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AI時代に広告はどう変わるのか──Eric Seufertが語る「測定不能」の世界とマーケティングの再構築

テクノロジーとプライバシー規制がマーケティングを根本から揺るがすなかで、マーケターに求められる視点も大きく変わりつつある。モバイル広告の戦略家であり、「Mobile Dev Memo」主宰者のEric Seufert氏は、ポストプライバシー時代における広告の再定義を主導する人物のひとりだ。

本稿では、Greylockのインタビューをもとに、彼が語るマーケティングの現在地と未来像を、具体的な理論・事例とともに解説する。


1. ポストプライバシー時代における最大の変化:計測のパラダイム転換


1-1. ATTと「計測の崩壊」

AppleのApp Tracking Transparency(ATT)導入によって、従来の広告計測手法──とりわけ「ラストクリック」型の決定論的(デターミニスティック)アトリビューション──は実質的に機能不全に陥った。Seufert氏はこれを「計測の完全なオーバーホール」と表現する。

「ATTで広告効果を可視化できなくなった。それは確かに痛手だったが、結果として、より本質的な計測手法へと進化する契機にもなった。」

1-2. 確率的アプローチとインクリメンタリティの重視

マーケターは、「直接的な因果」を追うのではなく、「広告投資がもたらす増分効果(incremental lift)」を確率的に推定する思考へとシフトしている。これにより、従来は測定困難だったCTVやポッドキャスト広告といったチャネルも「測定可能」とみなされるようになった。

「よりよい計測は、広告主の投資を促進し、全体の市場規模を拡大する。つまり、誰もが勝者になりうるゲームなのだ。」

2. あらゆるものが「広告ネットワーク」化する時代


2-1. CTV・小売メディアの台頭

Seufert氏は、「Everything is an ad network(すべてが広告ネットワーク)」という仮説を提唱してきた。現代では、CTVや小売メディア、生成AIベースのチャットアプリさえも広告メディア化する兆候がある。

たとえば、MetaのAdvantage+やGoogleのPerformance Maxなど、プラットフォーム内で完結するブラックボックス的な広告配信ツールが急拡大している。これらではラストクリックモデルが通用せず、より高度なシグナル設計と貢献度推定が不可欠となる。

2-2. シグナル設計とファーストパーティデータの再評価

先進的な広告主は「できるだけ多くのシグナルを送る」のではなく、「少なくても質の高いシグナルを設計する」方向へと移行している。

「1ユーザーあたり50の低品質なシグナルよりも、1つの高密度・高精度なシグナルの方が価値がある。」

これは、より精緻なキャンペーン最適化を実現し、結果としてユーザーエクスペリエンスとROAS(広告費用対効果)を高める。

3. 価格とバンドルのパーソナライズ:広告以外の最適化戦略


3-1. AIが可能にする動的バンドル設計

Appleのアプリ外課金制限緩和により、開発者は自社サイト経由でより柔軟な商品・価格設計が可能になった。Seufert氏はこれを「パーソナライズされた経済圏(personalized economy)」と称し、AIによる価格・製品バンドルの最適化がもたらす可能性に注目する。

「ゲーム内アイテムを例にとれば、AIはユーザーの支払い意欲やLTV(顧客生涯価値)に応じて、最適なパッケージと価格を提示できる。」

こうした動的マーチャンダイジングは、マーケターが最終的な収益を最大化する上での新たな武器となる。

4. LLM時代の検索と広告の再定義


4-1. 「AIオーバービュー」とSEOの終焉

GoogleのAIオーバービュー機能やChatGPTのような生成AIが、情報探索の出発点として定着しつつある。これにより、従来の検索エンジン最適化(SEO)のROIは大きく下がっている。

「SEOは、予測不能であり、変動リスクが高い。ならば、コントロール可能な広告戦略に資源を集中すべきだ。」

ブランドの多くが「SEO対応」ではなく、「広告プロダクトの登場を待つ」という意思決定をしている現状が、その象徴と言える。

4-2. LLMにおける新しい広告ユニットの模索

今後、ChatGPTなどのLLMプラットフォームが広告ビジネスを本格化することは「不可避」であるとSeufert氏は断言する。とはいえ、従来の検索連動型広告の延長線ではなく、ユーザーの信頼を損なわないフォーマットが必要だ。

彼が提案する具体的なユニット例:

  • 全画面のスキップ不可インタースティシャル(無料ユーザーへの定期挿入)

  • レンダリング中の文脈的挿入広告

  • サイドバナー(Tower Unit)による並列表示

  • AIアバターとの対話を中断して提示するブレイク広告

広告と情報を明確に区別することが、LLMにおける広告成功の鍵になる。

5. Webサイトの役割と「答えエンジン」時代のトランザクション


ユーザーがAIでほぼすべての情報を得た上でWebサイトに遷移する時代では、Webサイトの役割も変質する。もはや「情報提供の場」ではなく、「購入完了のための場」へと移行している。

「最終的に買うかどうかは、ChatGPT上での情報取得の段階で決まっている。Webサイトはもはや“販売レジ”でしかない。」

この変化は、Shopifyのようなカート提供者にとっての存在意義にも影響を及ぼす。

6. エージェンシーと人材の役割の変化:媒体購買は「戦略設計」へ


MetaのザッカーバーグCEOは「目標だけを伝えれば、我々のAIがすべて自動で最適化する」というビジョンを語るようになっている。すでにAdvantage+などの製品はその世界を現実にしつつある。

この流れにより、メディアバイヤーや代理店の役割も変化する:

  • 単純なオペレーションから「戦略設計者」へ

  • クリエイティブ設計やLTV最大化の設計者へ

  • コンバージョン後のユーザー体験を含めた設計が必須

AIエージェントが広告運用を代替する時代、マーケターはより「経済学的視点」や「ユーザー価値設計」に長けた存在になることが求められる。

「AIによる自動化は“効率化”ではなく“価値創出”のためにある。顧客価値を最大化すれば、広告費も最大化できる。それはゼロサムではない。」

Eric Seufert氏の議論から浮かび上がるのは、広告が単なる集客手段から「UXの一部」「経済設計の中核」に進化しつつあるというビジョンだ。AI、プライバシー制限、広告ネットワークの再構築という三重の構造変化のなかで、マーケターが担う役割も根底から書き換えられている。

キーワードは「信頼される広告」「測定できる広告」「個別化された経済圏」。そしてそれらを支えるのは、もはや人力ではなくAIによって構築された新たなマーケティングOSなのかもしれない。


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