Wayve、評価額85億ドルで社員向け株式売却を実施 ― AIスタートアップの新たな人材戦略
英国の自動運転技術スタートアップWayveが、社員が保有する既得株式の一部を売却できる仕組み、いわゆる「テンダーオファー」を実施すると発表した。規模は8500万ドルで、評価額は同社の直近ラウンドと同じ85億ドルに設定されている。本稿では、TechCrunchの報道内容をもとに、今回の取り組みの詳細と、AI業界で広がりつつある「社員向け株式売却」というトレンドの背景を整理する。
1. 8500万ドルのテンダーオファー、評価額85億ドルで実施
今回のテンダーオファーは、既存投資家と新規投資家が主導する形で行われ、社員が既得株式の一部を投資家に売却できる仕組みとなっている。評価額85億ドルは、2026年2月にWayveが実施したシリーズDラウンドで設定された水準がそのまま用いられている。
同ラウンドはEclipse、Balderton、SoftBank Vision Fund 2が主導し、Ontario Teachers' Pension Plan、Baillie Gifford、Microsoft、NVIDIA、Uberが参加した12億ドル規模の資金調達だった。創業9年目を迎えるWayveにとって、今回は2024年5月のシリーズC(10億5000万ドル規模)時に続く2回目の社員向け株式売却となる。
2. 「出口を待たない」という発想 ― AI企業に広がる株式売却の潮流
TechCrunchは、Wayveの今回の取り組みについて、AIスタートアップの間で広がりつつあるトレンドの一環だと位置づけている。企業が数年先のIPOやM&Aといった「出口」を待つのではなく、テンダーオファーを人材の定着(リテンション)ツールとして活用する動きが増えているという。ストックオプションが権利確定した瞬間に競合他社へ転職したり、自ら起業したりする社員を引き留める狙いがあるとされる。
同様の取り組みを行った企業として、DuolingoやHertzなど大手企業向けにAIカスタマーサービスエージェントを提供するDecagon、AI音声生成サービスを手がけるElevenLabs、ソフトウェア開発チーム向けプロジェクト管理ツールのLinear、営業・マーケティング支援ツールのClayが挙げられている。特にClayは、直近9カ月間で2回のテンダーオファーを実施しているという。
2-1. 投資家側の動機 ― 「プレミアムを払っても持ち分を増やしたい」
TechCrunchは、こうした企業が社員に流動性を提供できる主な理由について、投資家側が高成長企業の株式をより多く取得したいと考え、プレミアムを払ってでも購入する意欲を持っているためだと分析している。投資家は、これらの企業が将来さらに高い評価額に達するとの見立てに基づいて行動しているという構図だ。
3. Wayveの技術的な特徴と事業展開
Wayveは、多くの自動運転プログラムが採用する事前構築の高精度地図(HDマップ)に依存せず、データから運転そのものを学習する「エンドツーエンドのニューラルネットワーク」を用いる自己学習型アプローチを採用している。同社の創業者らは、この方式が人間が経験を通じて運転を身につける過程に近いと説明している。
同社は、国・車種・道路状況を問わず機能する「汎用型」の自動運転AIを目指しており、この1年で従業員数を2倍以上に増やし、1200人体制に拡大した。事業展開としては、Uberと連携したロボタクシーの実証運行を年内に開始する計画があり、別途、日産の次世代運転支援システムへのAIソフトウェア統合を2027年から開始する予定だという。
