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ビットコインは"持つ"時代から"信用を生む"時代へ——Saylorが株式でも債券でもない第3の金融商品を作った理由

「通貨を直せ。世界を直せ(Fix the Money, Fix the World)」——これはMichael Saylorが繰り返し語るスローガンであり、同時に、Strategy社(旧MicroStrategy)の経営戦略そのものでもある。

Banklessのインタビューに登場したSaylorは、ビットコインの21年間にわたる価格見通し、新型クレジット商品「STRC」の設計思想、量子コンピュータへの見解、そして、イーサリアムを含むデジタル資産市場の未来について、約1時間40分にわたって語った。本記事では、その内容を構造的に整理し、投資家・ビジネスマンが押さえるべきポイントを解説する。


1. Saylorのビットコイン長期見通し——1コイン2,100万ドルへの道筋


1-1. 21年間の年平均成長率29%

Saylorは、自身のビットコイン評価を端的にこう述べた。

「21年間の見通しで、年平均約29%のARR(年率リターン)になると考えている。過去5年は約37%だったが、これは徐々に減速していくだろう」

この成長率を21年間にわたって複利で適用すると、ビットコインの価格は最終的に1コイン2,100万ドル(約30億円)、時価総額は約400兆ドルに達する計算になる。Saylorは、これを「世界の支配的なデジタル資本(dominant digital capital)」と位置づけている。

1-2. 短期予測には慎重な姿勢

一方で、短期的な値動きの予測には距離を置く。

「ビットコインは、12週間や24週間の動きを予測しようとする者を、すべて愚か者にしてきた。それは私の手に余る(above my pay grade)」

長期では強気、短期でも強気としつつ、中期的には、「予測不能な展開による予想外のサプライズ」がある点を認めている。

2. 2,100万ドルに到達するための条件


Saylorは、この長期目標が実現するために必要な条件として、以下の複数の要素を挙げた。

2-1. グローバルな資産としての正式な認知

米国、中国、欧州、日本がビットコインを長期保有可能な「資本資産」として認知すること。これは制度面での最も基本的な前提条件である。

2-2. 銀行システムへの組み込み

現在、バーゼル規制は、銀行がビットコインを保有することに重いペナルティを課している。Saylorは、「銀行がビットコインを担保として保有しても不利にならないよう正常化されれば、大きな前進となる」と述べた。

2-3. ETFによる証券化と資金流入

ビットコインETFの組成と、そこへの資金流入はすでに始まっている第3のステップである。

2-4. 銀行信用ネットワークの形成

これがSaylorが最も注視する要素だ。

「ビットコインのマイナーは、現在、1日あたり約450BTC、年間約100億ドル相当の新規供給を市場に出している。誰かが100億ドルの信用を創出するたびに、年間供給全量を買い占めることになる」

JPモルガンのような大手銀行がビットコインを担保に信用を供与し始めれば、一行が100億ドルの融資を行うだけで年間供給分のビットコインが吸収される。こうした銀行信用ネットワークの拡大が、価格を大きく押し上げる構造的な要因になるとSaylorは分析する。

2-5. リハイポセケーション(再担保化)の解消

現在、1兆ドル超のビットコインが「アンバンクト(unbanked)」な状態にあり、利回りや融資を得るために暗号資産取引所でリハイポセケーション(再担保化)されている。

「誰かが1,000億ドルのビットコインを担保にして100〜200億ドルの現金を借りれば、1,000億ドル分のビットコインが空売りされていることになる。10年分の供給を空売りしているのと同じだ」

銀行が従来型のコンフォーミング・ローンをビットコイン担保で提供するようになれば、この再担保化が不要になり、空売り圧力が解消されてショートスクイーズが発生する可能性がある。

3. ビットコイン採用は停滞しているのか?——エクイティからクレジットへの進化


Bankless側から「採用が停滞しているのでは」という指摘を受け、Saylorは、段階的な進化を説明した。

「最初はエクイティ(株式)の段階だった。次に、転換社債の段階があり、世界最大の転換社債発行体になった。そして、その市場を使い切った後、今はクレジットの段階に入っている」

この「クレジットの段階」の中核を担うのが、後述するSTRCやSADAといったデジタルクレジット商品である。Saylorは、その将来性について、「月間数十億ドル、そして数百億ドル規模に拡大しない理由はない」と述べている。

現在のビットコイン市場を動かす2つの資本ソースは、(1) Strategy社のような上場企業によるデジタルクレジットの発行と、(2) メガバンクによる銀行信用ネットワークの形成であるとSaylorは整理する。

4. STRCの設計思想——「ビットコイン担保のマネーマーケット商品」


4-1. 既存商品からの学び

Strategy社は、これまでに、Strike、Strife、Stride、そして、STRC(Stretch)、Streamと、複数の金融商品を市場に投入してきた。Saylorは、それぞれの商品がどのような投資家ニーズに応えようとし、何が足りなかったかを率直に振り返る。

ビットコインそのものは、「100時間の説明が必要な商品」であり、転換社債は「144A」規制により個人投資家は購入できない。転換型優先株(Strike等)は個人投資家が買えるようになったが、元本が日次で数%変動するリスクがあった。

「通りを歩いて100人に聞いてみるといい。ボラティリティ50で年率37%のリターンがある暗号資産を欲しいかと。1人か2人しか興味を示さない。では10%の利回りがつく銀行口座はどうか。ほぼ全員が欲しがる」

4-2. 投資家が本当に求めたもの

非暗号資産の友人たちからのフィードバックが、STRCの設計を決定づけた。

  • 配当は四半期ごとではなく月次にしてほしい

  • 元本が95〜105の間で変動すると、1年分の配当が吹き飛ぶ——元本の安定が欲しい

  • デュレーション(満期までの期間)は要らない

  • デルタ(株価との連動性)も要らない

  • ボラティリティも要らない

  • 純粋な利回りだけが欲しい

「ウィンストン・チャーチルの言葉がある。『アメリカ人は、他のすべてを試した後に、正しいことをする』。STRCは、19の他のディールを経た後に辿り着いた答えだ」

4-3. STRCの金融工学的な独自性

STRCは、投資家から見れば最もシンプルな商品だが、発行体から見れば最も野心的な金融工学の産物だとSaylorは語る。

「投資家にとっては自動運転車のようなもの。乗り込んで、コーヒーを飲んで、寝てしまえばいい。しかし、その裏側にある自動車工学は極めて高度だ」

具体的な仕組みは次の通りだ。

  • 月次変動金利型優先株——これは「世界で初めて」の設計だとSaylorは主張する

  • 一般的な優先株は固定配当か、SOFR+固定スプレッドの「フローター」だが、いずれもクレジットスプレッドは固定されている

  • STRCではクレジットスプレッドそのものを毎月調整可能にした

  • さらにATMシェルフ登録(市場での追加発行権)と組み合わせることで、元本価格を100ドル近辺に安定させる

ビットコインが125,000ドルから60,000ドルに急落した局面では、以下のような対応が取られた。

  1. 100ドル以下では売らない

  2. 現金準備を積み増して信用力を改善

  3. ビットコインを追加購入して担保を厚くする

  4. 配当率を6回連続で引き上げ

結果として、直近30日のビットコインのボラティリティが55であるのに対し、STRCのボラティリティは2未満。S&P500構成銘柄のボラティリティが2.5〜100の範囲であることを考えると、STRCは、S&P500全銘柄の中で最もボラティリティの低い証券になったと言える。

5. 11.5%の利回りはどこから来るのか


5-1. 資産担保クレジットの基本理論

Saylorは、利回りの源泉を、資産担保クレジットの一般理論から説明する。

世の中には、キャッシュフローを生まないが長期的な値上がりが期待できる「資本資産」がある。巨匠の絵画、金、マンハッタンの土地、ダイヤモンドなどだ。一方で、毎月の安定したキャッシュフローを求める投資家もいる。

「資本資産をクレジット資産に変換するにはどうするか。例えば、金が年5%上昇すると考えるなら、100億ドルのエクイティを調達して金を買い、その期待リターンの65%(3.5%)を配当として優先株投資家に支払えばいい」

5-2. Strategy社の場合

Strategy社は、ビットコインの長期ARRを約29%と見積もっている。11%前後の配当を支払うことは、期待リターンの約3分の1に相当する。

配当の原資は以下の3つのルートで確保される。

  1. MSTR株がNAVプレミアムで取引されている場合 → 株式を売却して現金化

  2. プレミアムがない場合 → 最も高い取得原価のビットコインを売却し、キャピタルゲインを現金化

  3. デリバティブ市場 → アウト・オブ・ザ・マネーのコールオプション売却、ベーシストレード、スワップなど

加えて、約2年分の現金準備を保持しており、市場環境が不利な場合のバッファとしている。

5-3. 損益分岐点はわずか2%

「500億ドルのエクイティ・タワーがある。ビットコインが年2%上昇するだけで、年間10億ドルの利益が生まれる。それが配当の原資だ。損益分岐点は2%。ビットコインが2%も上がらないと思うなら、ビットコイン企業の株主であるべきではない」

6. 「マージンリスク」は存在しない——永久スワップとしてのSTRC


Saylorは、Strategy社の資本構造にマージン(証拠金)リスクは存在しないと断言する。

「マージンローンは1日物のマネーだ。ボラティリティがあれば追証が発生する。STRCを売るとき、我々が売っているのはエクイティだ。あなたが100万ドルを出せば、そのお金は永遠に返す義務がない」

STRCは法的には永久優先株であり、以下の特徴を持つ。

  • 投資家には償還請求権がない(issuerへの返金要求不可)

  • 満期日が存在しない

  • 担保コール(追証)が発生しない

  • ビットコインが95%下落しても強制清算は起きない

統計的にモデリングすると、発行体は約20年間にわたって資本を保持できるデュレーションの商品に相当する。暗号資産取引所での借入が「20分間のマネー」、通常のマージンローンが「20時間のマネー」であるのに対し、STRCは「20年間のマネー」だとSaylorは対比する。

万が一、配当の支払いが会社の債務超過を引き起こす場合は、法律上、取締役会が配当を承認できない。その場合は12週間の配当停止という形で調整される。「優先株の発行体を倒産させることは、文字通り不可能だ」とSaylorは述べている。

7. Strategy社はビットコインの購入を止めるのか


7-1. 「レーザーフォーカス」は変わらない

Strategy社が将来的に蓄積戦略を緩めるかという問いに対し、Saylorの回答は明確だった。

「300年間、世界はゴールド担保の信用で動いてきた。ビットコインが、デジタルゴールドであるなら、デジタル資本の上にデジタルクレジットを構築するのは自然なことだ」

仮にビットコインの購入を止めた場合、年率29%のARRを代替する投資先を見つけなければならない。Saylorは、「それ以上の長期資本投資は存在しない」と断言する。

7-2. 300兆ドルのクレジット市場への展望

「現在の世界のクレジット市場は300兆ドル。その利回りはSOFR+80〜200ベーシスポイント程度。もしその5%を転換できれば、15兆ドルのクレジットになる」

Strategy社の視点では、クレジットの発行はビットコインの取得と表裏一体であり、止める理由がない。むしろ、ビットコインを買えば買うほどエコシステム全体のリスクが低下し、不確実性が減少するという好循環が生まれるとSaylorは主張する。

7-3. 純粋さがもたらす透明性

「もし我々がヘッジしたり分散投資したりすれば、不透明な証券、不明瞭なクレジットリスクが生まれる。我々は純粋な(pure play)ビットコインのエクイティとクレジットを提供しているからこそ、投資家はロングもショートもアービトラージも合理的に行える」

投資家のポートフォリオ全体が100%ビットコインである必要はない。Strategy社が提供するのは、投資家が自身のポートフォリオの中で1%や5%を配分するための、透明で予測可能な「純粋な」ビットコイン証券である。

8. 量子コンピュータの脅威——「パニックしてはならない」


8-1. 楽観主義者、悲観主義者、そしてアラーミスト

Googleが量子コンピュータに関する論文を発表し、ECDSAを破るために必要な論理量子ビットの20倍の削減を報告した。これに対するSaylorの見解は、明確に「楽観主義者」のそれだった。

「世界には3種類の人間がいる。楽観主義者、悲観主義者、そしてアラーミスト(警告主義者)だ」

楽観主義者は、新たな発展が脅威と機会の両方をもたらすことを理解し、時が来れば対処できると考える。悲観主義者はリスクを列挙するが、それは準備のために必要だ。問題は、アラーミストで、「仮想的なリスクを1万倍に増幅し、そこからお金や権力を得ようとする」人々だとSaylorは指摘する。

8-2. イアトロジェニック(医原性)のリスク

Saylorは、量子脅威への過剰反応こそが最大のリスクだと警鐘を鳴らす。ニコラス・タレブが頻繁に使う「イアトロジェニック」(治療が病気よりも悪い結果を生む)という概念を引用し、性急な対策がビットコインネットワーク自体に新たな攻撃面を導入する危険性を指摘した。

「サトシも当時、量子脅威について聞かれたとき、こう答えた。『アップグレードできる(We can upgrade)』と」

ビットコインコミュニティが慎重に、しかし、着実にポスト量子暗号への移行を検討している現状は健全であり、「早すぎず、遅すぎず、適切なタイミングで動く」ことが重要だとSaylorは強調した。

9. イーサリアムに対する見解——「2年前より未来は明るい」


9-1. デジタル資本とトークン化ネットワークの棲み分け

Saylorは、ビットコインを「キャッシュフローも実用性もない純粋な長期資本資産」と定義する一方、イーサリアムを含むプルーフ・オブ・ステーク型ネットワークについては、証券・通貨・商品のトークン化という異なる領域のリーダーとして認識していると述べた。

「イーサリアムは明確にその分野のリーダーであり、ソラナ、Hype、Suiなどとの競争が続くだろう」

9-2. 規制環境の変化

前政権(バイデン政権)下では、トークン化のユースケースは「非合法」とみなされていた。しかし、トランプ政権後のSEC(ポール・アトキンス委員長)やCFTC(サリグ氏)により、トークン化は正統性を獲得した。

「2年前には見えにくかった未来が、今ではかなり明確になっている」

Saylorの理想像は、4,000万の中小企業が数日で独自のトークンを発行して資金調達できる世界であり、すべての証券がトークン化されて24時間365日取引される世界だ。ただし、「それは自分の管轄外(above my pay grade)」であり、伝統的金融との間に緊張関係があることも認めている。

10. 「通貨を直す」——10億人に届ける8%の銀行口座


10-1. 歴史的文脈での位置づけ

Saylorはインタビューの締めくくりで、Strategy社の究極的なミッションを歴史的な文脈に位置づけた。

  • ロックフェラー → 灯油・ガソリンで生活を改善

  • フォード → 自動車を大衆に届けた

  • ジョブズ → 10億人にiPhoneを与えた

「デジタル資産における同等のものは何か?答えはシンプルだ。インフレ率を上回る利回りを支払う銀行口座。8%を支払ってくれる銀行口座だ」

10-2. デジタル3層構造

Saylorが描く金融アーキテクチャは3つの層で構成される。

  1. デジタル資本(Digital Capital) = ビットコイン——希少で、望ましく、希釈されない

  2. デジタルクレジット(Digital Credit) = STRC等——ボラティリティを除去し、安定利回りを提供

  3. デジタルマネー(Digital Money) = 銀行・金融アドバイザーが最終消費者に届ける層

「お金が銀行に流れ込み、デジタルクレジットに変換され、デジタル資本に流れる。デジタル資本は希少で望ましく、希釈できない。価格が上がり、担保が増え、キャピタルゲインのキャッシュフローがクレジット投資家に還元される」

UAEの銀行がドル預金に8%を支払い、自らは100〜200ベーシスポイントを取る。1,000億ドルが流入すれば、その国のGNPが倍増する——Saylorはそう具体的にシナリオを描いて見せた。

10-3. 「暗号リアクター」としてのStrategy社

「我々は580億ドルを費やして暗号リアクター(crypto reactor)を作った。エクイティ1ドルに対して年間10〜20セントのクレジットを生成できる。つまり年間50〜100億ドルのデジタルクレジットを創出し、それを年30〜50%で拡大していける」

Saylorは、これを電気やエネルギーに匹敵する可能性を秘めた事業と位置づけ、「たとえ成功の確率が小さくても、人生を捧げるに値する」と結んだ。

まとめ


Michael Saylorのビジョンは、一見すると壮大すぎるように映る。しかしその核心は驚くほどシンプルだ。

  • ビットコインという希少なデジタル資本を蓄積する

  • その期待リターンの一部をクレジット投資家に配分する

  • ボラティリティをエクイティ側が吸収し、クレジット側には安定を提供する

  • 最終的に、銀行や金融機関を通じて、一般消費者にインフレ率を上回る利回りを届ける

STRCは、この構想を具現化した最初の本格的な商品であり、そのボラティリティの低さ(30日ボラティリティ2未満)は理論が実装段階に入ったことを示している。

もちろん、これはビットコインの長期上昇を前提とした構造であり、その前提が崩れれば機能しない。Saylor自身も損益分岐点が年率2%であることを認めている。しかし、580億ドルの「暗号リアクター」を構築し、年間供給量の何倍ものビットコインを購入し続ける企業が存在すること自体が、需給構造に対する一つの回答でもある。

「通貨を直す」というビジョンが実現するかどうかは、時間が証明する。だが、その設計図がこれほど具体的に語られたことは、投資家として注目に値するだろう。

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