが臨床試験の結果を予測し、薬を見つけた。 スキーヤーやランナーが人工膝関節置換を不要にできる可能性がある」
投資先は米国全土に分散しており(ボルダー、ボストン、ニューヨーク等)、「世界を大きく変えようとしている限り、場所は問わない」と語った。

