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ソフトウェア株は今買うべきか?——アイズマン×Bairdアナリストの対談から掴む"判断基準"

映画『マネー・ショート(The Big Short)』のモデルとして知られる投資家 スティーブ・アイズマン(Steve Eisman)が、自身のポッドキャスト「The Real Eisman Playbook」で、ソフトウェアセクターの現状と展望を掘り下げた。ゲストは、Bairdのソフトウェアアナリスト、ロブ・オリバー(Rob Oliver)。四半世紀にわたりソフトウェア業界を追い続けてきた専門家だ。

アイズマンは、冒頭でこう語っている。「もし戦争がなければ、今一番話を聞くべき人物だろう」と。それほどソフトウェア株が置かれた状況は深刻であり、同時に重要な投資テーマだということだ。

この記事では、約1時間に及ぶ対談の要点を整理し、ソフトウェア株に何が起きているのか、5つのベアケース、そして「生き残る企業」の条件を投資家・ビジネスマン向けにまとめる。


1. ソフトウェア株の歴史的背景——なぜ「最良のセクター」だったのか


1-1. 粘着性とプライシングパワーのビジネスモデル

オリバー氏は、ソフトウェア企業がなぜ長期にわたって優良投資先だったかを丁寧に解説している。その核心は、「システム・オブ・レコード(記録の基盤)」としての粘着性にある。

大企業は、Salesforce自動化やIT管理などを自社開発することもできるが、専業ベンダーの製品を選び、それが基幹システムとして定着する。いったん導入されると、チェンジマネジメント(変更管理)のコストが高く、入れ替えは極めて難しい。その結果、ソフトウェア企業は、高い価格転嫁力と予測可能な経常収益を享受してきた。

1-2. 過去のトランジションを乗り越えた実績

クライアント・サーバーからWeb、パッケージライセンスからクラウドSaaSへ——ソフトウェア業界は大きな技術転換を何度も経験している。そのたびに、イノベーションに成功した企業はむしろ成長を加速させた。

オリバー氏は、Adobeを好例として挙げた。パッケージ販売からクラウドサブスクリプションへの移行は、企業にも投資家にも新たな価値をもたらし、「1+1=3」の効果を生んだ。

1-3. そして突然の「崩壊」

ところが約1年半前を境に、この「最高のセクター」は一変した。アイズマンは、「良い決算でも、悪い決算でも、どんな決算でも下がるグループを見たことがない」と驚きを隠さない。象徴的なのが、ServiceNowだ。Q4決算で売上成長率21%、どの数字にもケチのつけようがなかったにもかかわらず、株価は10%下落した。

2. ソフトウェア株を蝕む「5つのベアケース」


オリバー氏の元上司には、「ベアケースが4つ出揃ったらその株は見送れ」という教えがあったという。今回のソフトウェアセクターでは、4つどころか5つのベアケースが並んでいる。

2-1. ソフトウェアの開発コストが劇的に低下した

AI、とりわけ生成AIとコーディングアシスタントの登場により、ソフトウェアを作るコストは大幅に下がった。オリバー氏は、「たとえコーディングの素人でも、数分でWebアプリケーションを立ち上げられる時代」と表現する。いわゆる「バイブコーディング(vibe coding)」の潮流だ。

コードを書けるエンジニアにとっては、同じ成果をはるかに少ない人数で実現できるようになった。つまり、ソフトウェアの供給コストという観点で、既存企業の参入障壁は確実に下がっている。

2-2. モート(堀)の縮小

開発コストの低下は、そのまま既存企業のモート縮小につながる。たとえば、大手銀行が、外部ベンダーの高価なソフトウェアに頼るのではなく、AIを活用して社内で独自の業務システムを構築する選択肢が現実味を帯びてきた。これまで「入れ替えが面倒だから使い続ける」だった関係が、「自前でもできるかもしれない」に変わりつつある。

2-3. シートベースモデルの脅威

ソフトウェアの課金形態で広く使われてきたのが、シートベースモデル——社員1人あたりで月額課金するやり方だ。営業担当が、Salesforceのシートを使い、IT担当がServiceNowのシートを使う。CTOは、人数から予算を組めるし、ベンダーは雇用増に連動して売上が伸びる。

しかし、AIの進展で企業の人員効率が上がれば、シート数の伸びは鈍化する。Oracleが、大規模レイオフを発表し、他社でも人員合理化が進むなか、「シートが減る世界」での成長モデルは根本から揺らぐ。

2-4. 価格転嫁力(プライシングパワー)の低下

ソフトウェア企業は、これまで、イノベーションと引き換えに毎年の値上げを正当化してきた。しかし、顧客がAIの活用を模索している過渡期には、「本当にこの更新費用を払い続ける価値があるのか」という議論が起きやすい。

アイズマンは、この点を最も懸念している。「ソフトウェアの開発コストがこれだけ下がったのに、同じ価格転嫁力が続くとは思えない」「売上成長率の見通しが下がるのは確実で、どこまで下がるか分からないうちは買えない」 と率直だ。

2-5. OpenAI・Anthropicによる直接参入リスク

最後のベアケースは、基盤モデルを持つAI企業が、エンタープライズ向けアプリケーション市場に直接進出する可能性だ。過去にもAWSやAzureが登場した際、「クラウド基盤を握るプレーヤーがアプリ層も飲み込むのではないか」という懸念があった。結果的にはそうならなかったが、今回は事情が異なるかもしれない。

オリバー氏は、「まだ起きていないが、否定もできない。投資家は"明日にも起きるかもしれない"と恐れている」と述べた。証明できない不安こそが、セクター全体の売りを加速させている。

3. バリュエーションはどこまで下がったのか


3-1. PSRは半減、FCFマルチプルも大幅縮小

オリバー氏のカバレッジリストにおける平均NTM PSR(次の12カ月の売上高に対する株価倍率)は、約6.5倍から3.5倍へ、ほぼ半減した。

フリーキャッシュフロー(FCF)ベースでは、さらに厳しい。Adobeは、NTM FCFの9倍、Salesforceは、同12倍。いずれも市場平均を大きく下回る。かつてソフトウェア株は、常にプレミアムで取引されていたことを考えると、異例の水準だ。

3-2. 「安さ」は買い材料にならない

ここで重要な指摘がある。オリバー氏は、「ソフトウェア投資家にとって、バリュエーションは買いの理由にならない」と断言した。この業界では、安い銘柄は、むしろ「技術的に敗北した証拠」と見なされがちだ。投資家が重視するのは売上成長率であり、低PERはネガティブシグナルにさえなりうる。

さらに、セクター全体が無差別に売られている点にも注目すべきだ。個別の銘柄選別ではなく、「ソフトウェア」というラベルごと資金が引き揚げられている。

4. それでも「何も悪いことは起きていない」という事実


4-1. 業績はまだ崩れていない

ベアケースが並ぶ一方で、足元の業績数字は依然として堅調だ。ServiceNowの21%成長は、既に触れた通りだし、契約更新率(リテンション)やネットリテンションレート(NRR)も概ね良好だとオリバー氏は語る。

プライベート市場でも同様だ。オリバー氏は、PE(プライベートエクイティ)に買収された企業群についても情報を集めており、「まだ悪い兆候は拾えていない。深く組み込まれた、堅実なビジネスが多い」という認識を示した。

4-2. 今後3〜4四半期がカギ

とはいえ、バイサイド(機関投資家)の姿勢は慎重だ。オリバー氏によれば、投資家が求めているのは、「次の数四半期で更新率がどうなるか」の確認だ。AIネイティブ企業と既存ベンダーのパイロット比較が進む中、既存企業が更新戦を勝ち抜けるかどうか——ここに注目が集まっている。

数字が持ちこたえれば、セクターへの資金回帰の「パスウェイ(経路)」が開けるかもしれない。逆に、更新率の悪化が表面化すれば、市場の懸念は自己実現的に加速する。

5. 生き残る企業の条件


5-1. イノベーション文化があるか

オリバー氏が繰り返し強調したのは、「イノベーションの文化」だ。過去の技術転換でも、生き残ったのは便利さ(コンビニエンス)ではなく、革新(イノベーション)で選ばれた企業だった。AWSやAzureがアプリ層を飲み込まなかったのも、ServiceNowやSalesforceが独自のイノベーションを提供し続けたからだ。

アイズマンとオリバー氏は、イラン・コントラ事件の名台詞を引いて、「既存のソフトウェア企業は"鉢植え"ではない。彼らも動いている」と表現した。AI時代の変化に対して受け身なのか、能動的に対応しているのかを見極めることが重要だ。

5-2. バーティカル(業種特化型)ソフトウェアの優位性

オリバー氏が繰り返し名前を挙げたのが、Tyler Technologies(ティッカー:TYL)だ。時価総額約145億ドル、米国の地方自治体向けソフトウェアで圧倒的なシェアを持つ。市庁舎の業務、裁判所、公安、税金のオンライン支払いなど、自治体の基幹システムを丸ごと担っている。

Tylerのようなバーティカルソフトウェア企業は、特定の規制や業務プロセスに深く入り込んでいるため、AIネイティブ企業による代替が最も起きにくい。ウォール街も歴史的に、バーティカル企業には成長率が多少低くてもプレミアムを認めてきた。それでも現在は、セクター全体の連れ安で数年来の安値にある。

5-3. エージェンティック・ソリューションへの転換

今後の成長を左右するのは、エージェンティックAI(自律型AIエージェント)をどう自社プラットフォームに組み込むかだ。オリバー氏は、これを「デリバリーメカニズムの変化」と位置づける。ドメイン専門性、コンプライアンス、セキュリティ、ガバナンスという強みを活かしつつ、提供形態をAI時代に適合させられる企業が次の勝者になる。

その窓(ウィンドウ・オブ・オポチュニティ)は永遠ではない。OpenAIやAnthropicがエンタープライズ向けのコンプライアンスやセキュリティ認証を自力で構築するには時間がかかるが、その時間は既存企業がイノベーションで先を行くためのリードタイムでもある。

6. 株式報酬(SBC)という構造問題


6-1. 「魔法の会計」のメカニズム

アイズマンが「人生で最も気になる問題の一つ」と語ったのが、株式報酬(Stock-Based Compensation)の扱いだ。多くのソフトウェア企業は、従業員報酬の相当部分を株式で支払いながら、調整後利益(Non-GAAP)からはそれを加算して除外する。

アイズマンの例えはこうだ。売上100ドル、現金給与25ドル、株式報酬25ドルなら、税引前利益は50ドルだ。しかし調整後ベースでは株式報酬を足し戻して75ドルと報告し、その75ドルに高いマルチプルがかかる。

6-2. 改善の兆しはあるが不十分

オリバー氏によれば、セクター平均のSBC比率は低下傾向にあるが、「まだ十数%台の企業もある」。アイズマンは、「株で払おうと現金で払おうと経営の自由だが、GAAP(一般に公正妥当と認められた会計原則)で報告すべきだ。税金では控除しているのだから」と一貫して主張した。カバレッジリストでGAAP報告を行っているのは、VeriSignの1社のみだという。

7. プライベートエクイティとソフトウェア——隠れたリスク


7-1. ダイレクトレンディングの25〜30%がソフトウェア

アイズマンが注目しているもう一つの論点は、ダイレクトレンディング(直接融資)のポートフォリオの推定25〜30%がソフトウェア企業で構成されているという事実だ。2018〜2022年にPEが高いマルチプルで買収した企業群が対象となる。

7-2. PEポートフォリオの現状

オリバー氏が把握している限り、PE傘下のソフトウェア企業は、「まだ崩れていない」。深く組み込まれたエンタープライズ向けビジネスが多く、更新率も堅調だという。ただし、公開市場のバリュエーションが大幅に下落しているため、マークトゥマーケットベースでは含み損が生じている可能性がある。買収時のマルチプルと現在の市場倍率の乖離は、PE・クレジット市場の投資家にとって無視できないリスクだ。

8. バイサイドの温度感——シェルショック状態


8-1. 長期保有者も動揺

オリバー氏がバイサイド(機関投資家)から受けるフィードバックは、「シェルショック(衝撃を受けた)状態」だという。ソフトウェア株を10年、場合によっては20年保有してきた機関投資家ですら、今の状況には戸惑っている。

従来のソフトウェア投資は、「勝者を選べば長期で安心」というゲームだった。しかし、今は勝者を選んでも株価が下がる。セクター全体にカテゴリごと資金が引き揚げられており、個別のストックピッキングが機能していない。

8-2. 資金が戻る条件

バイサイドが再びソフトウェアに資金を振り向ける条件は明確だ。更新率・NRRが数四半期にわたって維持されること。AIネイティブ企業とのパイロット比較で既存ベンダーが選ばれ続けること。この2つが確認できれば、「歴史的低バリュエーション+確認されたファンダメンタルの底堅さ」という組み合わせが、セクターへの資金還流を促す可能性がある。

9. アイズマンの総括——「まだヒーローになる時ではない」


9-1. 対談から得た教訓

アイズマンは対談後のまとめで、いくつかの要点を整理した。

  • バリュエーションは、歴史上初めてS&P全体を大きく下回る水準にまで落ちたが、それは買い材料にならない

  • 「否定を証明することはできない」——何が起きるか分からない恐怖が、セクター全体の売り圧力を維持している

  • 一部の企業は、イノベーションで「トンネルの向こう側」に出られるだろうが、そのトンネルの出口は少なくとも1年先

  • 今このセクターを買うのは、「落ちるナイフを掴む」(catching a falling knife)のと同じだ

9-2. 何を見るべきか

アイズマンの結論は慎重だが、完全な否定ではない。「今はヒーローになろうとする局面ではない」としつつも、「今後も繰り返しソフトウェアを取り上げていく」と締めくくった。つまり、状況が変わる可能性はあり、そのトリガーを注視し続ける価値があるという認識だ。

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