元アスリートCEOが挑む、テクノロジー×睡眠の未来
近年、「睡眠の質」を高めることの重要性は、健康やビジネスパフォーマンスにおいてますます注目を集めています。世界的にも数多くの企業や専門家が睡眠改善テクノロジーに取り組む中、今回取り上げるのが「Eight Sleep(エイトスリープ)」という革新的な企業です。CEOであるMatteo Franceschetti(マテオ・フランチェスケッティ)は元アスリートであり、「眠り」に対する情熱と科学的アプローチを融合させて、睡眠を“次の次元”へと進化させようと試みています。本記事では、彼が創業したEight Sleepの特徴や事業背景、そして自らも実践している具体的な睡眠改善方法までをわかりやすく解説します。
1. なぜ睡眠パフォーマンスを最大化する必要があるのか
1-1. 深い睡眠の重要性
「健康の三大要素」として挙げられるのが睡眠・栄養・運動です。なかでも睡眠は健康の土台にあたり、質の良い睡眠なくして効率的な運動や食事管理を維持するのは難しいと言われています。実際に睡眠不足が続くと、血糖値の乱高下やインスリン抵抗性が高まり、食欲が制御しにくくなることがわかっています。また、集中力や記憶力、メンタル面にも影響が出やすく、結果的に仕事や学習のパフォーマンスに大きく支障をきたします。
1-2. パフォーマンスと健康の関係
睡眠が不十分な状態では、たとえ栄養バランスの良い食事やハードなトレーニングを行っても、その効果は十分に得られません。CEOであるMatteo自身も「健康は睡眠・栄養・運動が三位一体。なかでも睡眠が基礎」と強調しています。睡眠の質を高めることで長期的な心身の健康はもちろん、ビジネスパフォーマンスや創造性、さらにはストレス耐性までも向上すると期待されています。
2. Eight Sleepという企業とは
2-1. 創業の背景
Matteo Franceschettiは、イタリアでテニスの大会に出場するほどのアスリートでした。しかし、起業家として活動するようになると、長時間の労働やストレスで睡眠の質に疑問を持ち始めます。彼は「イーロン・マスクはロケットで火星へ行こうとしているのに、私たちは人生の3分の1を“ただの布団”の上で過ごしている。技術の進歩で睡眠を最適化できないのだろうか」という疑問を持ったといいます。この問題意識がEight Sleepのアイデアの原点でした。
2-2. プロダクトの概要
Eight Sleepでは、ベッド自体をテクノロジーのプラットフォームと考え、睡眠中のユーザーを最適にサポートする仕組みを構築しています。具体的には以下の特徴があります。
温度コントロール機能
ベッドやカバーに内蔵されたシステムが、ユーザーの体温や環境に応じて温度を自動調整。左右で温度を変えられるため、パートナーと快適温度が異なる場合にも対応可能です。生体センサーの搭載
心拍数、呼吸数、睡眠段階などを常時モニタリング。HRV(心拍変動)や睡眠の質などのデータをアプリで確認できます。将来的なビジョン
「眠っている間に身体をスキャンし、病気の早期発見をする」ことや「睡眠時間を短縮し、かつ高いパフォーマンスを維持する」ことを目指し、継続的に研究開発を進めています。
3. CEOであるMatteo Franceschettiのストーリー
3-1. アスリートとしての視点
冒頭でも述べたようにMatteoは若い頃からテニスに打ち込み、アスリートとして「パフォーマンスを高めること」への意識が強かったそうです。アスリートとしての経験から、身体や健康を向上させるには科学的根拠が重要だと考え、睡眠の改善に取り組むことを決意しました。
3-2. 過去の起業経験とクリーンテック事業
Eight Sleepを立ち上げる前、Matteoはクリーンテック分野で2つの会社を創業しています。ヨーロッパで太陽光発電の大規模プラントを開発し、それを売却。その後、ニューヨークで同じモデルを展開し、最終的にPanasonicに事業売却を成功させました。「世界をより良くする」ことが当初からのモチベーションにあり、そこから「睡眠」という新たな大きな課題に着目したのです。
3-3. 創業者同士の連携と夫婦経営
Eight Sleepには3名の共同創業者がおり、そのうちの1人がMatteoの妻であるAlexandraです。夫婦が同じ会社を経営する場合、仕事とプライベートの線引きが難しいもの。しかし彼らは業務連絡にはSlack、私的な連絡にはWhatsAppといった具合にツールを使い分け、時間帯によっては仕事の会話を制限するなど、明確なルールを設定。土曜日の朝だけは2人きりで「仕事の話」をゆっくりする時間を設けるなど、緻密に運用しているとのことです。
4. 具体的な睡眠改善方法
4-1. Matteoの夜のルーティン
Matteoは、夜の2時間前から睡眠に向けたルーティンを始めるといいます。たとえば、冷水と温水のシャワーを交互に浴びる「サーマルショック」を行い、身体の深部体温や自律神経を整えます。また、可能であればサウナとコールドバスを交互に利用し、身体を緩めつつリラックスモードへ切り替えることを意識しているそうです。
さらに、就寝前は光を徐々に落とし、室内を暗くしていきます。就寝時は遮光性の高いカーテンやアイマスク、そして耳栓まで使用し、外界からの刺激を最小化。寝具の温度調節機能で理想的なベッドの温度を保ち、深く安定した睡眠を得やすくしています。
4-2. サプリメントや栄養管理
Matteoは栄養面でも非常にストイックなようです。
マグネシウムやメラトニンを状況に応じて活用し、筋肉の弛緩や睡眠誘導を補助
1日1食(週末は16時間断食+8時間食事可能という形)の断続的ファスティング
ケトジェニック(低炭水化物)な食生活を継続
また、Levelsという血糖値モニタリングデバイスを装着し、食事による血糖値の変動を常に把握。血糖値スパイク(急上昇)を抑えることで、身体への負担や睡眠の質を損なわないように意識しています。
4-3. 温度管理や光管理の重要性
Eight Sleepが提案する最大のポイントが温度管理です。睡眠中は体温が下がるタイミングで深い眠りに入りやすいとされます。そこで、「各個人の睡眠ステージや環境の変化に応じてベッドの温度を自動調整」できるのがEight Sleepの大きな特長。たとえば、就寝直後は少し涼しく、明け方に向けて体温が上昇してくるタイミングではベッドも微妙に温度を変える—といった最適化が可能です。
さらに、照明を暗くするだけでなく、寝室自体を適度な温度(約21℃前後)に保つことも推奨されます。こうした環境要因の最適化は、単に気持ち良く眠れるだけでなく、深い睡眠を獲得するうえで非常に重要なカギになります。
5. 睡眠とビジネス
5-1. 睡眠が起業家や仕事の効率に与える影響
睡眠不足は集中力の低下、ミスの増加、意思決定力の阻害など、ビジネスパーソンにとって致命的な問題を引き起こします。逆に、質の高い睡眠は創造性と生産性を上げるだけでなく、ストレス耐性を高める効果も期待できます。Matteoも自身が起業家として長時間働くなかで「睡眠を最適化しなければ、健全なパフォーマンスは維持できない」ことを痛感し、Eight Sleepの事業に取り組んできたと語っています。
5-2. Eight Sleepの顧客獲得戦略
Eight Sleepは、オンライン直販の形態をとっており、大型広告を大量に打つのではなく「TwitterなどのSNSでの口コミ」や「既存ユーザーの実体験シェア」を活かし、徐々にファンを増やしてきました。ユーザーが他の睡眠トラッキングデバイス(たとえばOura Ringなど)と比較して「深い睡眠が20~40%増えた」といった成果をSNSで拡散することで、興味を持つ人が増えています。
実際、Matteo自身も積極的にSNSを活用しており、製品についてのフィードバックをユーザーと直接やりとりしたり、睡眠に関する最新の知見を共有したりしています。
5-3. 今後のビジョン
Eight Sleepは「より短い睡眠で高いパフォーマンスを実現する」こと、そして「睡眠中に身体をスキャンして病気の早期兆候を捉える」ことを将来的なゴールとして掲げています。医療デバイスの領域とも密接に関わるだけに、さらなる臨床研究や規制面でのハードルはあるものの、“寝ているあいだに健康を管理できる世界”の実現を目指して着実に歩みを進めています。
6. おすすめのリソース・書籍
6-1. 『Why We Sleep』などの基本的文献
Matteo自身も強く推奨するのが、Matthew Walker氏の著書『Why We Sleep(邦題:Why We Sleep 世界最高の睡眠科学が教える、もっとも深い休息)』です。
この本は睡眠研究の第一人者が執筆しており、睡眠不足がもたらすリスクや良質な睡眠のための原理原則を科学的に解説しています。睡眠の基礎を学ぶうえで非常に有用です。
6-2. その他の情報源
Peter Attiaのポッドキャストやブログ: 栄養や運動、睡眠などを総合的に扱う人気ドクター。
The Almanack of Naval Ravikant: スタートアップ界隈で影響力の大きいNaval Ravikantの思考をまとめた書籍。睡眠そのものを深堀りしているわけではありませんが、ライフスタイルや思考法へのヒントが得られます。
Daily Stoic(デイリー・ストア): 古代ギリシャやローマの哲学者たちの言葉から学ぶ365日分の考察。人間の悩みは昔も今も変わらないという示唆が豊富で、ストレスマネジメントの一助になります。
睡眠は人生の3分の1を占める重要な時間であるにもかかわらず、テクノロジーによる最適化の余地がまだまだ大きい分野です。Eight Sleepが提供するソリューションは「ベッドをただの寝具ととらえず、ハイテク・ヘルスケアの一端とする」という新たな発想を具体化したものだといえます。
Matteo Franceschettiがアスリートとしての知見と起業家としての経験を融合させて実現したEight Sleepは、睡眠を「身体機能の回復」だけでなく、「病気の予兆を発見できる場」や「高いパフォーマンスに直結する要素」として捉えています。
実際、温度や光、栄養などの複合的アプローチにより、睡眠の質を劇的に改善したユーザーの声がSNSを中心に広がっているのも事実です。短期間での効果のみならず、長期的な健康維持や仕事・学習効率の向上にも繋がるため、多忙な現代人にとってより重要度の増すテクノロジーといえます。
睡眠の最適化は、ビジネスパーソンやアスリートだけではなく、あらゆる人にとって大きなメリットがあります。今後の研究やイノベーション次第では、私たちが当たり前のように使っていた「寝具」が、まさに「生命維持装置」や「健康管理ツール」へと進化していくかもしれません。寝ているあいだに体の状態をモニタリングし、早期診断や長寿命化を実現する未来もそう遠くないでしょう。まずは日常的なルーティンや環境づくりから、自分の睡眠を意識してみてはいかがでしょうか。
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