Chanel vs Walmartは無意味だ — Byron Deeterが語る、投資本質は“次の次元”
AIとベンチャー投資の最前線で活躍するBVP(Bessemer Venture Partners)のパートナー、Byron Deeterが語る「未来のベンチャー投資」。彼が強調するのは、事態が従来比で遥かに大きく、私たちが想像していた以上に「ゼロが一つ足される」ようなインパクトを持つ時代に突入しているという点です。彼のビジョンは、“Chanel vs Walmart”という枠組みは意味がないと断じ、むしろその先にある“投資というゲームの規模”の変化に焦点を当てています。
本記事では、彼の主張を整理し、以下の構成に沿って、わかりやすく解説します。
1. 投資のステークスがかつてないほど高い理由
1-1. 「ゼロが一つ増えた」時代
Deeterは、冒頭で、「次のフェーズがどれほど大きいか理解していたつもりだが、“おそらく全てにゼロが一つ追加される”ほどの規模だった」と語ります。これは、数兆ドル規模のビジネスがいくつも生まれるとの予感を示す言葉であり、“ゲームオンだ”という強い決意へと続きます。
1-2. 孫や次世代に語り継がれる転換点
彼はこのAIブームを、「孫たちや何世代もが語る“転換期”」と表現。「ただ技術的にクールというだけでなく、社会的経験として記憶に残るもので、それに関われるのが信じられないほど楽しい」と熱く語る姿には、投資家としてだけでなく、テクノロジー愛好家としての情熱がにじみ出ます。
2. AIにおける「防衛力」は終わったか?——圧縮されたイノベーション速度
2-1. デモの「すごさ」は一瞬で普通に
「Wow!」と驚くようなデモが登場しても、3週間後には別の“Wow!”が現れ、元のものは普通に見えてしまう。そんなイノベーションスピードの速さが、現在の AI 界隈の特徴です。
2-2. だが、それこそがビジネスチャンス
ここでキーワードとなるのは、「スピード」。Deeterは、「この圧縮されたイノベーションの速度こそが、優れたチームにとって最大の武器」だと説きます。マージナル(凡庸な)企業は、ただすぐに置き去りにされてしまう。
2-3. 基盤モデルは“コモディティ化”しても、その上層は価値創造の殿堂
基盤モデル(foundation models)は、AWSなどのインフラと同様、ある意味で“コモディティ”化する可能性があります。しかし、「その上層に価値を引き出すレイヤーを築くことで、素晴らしいビジネスが構築される」という見解です。つまり、「土台」は誰でも使える時代だからこそ、それを活かす“上層部分”の差異が重要になるというわけです。
3. 利益率(マージン)よりも「未来のマージンプロファイル」
3-1. 今の純利益より、将来のグロスマージンの方が重要
「今すぐキャッシュを生む企業ではないが」– それ以上に重要なのは、将来見込める利益率のストーリーです。
3-2. Snowflakeも過去には低グロスマージン
かつてグロスマージンがマイナスだったSnowflakeも、のちにレバレッジが効いて利益体質に転換しました。このように、「初期は“投資期”だが、後々は利益転換する可能性こそ重視すべき」です。
4. 「資本の希薄化(ダイリューション)」とどう向き合うか
4-1. 巨額投資をするが、「シェアは少なく」
AnthropicやPerplexity、Canvaのような企業に対しては、“多額を投じる一方で、保有割合は歴史的ベンチャー基準で控えめ”という戦略に出ています。
4-2. テストは高倍率、だけどそれでも3.8倍では我慢できない?
ある友人は、Anthropicに初期4億ドルで投資したが、その後60億ドルの評価まで上がった時点で3.8倍にとどまり、「マルチプルの機会損失が酷い」と感じたといいます。しかし、Deeterが投じる理由は、「30倍になる可能性に賭けるため」です。それこそが「世代を超えて残る企業となること」を見据えた投資哲学なのです。
5. 投資対象は「メガディールだけではない」
5-1. メガラウンドに偏っても、周辺からも大化けは出る
確かに、資金の集中傾向は強く、数社に資金が偏る傾向はありますが、「その周辺にも10倍、100倍のリターンを生む企業は多数存在する」と鼓舞します。
5-2. ベンチャー経済は歪型(スキュー型)だが、健全
投資機会は偏っているものの、「それでも経済は活気に満ちている」と前向きです。
6. 垂直型SaaS(Vertical SaaS)は死んだのか?
6-1. 答えは「ノー」——むしろ新局面へ
現在は一見地味に見える垂直SaaSですが、AIを組み込むことで新たなサイクルが始まっていると彼は断言します。
6-2. データ・連携・マーケットプレイスが強みの鍵
データモデルの重要性が高まる
サプライチェーン全体での“コネクティビティ”と“コラボレーション”
さらにはマーケットプレイス機能が、しっかりとした防衛力になる
6-3. 過去のSaaS成功例から学ぶ
Shopifyで“支払い(Payments)”を搭載した時、TAM(市場規模)と時価総額が倍になったように、AI応用によって、垂直SaaSにも同様の“次の波”が来ると見ているのです。
7. AIは労働コストも巻き取るのか?――人件費に食い込む勢い
7-1. ソフトウェア・ハード・サービスから人件費へ
AIソリューションは単なる「テクノロジー」ではなく、人の仕事(技術予算)へ“転換”していく力がある。「もし人件費を巻き込めれば、マルチトリリオンドル市場に変わる」と語ります。
7-2. 医療現場でのAI導入はすでに進行中
Epicが「音声書き起こし」を提供するように、既存の大手が動き出している
患者との会話→記録入力という手間がAIで軽減されることで、ケアの質が向上する
7-3. 小さなチームが億円企業に
「10人規模の会社が数十億ドル評価となる可能性」── AIが、かつてないレバレッジをもたらすと期待しています。
8. 成長のスピードは「トリプル・トリプル・ダブル・ダブル」では足りない
8-1. スーパーノヴァ企業の出現
従来の「年率3倍(デューデブル)」の成長曲線は、もはや古い。中には「0から1.5年で1億ドル」という“スーパーノヴァ”例も現れています。
8-2. 4年で1億ドルを超える“シューティングスター”
スーパーノヴァほどの爆速ではないが、4年で1億ドル規模に成長する企業も急増しています。
8-3. 成長 vs 効率の“ルール・オブ・X”
中規模(ARR 5000万ドル程度)になると、成長の価値は効率の2〜2.5倍とされるように、数学的な評価指標(Rule of X)が投資判断に組み込まれています。
9. 硬直化しない「多段階評価」の重要性
9-1. ファウンダー・TAM・“多方向の可能性”の三角評価
強いチームか、十分な市場か、それに加えて“小さく始まり、他のフェーズにも展開できる可能性”──この三点セットが、投資判断の要になります。
9-2. 過去の教訓:ShopifyやTwilioでの投資判断の見誤り
ある程度の株式保有を維持しつつも、将来の市場規模を見誤って投資が控えめになった経験があると率直に語ります。
10. 流動性と二次市場への理解
10-1. セカンダリーマーケットでの流動性確保
「投資先がずっと未上場である場合、流動性が必要になる」という観点から、二次市場での流動性確保にも積極的な姿勢を示しています。
10-2. 将来的なIPOへの期待
プライベート市場の時価総額はトップ100で1兆ドル超に達しており、これは「将来のIPOへの可能性を示す指標」であると語ります。
Canvaのような企業については、経営陣も長期視点で慎重な対処をしているとしつつ、「間違いなく価値ある上場企業になる」と評価。
結び:これからのベンチャーは「サイズと速度」の競争
Byron Deeterが最後に語る言葉には、これまでのスケール感や戦略フレームを完全に超える投資機会への確信と興奮があります。すなわち、ただの「Chanel vs Walmart(高級 vs 大量)」の構図ではなく、“次世代の、次元の違うトリリオンドル級のゲーム”を目前にしているというフィーリングです。
