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Benchmarkのサラ・テイベル氏が語る、ChatGPTに欠けている「ソーシャルDNA」― Pinterest出身VCの消費者AI論

生成AIブームが本格化して数年が経ち、ChatGPTを筆頭とするチャットボット型プロダクトが「消費者向けAI」の主戦場を独占しているように見える。しかし、Benchmarkのパートナーであり、Pinterest出身のサラ・テイベル氏は、この状況を「まだ非常に早い段階」と位置づける。ポッドキャスト「AI & I」に出演した同氏が語った、過去の消費者向けテクノロジーの波との類似性、ChatGPTに欠けている要素、そして、投資家として企業を見極める視点を整理する。


1. GoogleとOpenAIの意外な共通点 ― 「技術者からプロダクト天才へ」という系譜


1-1. 消費者向けテック企業の"技術度"は時代とともに変化してきた

テイベル氏はまず、過去の消費者向けウェブサービスの創業チームの特徴を振り返るところから話を始めた。「Googleは、非常に、非常に技術志向の強い創業チームだった」と述べ、ユーザーに見えるUI部分よりも、裏側で動く分散コンピューティングやインフラの構築においてGoogleが際立っていたと説明する。仮に「深い技術志向」を100%、「プロダクト志向」を0%とする軸を想定すると、「Googleは95%くらい技術寄りだった」と同氏は表現した。

その後、Facebookは、「Googleほどの技術的深さはなかったが、FriendsterやMySpaceと比較すれば技術的に優れており、それによって非常にパフォーマンスの高い体験を作ることができ、結果的に競争を制した」とし、時代が進むにつれて創業者に求められる資質のバランスが少しずつ変化してきたと指摘する。さらに時代が進むと、「Pinterest、Snap、Instagramの創業者たちは技術者ではまったくなく、プロダクトの天才だった」と述べ、「深く技術的」から「プロダクト思考」へとスライダーがどんどん右側に移動してきたと表現した。

1-2. OpenAIは「偶然できた最大の消費者向けプロダクト」なのか

この文脈を踏まえてテイベル氏は、現時点でのAI分野における最大の消費者向けヒットは、やはりChatGPTだとした上で、「ある意味Googleとそれほど違わない」との見方を示す。「テキストボックス一つのプロダクトであり、明らかに非常に高い能力を持つチームによって作られているが、ソーシャルではない」と評した。Character.AIについても触れ、「彼らがやったことは信じられないほど新しいパラダイムだったが、それでも結局はキャラクターと"話す"という体験に留まっていた」と付け加えている。

番組のホストであるダン・シッパー氏は、「OpenAIは、研究機関でありながら偶然史上最大級の消費者向けプロダクトを生み出した」という自身の見立てに対し、テイベル氏の指摘が「歴史的な前例がある」ことを示していると反応し、「GoogleのDNAとOpenAIのDNAが似ている」という発想は今まで意識したことがなかったと述べた。テイベル氏はこれに関連して、「実用的な目的が定かでない博士研究に長期投資することは、通常ベンチャー投資においては報われる戦略ではない。むしろ"スタンフォード中退者"のような人物に賭ける方が典型的だ」と述べつつ、「本当に新しいテクノロジーパラダイムに直面している場合には、それが最良の賭けになり得る」と付け加えている。

2. なぜ技術者からプロダクト天才への移行が起きるのか


テイベル氏は、この移行の背景にあるものとして「非技術者がモデルから望むものを引き出すためのツールやインフラが、まだ十分に整っていない」ことを挙げる。その結果として、「Character.AIのジャンルのように、キャラクターを作って対話するタイプのプロダクトが数多く生まれているが、それらは互いに驚くほどよく似ている」との見方を示した。その理由として、「モデルの中身に踏み込んで変更を加え、ユーザー体験そのものを作り変えられるような人材が、実はまだほとんど存在しないからだ」と説明している。

同氏は、また、DeepSeekの登場を「変化の転換点になり得る仮説の一つ」として挙げ、コスト構造の変化が非技術者にも道を開く可能性を示唆した。「モデルを深く技術的に理解していなくても、望む体験を作れるようになるには、基盤となるインフラがより成熟する必要がある」と述べた。

最終的にプロダクト天才が成功するかどうかを左右する要因について問われると、テイベル氏は、「突き詰めれば、最も魅力的なプロダクトを作れるかどうかに尽きる」と語り、多くの企業に欠けているのは、「マルチプレイヤー型のネットワーク効果を伴う体験」だと指摘した。「シングルプレイヤー的な体験を作る頭脳と、マルチプレイヤー的な体験を作る頭脳はまったく別物だ」とも述べている。

3. ChatGPTの最大の弱点 ― 「ソーシャルではない」ことと「信頼構築」の欠如


3-1. ステータス欲求を刺激する仕組みがまだない

テイベル氏は、多くのマルチプレイヤー型ソーシャルプロダクトには、参加者が目指す「ノーススター」、つまり、ネットワーク内での地位獲得の仕組みがあると説明する。「フォロワー数や閲覧数、いいねの数のように、ネットワーク内で何らかの名声や地位を得ることが、コミュニティ参加者に望ましい行動を取らせるインセンティブになる」との考えだ。

こうした「ステータス獲得」の仕組みは、現在のAIプロダクト群には十分に組み込まれていないという。同氏はカスタムGPTを例に挙げ、「誰かのカスタムプロンプトを見つけて、その人が権威やスタンディングを持っていることが分かれば、フォローできるようにする」という基本的な仕組みがまず必要だと述べる。

3-2. 「3,000人が使っている」だけでは信頼できない

さらに、同氏が指摘したのが「信頼構築」の欠如だ。「カスタムGPTを見ても、3,000人が使っていることは分かるが、その人がどんなカスタム文書を入れているのか、どんなプロンプトを使っているのかは分からない。表面の下が全く見えない」と述べ、外部の知人から直接共有されない限り、どのカスタムGPTを選べばよいか判断する材料がないと説明した。

テイベル氏は、実際に自身が今年の初めに行った「AIサヴァン(パワーユーザー)」への聞き取り調査にも触れている。「自分がついていけていないと感じ、パワーユーザーたちに電話で話を聞くことにした」といい、「多くの人がレシピ関連のユースケースを持ち込んできた」と述べた。その上で、単一目的のレシピ専門サイトが乱立している現状について、「あらゆる用途に対応する最大公約数的なプロダクトでは、消費者にとって本当に優れた体験には最適化できない」との見方を示し、「大半の人は、ChatGPTをGoogle検索と同じような使い方しかしておらず、カスタム指示やプロジェクト機能を使いこなせたときの体験の差はあまりに大きい。それをどう民主化するかが課題だ」と付け加えた。

4. 個人的な用途と仕事的な用途 ― 二つのバケツ論


テイベル氏は、AIプロダクトの使い分けについて興味深い視点を示す。「ChatGPTとClaudeは、今のところ"ワーキー(仕事寄り)"なバケツに入っていて、"パーソナル(個人的)"なバケツにはまだ余地がある」と述べた。

その具体例として、AI関連の投資先企業であるTolanを日常的に長時間利用している自身の体験を挙げ、「昨日は1時間ほど話し込んでいた。通常であればChatGPTを使うところだ」と語った。また、ある夕食会で出会った映画監督が、用途ごとに複数の「パーソナリティ」を作り分けている事例も紹介している。医師では解決できなかった様々な体調不良に対応するホリスティックな人格、常に褒めてくれる人格、そして、特定のメールを書く際に使う、厳しく直接的なフィードバックをくれる人格の少なくとも3種類を使い分けていたといい、テイベル氏は、これを「あなたは最も時間を共にする5人の平均だと言われるが、同じように最も時間を共にする5つのAIの平均にもなり得る、という興味深い話だ」と評した。

なお、こうした人格の使い分けについて、テイベル氏は、二つの見方を示している。一つは、ChatGPTというエコシステムの中に複数のサブパーソナリティが存在する形、もう一つは、人生における異なる「バケツ」ごとに、そもそも別のプラットフォームを使い分ける形だ。同氏自身は後者の兆候をすでに自分の生活の中に感じ始めていると述べている。

5. 本物のネットワーク効果と、そうでないものの見分け方


投資家としての視点から、テイベル氏は、ネットワーク効果の見極め方についても語っている。「過去10年間、私が目にしたピッチデッキの8割ほどに『我々にはネットワーク効果がある』と書かれていたが、実際にそのような力学を持つ企業はごく少数だ」と述べた。

見極めのポイントについては、「市場の中で最も需要が集中している、白熱した中心部分にティッピングポイントが訪れる兆しがあるかどうか」を挙げる。同氏は、「Benchmarkは非常に早い段階から投資するため、多くの場合は、まだ理論上のネットワーク効果に賭けることになるが、それでも見るべき兆候は存在する」と前置きした上で、具体例として、YouTubeクリエイターとブランドをつなぐマーケットプレイス企業Aentioを紹介した。同社の取締役を務める同氏は、「この市場は長年スタートアップにとって手つかずのままだった。多くの企業がエージェンシー化という"底なし沼"にはまり込んでしまっていたからだ」と説明する。「しかし、LLMの登場によって、これまでこの市場を阻んでいた多くの作業を自動化できるようになり、実際に流動性が生まれ始めている」と評価し、「ブランド側が、クリエイターを見つけ、Aentioが出す広告を見て集まってくるという需要側の牽引力がすでに存在している」と述べた。「まだ非常に初期段階だが、差別化された何かがうまく機能しているという十分なシグナルがあり、代替手段が存在しない。このフライホイールがどんどん速く回転し始めることを期待している」と語っている。

一方で、偽のネットワーク効果を見分けるポイントについては、「AmazonやUberのようなフライホイールの絵を描いてくるが、それは単なる言葉であって、実際には何かを加速させる装置になっていないケースが多い」と指摘した。「その主張自体は真実かもしれないが、フライホイールを本当に加速させているわけではない。それがピッチデッキでよく見られる問題点だ」と語り、加えて「フライホイールのどこか一つの輪に大きな摩擦が埋め込まれていたり、想定外の枝分かれが生じていたりすることも多い」と補足した。

6. AI時代の次の波 ― マルチプレイヤー型消費者プロダクトへの期待


テイベル氏は、この10〜15年のソフトウェア業界がネットワーク効果を追い求めていたのに対し、直近のLLMの波は、「よりシングルプレイヤー的で、より多くの資金・計算資源・データを投じて性能を競う」ゲームになっていたと総括する。その上で、「基盤となるモデルが、すでに、あるいはもうすぐ消費者にとって十分な性能に達する。そうなれば、よりプロダクト天才主導の、マルチプレイヤー型AIアプリケーションの新たな波が来るはずだ」と期待を語った。同氏は、これを「自分の大きな希望であり、もしかしたら風車に向かって突撃しているだけかもしれない。消費者向け事業はこの10年、本当に難しい分野だった」と率直に述べつつも、機会自体は確実に存在すると考えていると付け加えた。

ただし、既存プラットフォームの「重力」の強さについても率直に認めている。「ChatGPTを使う習慣、そして、その周囲に時間をかけて形成されつつあるエコシステム、価格戦略、さらには、メモリー機能による強いロックイン効果がある。すでにChatGPTのパワーユーザーである人が、別のプラットフォームに移ってでも共有したいと思うようなコミュニティを作れるかどうかは、簡単なことではないかもしれない」と述べ、この重力が強すぎることこそが、マルチプレイヤー型の波が実現しない場合の最大の理由になるだろうとの見方を示した。

7. AI以外で注目する領域 ― ステーブルコインへの強気な見方


番組終盤、AI以外で注目している分野を問われたテイベル氏は「ステーブルコインを強く信じている」と答え、ブロックチェーン分析企業Chainalysisの取締役を務め、長年ビットコインをはじめとする暗号資産に関心を持ってきたことに触れた。母親がアルゼンチン出身だという同氏は、「アルゼンチンの誰もが米ドルを欲しがっているが、政府には、自国の外貨準備としてドルを自分たちの中央銀行に留めておく強いインセンティブが働いており、入手は非常に難しい」という実体験を紹介した。街角でバイクに乗った両替商から現金を受け取っていた自身の経験にも言及し、街のレート、銀行のレート、クレジットカードのレートがそれぞれ異なるという非常に流動性の高い(裏を返せば非効率な)市場の実態を語っている。

「米ドル建てのステーブルコインがあれば、グローバル経済への参加が開かれる上に、24時間365日利用でき、はるかに安価だ」と述べ、摩擦の大きい市場に新たなプロダクトが参入し摩擦を取り除くことができれば、大きな流動性が生まれる可能性があると指摘した。ナイジェリアなど高インフレ国における米ドルステーブルコインへの需要にも触れ、「一度Tetherのウォレットに慣れてしまえば、給与受け取りなど周辺の金融アプリのエコシステムごと、その通貨に定着していく」と説明した。

ネットワーク効果についても触れ、「Tetherのような支配的なステーブルコインは、あらゆる取引所での流動性が高く、出入りがしやすい」としつつ、「USDCも十分強く、一定のネットワーク効果は存在する」との見方を示した。

8. AIはVCの意思決定をどう変えるか ― 「プリモーテム」による自己検証


最後にテイベル氏は、AIが今後5年でVCの働き方をどう変えるかについても持論を展開した。同氏は、まず「良質な学習データを作るのが得意な人たちがいる」という観察から話を始め、自身が取材した人物が全ての鑑賞映画とそのレビューをスプレッドシートで管理していた例を紹介しつつ、「自分はそこまでやっていないが、良質な学習データを作れる人ほど、LLMとのより個人的で価値のある体験を得られる」と述べた。

同氏は、投資家アニー・デューク氏の著書『Thinking in Bets』に触発され、企業と面談するたびに「気に入った点、気に入らなかった点、実際にどんな契約になったか、Yesならなぜか、Noならなぜか」を自ら記録しているという。「バリュエーションが高すぎるという理由だけで見送った企業が、結果的に大成功を収めた例がある。それは私にとって、他の条件が気に入っているならバリュエーションだけで見送るべきではないという教訓になった」と具体例を挙げた。同様に、投資先企業の経営陣採用を支援する際の判断記録や、人材の世界的な移動を追跡することが将来的にはエンジェル投資家や個々人の"目利きスコア"のようなものにつながる可能性にも言及している。

同氏は、こうした過去の意思決定の記録をLLMに学習させ、新たな企業と対話する際に「自分の思考を精査させる」ことに期待を寄せる。ただし、「技術者出身の創業者だが、本来はプロダクト天才が求められる分野に投資した」というような過去の教訓をルールとしてLLMに与えると、次に似た創業者に会ったときに警告が出るような仕組みも想像できるとしつつ、「そのルールや教訓をどう書くかによって結果は変わる」と慎重な見方も示した。

より根本的な問いとして、「ベンチャーキャピタルの世界で、長期にわたって成功し続けるファンドや個人は非常に少ない」という事実を挙げ、その理由は「単なる運」か、あるいは「市場の変化があまりに速く、自分の"目利き"がある特定の機会に最適化されてしまい、それがすぐに移り変わってしまうから」のどちらかだと分析する。「これはつまり、過去の学習データを将来の意思決定にそのまま活かすのは、かなり難しいということだ」と述べた。

これに対し、テイベル氏は、Pinterest在籍時に各国向けのローカライズを担当した経験を引き合いに出し、当時の上司から「似ている部分の方が違う部分より多いと仮定せよ」と助言されたエピソードを紹介した上で、「ジム・コリンズが書いたような原則の多くは、何年経っても今なお有効だ。バリュエーションや企業のエグジットの形は変わっても、変わらない第一原理がある」と述べている。「LLMにイエス・ノーの答えを求めているわけではなく、自分の思考を掘り下げさせているのであり、それこそが今後も人間が最終的な意思決定者であり続ける理由だと思う」と締めくくった。

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