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SaaSは終わらない。終わるのは「席課金モデル」だ

「SaaSはAI時代に死ぬのか?」という問いは、実は“技術”と“ビジネスモデル”の両方が同時に揺れていることを示すサインです。本エピソードでは、①AIによるソフトウェア開発コストの低下②参入障壁の崩壊と機能コピーの加速③価格決定力(pricing power)の低下、そして、④席課金(seat-based)から価値課金(value/usage-based)への転換が、SaaSの将来像をどう塗り替えるかが議論されます。結論から言えば、SaaS自体は消えない。ただし、“今の勝ち組がそのまま勝ち続ける”保証は薄い——これが議論の中心です。


1. 「SaaSは死なない」が、“同じ顔ぶれ”とは限らない


出演者は冒頭でかなり率直です。二者択一の問いに対しても、「No. Not likely.(死なない)」としつつ、同時にこう釘を刺します。
「5年後、その価値を届ける会社が、今と同じとは思わない。生き残る企業もあるが、大きな統合(consolidation)が起きる」と。

ここで重要なのは、“SaaSという形態”ではなく、SaaS企業の収益の持続性=将来キャッシュフローの確からしさが揺れている点です。話者は「不確実性が劇的に上がった」と述べ、AIが「ソフトウェアを作る能力」を急速に押し下げていることを背景に挙げます。

2. AIが変える「ソフトウェア経済」の本質


2-1. 参入障壁の崩壊:「作る」より「届ける」が難題に

議論の肝はここです。AIモデルは進歩し、安くなり、ソフトウェアを“作る”ことが簡単になる。すると、従来SaaSが持っていた優位性——機能開発力や開発スピード——が相対的に薄まります。

ただし同時に、話者はこうも言います。「ソフトウェアは勝手に企業へ導入・定着しない」。だからこそ、企業内の知的労働の生産性を上げる“実装”や“運用への落とし込み”には依然として価値が残る。
要するに、“作れる”世界では、差は“運用できる・使われる・成果が出る”に移るということです。

2-2. 機能コピーと「俊敏性」ゲーム

AIで開発速度が上がるほど、競争は苛烈になります。発言が象徴的です。
「機能はすぐコピーされる。俊敏で速く出荷できるチームが勝つ」

一方で、既存SaaSにありがちな発想——「顧客は更新し続けるから、その売上で来年のS&MとR&Dを回せる」——は危ういと示唆します。更新前提の安定モデルが、AI時代には“守り”になりにくい。

3. バリュエーション崩壊は「恐怖」か「合理」か


議論では、SaaSのマルチプル低下を“市場の恐怖”で片づけず、合理的な再評価(rerate)として捉えます。例として出てくるのが、SaaS銘柄群の指標(Bessemer Cloud Index)を使った「回収期間(payback period)」の話です。

ざっくり言えば、投資家が企業を保有し、フリーキャッシュフローで元を取るまでの年数が、ピーク時には極端に長かった。それが短くなっても、話者はなお問いかけます。
「12年でも長すぎないか? 不確実性が増した世界で、2回の景気循環を跨いで回収できると信じるのか」
これは投資家目線ですが、企業側に置き換えると、“将来の価格決定力”と“継続課金の前提”が揺れたことを意味します。

4. 「席課金」から「価値課金」へ:最大の難所はビジネスモデル転換


AIエージェントが普及すると、利用量は跳ね上がります。しかし、席課金のままだと、発言の通り、
「エージェントを1席として課金したら、エージェントは“100万マイル/時”で働くのに、増えた価値を収益化できない」。
つまり、SaaS企業は利用量・成果・エンゲージメントに連動した課金へ移行せざるを得ない。

ここが“技術”以上に厄介です。なぜなら、既存顧客の契約体系、営業組織のKPI、プロダクト設計、収益認識まで、全部を巻き込むからです。過去に「買い切り→サブスク」転換が“荒れた四半期”を生んだように、次は「サブスク→価値課金」への荒波が来る、という見立てです。

5. 勝ち筋は「AIトークンを価値に変える企業」


議論で最も具体的な成功例として語られるのが、企業データを整え、LLMと組み合わせて業務価値に変えるタイプの企業です。象徴的に示されるのは、
「企業内データを“オントロジー”で文脈化し、その上にエージェントを作れるようにして、生産性を売る」という発想。

ここでのポイントは、AIを“機能追加(LLMをちょい足し)”として扱うのでは
なく、AI=新しい原材料(デジタル知能)を、企業固有の文脈で価値に変換する装置として設計できるかどうかです。

6. 既存大手は新聞業界のように沈むのか?——「コア製品」vs「バンドル可能な機能」


終盤の比喩が面白いところです。既存SaaSが「新聞産業」처럼衰退するのか、それとも銀行・小売のように適応するのか。ここで出てくる判断軸が、
「これはコア製品か? それとも大きなスイートに“機能として束ねられる”ものか?」。

たとえば、巨大スイート(Microsoftのような)は、AIを“コア機能に埋め込む”ことで耐える可能性がある。一方、特定業務に特化した縦型SaaSは、機能が束ねられやすく、圧力が強い——このニュアンスが議論の結論に近い。

結論:AI時代のSaaSは「形」ではなく「収益化の設計」で決まる


このエピソードが示すのは、SaaSの未来が「死ぬ/生きる」の二択ではなく、①参入障壁の低下、②価格決定力の低下、③課金モデルの再設計、④AIを文脈化して価値に変える能力という複数の軸で再編される、という現実です。

「SaaSは死なない」。しかし、“席を売る会社”から、“価値を測って課金できる会社”へ変われないなら、SaaS企業としての寿命は短くなる——それがAI時代の残酷で、同時にチャンスでもある結論です。

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