「人生最大の投資機会」——ロン・バロンが語るSpaceXの現在地と長期展望
運用資産630億ドルを擁するバロン・キャピタルの創業者、ロン・バロン氏が自社のクライアント向け説明会でSpaceXへの見解を詳しく語った。同氏は、2017年からSpaceXへの投資を開始し、9年間で約120〜130億ドルの利益を積み上げてきた。今回のIPOを前に、「まだ始まりに過ぎない」と語るその投資哲学と事業評価の根拠を整理する。
1. バロン・キャピタルとSpaceXの軌跡
1-1. イーロン・マスクとの出会い
ロン・バロン氏がイーロン・マスク氏と最初に会ったのは2010年、テスラのIPO前のことだ。当時は「成功する可能性は低いが、話していて面白い人物」という印象だったと振り返る。その後、4年をかけてマスク氏の経営を観察し、2014〜2016年にテスラへ4億ドルを投資。現在までに60〜70億ドルの利益を上げている。
SpaceXへの投資は、2017年から始まった。従業員向けのテンダーオファーに参加する形で、9年間で計27ラウンド・約20億ドルを投じた。現在の含み益は約120〜130億ドルとされ、バロン氏はIPOでもさらに10億ドルの追加投資を表明している。
1-2. 年率54%という実績
同氏によれば、SpaceX投資の年率リターンは、過去9年間で54%に達する。今後の成長率については当初30〜35%への引き下げを検討したが、事業の進捗を見てその考えを撤回したという。「現地を訪れた担当者が『前回来た時とは別世界だ』と言っていた」とバロン氏は述べており、成長の勢いはむしろ加速しているとの認識だ。
2. SpaceXの事業ポートフォリオ——複数の成長エンジン
2-1. ロケット再利用という根本的な優位性
SpaceXが持つ競争優位の核心は、ロケットの再利用技術にある。競合他社が宇宙に物を運ぶコストが1回あたり1億5000万ドルかかるのに対し、SpaceXは現在数千万ドルまで下げており、さらに300〜500万ドルへの引き下げを目指している。
この再利用実績は2017年の投資開始時点ではゼロだったが、現在までに累計約600回、2024年だけで165回の再利用打ち上げを達成した。バロン氏は「今後は年間数千回規模になる」と見込んでいる。
2-2. Starlink——地球全体のインターネット
Starlinkは、衛星通信を通じて地球上のあらゆる場所にインターネット接続を提供するサービスだ。2024年時点で顧客数は約900万人、2025年末には1500万人に達する見込みで、10年後には3億人超を目標としている。
バロン氏の試算では、3億人の顧客に企業・政府向け需要を加えると年間収益は約1兆ドル、EBITDA(利払い・税・償却前利益)は7〜8000億ドルに達し、Starlink単体で約14兆ドルの企業価値が見込めるという。なお、世界の80億人のうち30億人はいまだにインターネットにアクセスできていない状況であり、市場の潜在規模は大きい。
2-3. 宇宙空間データセンター——次の成長領域
地上でのデータセンター建設は、電力コスト・用地確保・住民の反発など複数の課題に直面している。これに対し、SpaceXが構想しているのが宇宙空間に展開する衛星型データセンターだ。
太陽光発電で電力を確保し、宇宙の低温環境で冷却コストを抑えることができる。Anthropicがすでにバロン氏の説明によれば月12.5億ドル(年換算150億ドル)でSpaceXのコンピュートを賃借する契約を結んでいるとされており、GoogleやAmazonも同様のニーズを持っているという。
「Starlinkだけで将来14兆ドルの企業価値。そして宇宙データセンターで5〜7年後にはさらに数兆ドルの売上。今の時価総額2兆ドルで買えるうちが買い時だ」とバロン氏は述べている。
2-4. Grok(AI大規模言語モデル)とチップ製造
XAIが開発するGrokについて、バロン氏は、「コーディング分野でAnthropicに若干後れを取っているが、数ヶ月以内に同等以上の水準に達する」と見ている。Anthropicが5年で年換算450〜500億ドルの売上を達成した事例を踏まえ、Grokにも同規模の機会があるとしている。
また、チップ製造の内製化も進めている。TSMCやSamsungに需要に応えてもらえないため、自社生産に踏み切ったという。Nvidiaのチップは汎用性が高い分コストが高いが、「自分たちに必要な機能だけに特化したチップを作れば、コストを70〜90%削減できる」と説明する。
3. 競合と市場環境
3-1. ブルーオリジンとの比較
競合として名が挙がることの多いアマゾン傘下のブルーオリジンについて、バロン氏は「ベゾス氏は何をやっても成功するだろう」と評価しつつ、正面衝突にはならないと見ている。マスク氏が「失敗から学ぶ」文化でリスクを取るのに対し、ベゾス氏は、「完璧を期してから動く」スタイルであり、方向性が異なるという。宇宙産業全体のパイが拡大する中で、ニッチ分野での協力関係も生まれうると見ている。
3-2. 中国との競争
中国勢についても一定の評価をしており、「優秀なエンジニアが多く、政府の支援もある」と述べる。ただし、SpaceXが築いてきた技術的リードと、マスク氏のコスト削減・速度優先の文化的優位性は、簡単には模倣できないという認識だ。「中国でも彼だけは別格として尊敬されている」とバロン氏は語る。
4. 投資家として考えるべきこと
4-1. 長期保有の哲学
バロン氏の投資哲学の核心は、「徹底した調査に基づく長期保有」にある。「調査を重ねれば、株価が上がっても怖くて売ることはない。2倍、3倍になったからといって売る必要はない」という考え方だ。ジョージ・ソロス氏から学んだ言葉として「最高のアイデアにはいくら投じても足りない」という考えも紹介した。
4-2. インフレへの備えとしての成長株
「14〜15年ごとに貨幣価値は半減する」というのがバロン氏の持論だ。インフレ率が年率4〜5%で推移する中、それを超える成長を続ける企業の株式を持ち続けることが資産防衛の基本だと言う。SpaceXはその最有力候補として位置づけられている。
4-3. IPO後のポジションと注意点
バロン氏はIPO時にバロン・キャピタルとして10億ドルを追加投資する意向を示している。IPO価格は1.5兆〜2兆ドルの時価総額レンジが想定されており、既存保有分の約1.25%の持ち分を維持するための規模感だという。
ロックアップについては、投資信託・ETFに組み入れられた既存株の多くが流動資産として分類されており、通常の換金対応が可能な設計になっているとも説明された。

