「VCは死んだ」──ブラッドリー・タスクが語る投資の終焉と未来の起業支援モデル
近年、スタートアップへの資金供給源だったベンチャーキャピタル(VC)の動向は大きく変化しています。TechCrunchのポッドキャスト「Equity」では、Tusk Venture Partnersの共同創設者兼マネージングパートナーであるブラッドリー・タスク氏が「VCはすでに4年前から死んでいる」とまで発言し、業界の実態を率直に語りました。一方でタスク氏自身は、これまで積み上げてきた規制対応や政策立案の専門知識を生かして、まったく新しいビジネスモデル「エクイティ・フォー・サービス(Equity for Service)」へシフト。また、投票率向上のためのモバイル投票プロジェクトを推進するなど、独自のアプローチでテック業界と政治の橋渡しを続けています。
本稿では、タスク氏の具体的な発言や事例、業界の動きをもとに、「なぜ彼はVCの死を語るのか」「新たな取り組みで何が実現できるのか」をわかりやすく解説します。さらに、起業家や投資家にとって参考になるポイントをまとめ、今後のスタートアップエコシステムがどのように展開していくのか考察していきます。
1. なぜ「VCは死んだ」と語られているのか
1-1. IPO・M&Aの停滞による「出口なき」状況
VCの存立を左右する要素のひとつに「エグジット(Exit)」があります。具体的には、スタートアップがIPO(新規株式公開)するか、大企業にM&AされることでVCは投資利益を得ます。しかしここ数年は、政治的・経済的要因の影響でIPOがほとんど行われず、企業買収の動きも鈍化していました。
タスク氏は「ここ4年間、VCの世界はほとんど投資を回収できていない」と語ります。株式の二次取引(セカンダリー)も可能ではあるものの、買い手側が割安な価格を提示することが多く、高値でのリターンが期待できない。こうした“出口なし”の状態が長引いた結果、VC業界は流動性に欠け、投資家(LP)に返す利益も見込めず、機能不全に陥っているといえるのです。
1-2. ゼロ金利時代に急拡大した資金とその反動
もうひとつ大きな背景として、過去のゼロ金利政策下でVCファンドが急速に拡大した点が挙げられます。豊富な資金を抱えたVC同士が競合し、スタートアップの評価額が実力以上に釣り上がった局面もありました。特に2020年頃までは「業界全体が金余りで、お祭りのようだった」という声も聞かれます。
しかし、金利上昇とともに投資家のリスク許容度は急激に低下。IPOやM&Aが滞り、スタートアップへの投資額は減り、さらに価値を正しく評価されないままの企業が多数生まれた結果「本来の価値に戻る」ための調整局面を迎えています。
2. Tusk Venture Partners が描く新たなビジネスモデル
2-1. エクイティ・フォー・サービス(Equity for Service)への転換
タスク氏は「VCファンドを運営するより、自分の規制対応の専門性を提供し、その対価として株式を受け取る方が儲かるし、自分にとって本質的な価値がある」と判断し、Tusk Venture Partnersの4号ファンドを立ち上げることを取りやめました。
一般的なVCファンドの場合、投資家から預かった資金を元手にスタートアップに投資し、管理・運営コストは「管理報酬(マネジメントフィー)」でまかないます。そして成功報酬(キャリー)は、ファンド全体のパフォーマンスに連動する仕組みです。しかし、数百億円規模の巨大ファンドでもなければ管理報酬だけでは十分な利益を得にくいのが実態。さらにはIPOやM&Aによるリターンが得られなければ、キャリー収入も見込めません。
一方でエクイティ・フォー・サービスでは、タスク氏が「政治・規制のプロ」として培った経験を提供し、直接株式を受け取ります。ファンド投資と異なり、LPへの配分や管理報酬といった煩雑な仕組みを経ずに済むため、タスク氏自身もより大きなリターンを得られる可能性があるのです。
2-2. コンサルティング会社との住み分け
タスク氏は政治コンサルティング会社「Tusk Strategies」も運営していますが、こちらは通常のクライアント企業からキャッシュを受け取る形。月額数十万ドルという高額フィーは、巨大企業や潤沢な資金を持つ後期スタートアップ向けです。一方で、早期のスタートアップや十分なキャッシュを持たない企業には、エクイティのみを得る形で規制対応やロビー活動などを支援する、という棲み分けを行っています。
3. 規制を味方にするための戦略
3-1. タクシー業界と戦ったUberの事例
タスク氏が最初に大きく名を上げたのはUberの合法化支援です。彼がまだコンサルティング会社を立ち上げて1年程度の頃、当時は無名だった小さな交通系スタートアップを手伝い、報酬として受け取ったのがUberの株式でした。いわゆるライドシェアの合法化に関する規制との闘いでは、州や市の政治家へ「Uberのある生活の便利さ」を市民が直接訴えるデジタルキャンペーンを展開し、タクシー業界の激しい抵抗を覆しました。
このように、スタートアップ企業が既存の業界をディスラプト(創造的破壊)しようとすると、必然的に政治や規制とぶつかる可能性が高くなります。どの市や州がライセンスを握り、どこに許可を願い出るべきか、場合によっては議員を動かすための陳情戦略を組み立てる必要があります。Uberはその代表例と言えるでしょう。
3-2. 規制当局との「交渉」か「突破」か
Uber型の「まず進出してから後で交渉(事後承諾)」を選ぶか、あるいは「免許や許認可を得てから進出」するかは、事業内容によって変わります。たとえば金融ライセンスが必要なフィンテック企業であれば、無許可営業すれば法的リスクが大きい。一方で、罰則が比較的小さい場合は、ある種“先駆的にサービスを始めてしまう”戦略も取り得るのです。この判断には深い政治的知見が必要であり、タスク氏のように各州の制度を熟知した専門家のサポートは大きなアドバンテージになります。
4. モバイル投票プロジェクトが切り開く未来
4-1. 投票率の低さがもたらす政治の極端化
タスク氏は、モバイル投票プロジェクトを推進する背景として「低い投票率が極端な政治を生んでいる」という問題意識を強く持っています。市議会選挙や州レベルの予備選挙などの投票率が10%にも満たない場合、意見が偏った有権者の声が過度に政治を左右し、既存の利権や特定団体が強い影響力を持ちやすくなります。その結果、広範な市民にメリットのある政策ではなく、既得権益を守るような立法が通りやすくなると指摘されています。
4-2. モバイル投票による投票率向上の試み
この課題を解決するために、タスク氏は自身の財団「Tusk Philanthropies」を通じて、オンライン投票のためのアプリ開発費用を自己資金で負担。すでにいくつかの州で、兵役中の軍人や障がい者を対象にモバイル投票システムをテスト稼働させ、投票率を大幅に向上させる実績を作っています。
技術的には、顔認証やエンドツーエンド暗号化などを用いたセキュリティを確保しつつ、選挙管理委員会がアプリを通じて投票用紙を送付する仕組みを想定。ソースコードをオープンにして第三者の監査を受けやすくするなど、セキュリティと透明性の両立をめざしています。しかし、モバイル投票が普及すれば選挙結果が大きく変わる可能性もあり、既存の権力構造を揺るがす点から強い抵抗も予想されます。
5. これからの起業家へのアドバイス
5-1. 規制と政治に無関心ではいられない
タスク氏は「どんな消費者向けサービスであれ、何らかの規制は避けられない」と断言します。例えばヘルスケアやフィンテック、教育、交通、ゲーム、エネルギーなどはほぼ必ず州や自治体の管轄が及びます。企業がスムーズに成長するには、サービス設計の初期段階から法制度を理解し、適切な助言を得る必要があります。
5-2. 資金獲得だけに頼らない戦略を
VC投資が伸び悩む時代には、いかに資金を集めるかだけでなく、どのように効率的に事業を拡大し、実際に収益を上げるかが重要です。タスク氏の例では、政治支援と事業支援をセットで提供する新たなサービスモデルを生み出すことで、投資ファンドという形態に依存しないキャッシュフローを確保しています。起業家も「VCからの出資=成功」ではなく、複数の資金調達ルートや事業戦略を常に検討すべきでしょう。
5-3. 新しい視点で社会課題をとらえる
モバイル投票プロジェクトに見るように、技術と政治の交差領域には大きなビジネスチャンスが潜んでいます。一方で、法制度・利害関係者との折衝・社会的インパクトに対する責任意識など、求められる要素も多岐にわたります。既存の枠にとらわれず、社会全体が抱える課題を見つめてソリューションを提示する姿勢が、次世代のイノベーションを担うカギとなるはずです。
ブラッドリー・タスク氏の言う「VCの死」は、単なる悲観論や大げさな表現ではなく、数年来続くIPO・M&Aの減退による実質的な資金回収の停滞を指し示しています。多額の管理報酬を得られる超巨大ファンドを除けば、VCは出口のない時代に突入しており、これまでと同じモデルでは立ち行かなくなりつつあるのです。
その一方で、タスク氏が進めるエクイティ・フォー・サービスやモバイル投票プロジェクトなど、新しい手法を取り入れた取り組みは、スタートアップ業界と政治・社会システムのあり方に変革をもたらし得る重要な実験となっています。起業家や投資家は、この変化の波を「脅威」ではなく「進化のタイミング」と捉えることで、より持続可能で社会的インパクトの大きい事業モデルを模索できるでしょう。
今後、政治や規制との連携を戦略的に行いながら、テクノロジーによってどのようにイノベーションを加速し、社会課題を解決していくか。その答えは、タスク氏の言う「VCは死んだ」の先にある、新たなスタートアップエコシステムの可能性にかかっています。
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