Back to Starbucks──再び特別な一杯を届ける挑戦
スターバックスはこれまでコーヒーとコミュニティをつなぐ「第三の場所」として世界中で愛されてきた。しかし、近年のモバイルオーダーの急速な普及や、細部への配慮不足がブランドの「魂」を薄れさせる要因となっていた。2024年にCEOに就任したブライアン・ニコル氏は、「Back to Starbucks(スターバックスを再紹介する)」を旗印に、細部へのこだわりと顧客・パートナー体験の再構築を推進している。本記事では、ニコル氏のビジョンと具体的施策を以下の10の視点から詳しく解説する。
1. ブライアン・ニコル氏の就任と「Back to Starbucks」戦略
1-1. 就任背景とミッション
ニコル氏は、2024年夏にスターバックスCEOに就任。就任早々、「(スターバックスの)魂を取り戻す」、「ブランドを再紹介する」という二つのミッションを掲げた。コロナ禍で急拡大したモバイルオーダーによって失われた店舗体験を取り戻し、顧客との「つながり」を再構築することが最優先課題と位置づけている。
「人々がただ“企業”と呼ぶなら、それは私の仕事ができていない証拠だ」
1-2. マーケティングと店舗体験の両輪
ニコル氏は、マーケティングを用いて“Hello again”キャンペーンを展開し、同時に店舗内のオペレーションやデザインにも手を入れる。広告でブランドメッセージを再発信し、店内ではコンディメントステーションの復活や手書きネームの再導入など、細部にまでこだわった。
2. 顧客体験の再構築:細部へのこだわり
2-1. コンディメントステーションの復活
以前は廃止されていたセルフの調味料コーナーを再設置し、顧客自身が自由にクリームやシロップを追加できるようにした。これにより「自分だけの一杯」を演出し、店舗で過ごす時間の価値を高めている。
2-2. 手書きネームとスマイルマーク
注文時にカップに手書きで名前や笑顔マークを描く文化を復活。機械的なラベル貼りでは生まれない“パーソナルなつながり”が、顧客の満足度とロイヤルティを高める。
3. モバイルオーダーがもたらした課題と改善策
3-1. 魂を奪った“時短至上主義”
コロナ禍以降、モバイルオーダーの普及は、注文の効率化を優先するあまり「店舗での体験価値」を犠牲にしてしまった。顧客が店内に足を運んでも、注文番号を待つだけの空間になり、“つながり”が失われた。
3-2. 「4分以内」に収めるための再設計
ニコル氏は、「店内での体験を4分以内に完了させる」という目標を打ち出し、ドライブスルーとモバイルオーダーの混在によるボトルネックを解消するオペレーション改善を推進している。具体的には、注文受注システムの改良や、受け取り時間を顧客が指定する新方式の導入などを検討中だ。
4. 創業者ハワード・シュルツ氏からの学び
4-1. グローバルブランドの原点
ニコル氏は就任後、シュルツ氏と定期的に対話し、1960年代のシアトル発祥時の思いを聞く機会を得た。
「なぜイタリアで見たあの小さなカフェがローカルコミュニティに愛されたのか」
シュルツ氏の語る成功要因は、コーヒーの品質と“人が集う場”の創出。これを現在のビジネスにどう適用するかが、ニコル氏の大きなヒントとなっている。
4-2. フードとコーヒーの両立
初期店舗では、コーヒー一本で勝負していたが、業態拡大とともにサンドイッチやスイーツを導入。シュルツ氏の決断プロセスを学び、品質と利益のバランスを取る姿勢を受け継いでいる。
5. コスト削減と品質維持の両立
5-1. 生産から流通までの効率化
原材料となるコーヒー豆の栽培段階からサプライチェーン全体を再検証し、無駄なコストを削減。その一方で、豆の品質、水準の高い焙煎技術は維持する方向で進めている。
5-2. ブランド価値を損なわないコスト管理
単に値上げやコストカットではなく、「顧客・パートナーに価値を提供しない部分」のみを削減する戦略を徹底。経験価値の低下を招かぬよう、コーヒー体験の中核を守る。
6. グローバル展開とローカライゼーション
6-1. 「レグラウンディング」の推進
北米市場だけでなく、東京・ソウル・上海など主要都市を視察し、「Back to Starbucks」戦略を世界基準にまで高める。
6-2. 各市場の成功事例から学ぶ
中国や日本の店舗は、モバイルオーダーのチャネル分離や、地元消費者の嗜好に合わせたメニュー開発で高い評価を得ている。米国事業にも横展開を図り、グローバルな“ベストプラクティス”を導入する。
7. パートナー(従業員)体験の向上
7-1. 「小売業界最高の仕事」を目指して
スターバックスではパートナー(従業員)を「グリーンエプロン」と呼び、業務内容だけでなくキャリアパスや福利厚生の充実を図る。
7-2. ダイバーシティと昇進率の改善
女性ストアマネージャーが全体の65%を占めるなど、多様性の推進に注力。さらに、「入社後90%を社内昇進させる」目標を設定し、パートナーの定着とモチベーション向上を図っている。
8. デジタルとAIの活用
8-1. 需要予測と設備保全への応用
大規模言語モデルや機械学習を用い、ピークタイムの来客数予測やエスプレッソマシン(MRA)の故障予兆検知を実装。稼働率向上とコスト削減を両立する。
8-2. 「共創コパイロット」としての社内活用
AIはあくまでパートナーの判断を補完するツールとして位置づけ、顧客対応は人間主体を維持。トレーニングやシフト調整、危機対応の支援に活用し、業務の属人化を解消する。
9. モバイルオーダーの再設計:チャレンジと展望
9-1. モバイル vs. 店舗体験のバランス
顧客がアプリ注文から店舗受け取りまでの時間を意識的に選択できる仕組みを導入。店舗のキャパシティと注文数を両立させる新たなオペレーションモデルを構築中だ。
9-2. 数字で見る改善目標
店内完了時間:平均4分以内
モバイルオーダー待機時間上限:12~15分以内
これらのKPI達成に向け、現場チームと本部が一体となって問題解決に取り組む。
ニコルCEOの「Back to Starbucks」戦略は、コーヒービジネスの中核である品質・体験の再構築を軸に、細部へのこだわり、グローバルベストプラクティス、パートナー重視、AI活用を統合した総合戦略だ。これにより、顧客が再びスターバックス店舗で「人とのつながり」と「特別な一杯」を実感できる瞬間を取り戻し、持続的な成長へとつなげていく。今後もコーヒーカンパニーとしての本質を磨きながら、社会に愛されるブランドを再構築していくことが期待される。
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