AI相場の次の勝ち筋が見える――「SaaS終焉論」と中国AI覇権を投資家目線で読み解く
AIが市場の中心テーマになって以降、投資家の間では二つの極端な見方が広がっています。
一つは、「SaaSはAIで壊滅する」という終末論。もう一つは、「AIの勝者は米国企業に決まっている」という思い込みです。
今回の対談でLead Edge CapitalのMitchell Greenは、その両方にかなり強く異議を唱えました。
彼の主張は明快です。SaaS終焉論は行き過ぎであり、中国を過小評価すべきではない。 そのうえで、いま本当に問われているのは「どの企業がAI時代に消えるか」ではなく、どの企業が分配・データ・資本力を使ってAIを取り込み、さらに強くなるかだという視点です。
1. 「SaaS Apocalypse」は本当に起きるのか
Mitchell Greenは、かなりはっきりと、「私たちはいまソフトウェア株を買っている」と述べています。具体的には、Procore、Workday、Appian、Toastなどの名前を挙げ、既存SaaSが一気に無価値化するという見方を否定しました。
彼の論点はシンプルです。
既存プレイヤーには、“分配” “顧客データ” “バランスシート”がある。
この3つを持つ企業は、AIによってむしろ競争力を高められる可能性がある、というわけです。
とくに印象的だったのは、「メインフレーム市場ですら今なお巨大だ」という指摘です。Oracle、Microsoft、SAPのような“古い”と見なされがちな企業も、実際には依然として中核システムを握っています。
つまり、技術革新が起きても、既存企業が即消えるわけではない。むしろ、深く埋め込まれたソフトウェアほど残存力が高いという見方です。
2. それでも勝ち負けは分かれる――鍵は「粗い成長率」ではない
では、どんなSaaS企業でも安心なのか。
Mitchellの答えは「ノー」です。彼は、全部のSaaS会社を守るつもりはないとも明言しています。
ここで彼が最重要指標として挙げたのが、Gross Dollar Retention(売上総維持率)です。
「2024年末にあった売上が、アップセルを除いて翌年どれだけ残るか」という、極めて地味ですが本質的な指標です。
彼の基準はかなり明確です。
90%が良い、95%が素晴らしい、98%は驚異的。80%未満は触らない。
なぜここが重要か。
理由は、AI時代に弱い会社ほど、営業・マーケ費を大量投入しないと“バケツの穴”を埋められないからです。逆に維持率が高い会社は、同じ人員でも効率よく成長できる。
つまり、AIで問われるのは「派手なエージェント機能があるか」より、顧客が本当に離れないかなのです。
3. AIはソフトウェアを殺すのではなく、生産性を押し上げる
Mitchell Greenは、AIのインパクトをかなり強気に見ています。
ただし、その効果を「既存ソフトウェアの破壊」だけに限定していません。むしろ、AIはソフトウェア企業のR&Dだけでなく、営業・サポート・オペレーションまで広く改善すると見ています。
彼が例に出した医療ソフト企業では、AI導入によって既存人員を削るのではなく、同じ人数でより多くの仕事を回せるようになると説明しました。
この視点は重要です。市場では「AI=人員削減=既存企業に逆風」と見られがちですが、現実には、AIは既存企業のコスト構造と生産性を改善する追い風にもなり得るからです。
このため彼は、ソフトウェア株の急落を「本質価値の崩壊」というより、期待の修正と過剰反応として捉えています。
4. 中国を過小評価するな――ByteDanceこそ世界最先端AI企業という見方
この対談の中でもっとも刺激的だったのは、Mitchellが「ByteDanceは世界で最も進んだAI企業だ」と断言した場面でしょう。
西側の投資家は、OpenAI、Anthropic、Google、Metaばかりに目を向けがちです。ですが彼は、中国、とくにByteDanceのAI活用と投資規模は、西側で著しく過小評価されていると見ています。
なぜ中国が強いのか。彼のロジックは次の3点です。
第一に、電力・インフラの制約が小さいこと。
第二に、科学技術人材の厚み。
第三に、中国企業の逆算思考と低コスト実装力。
彼は、米国は今後データセンター建設に伴う地域反発や電力問題に直面すると見ています。一方、中国は国家レベルでインフラを押し進めやすい。
その意味で、AI競争はモデル性能だけでなく、発電・規制・建設スピードまで含む総力戦だという認識です。
5. では投資家はどう動くべきか
Mitchellのスタンスは、短期の底打ち当てではありません。
彼はむしろ、「底は誰にもわからない。だから良い企業を下落局面で少しずつ買うべきだ」と語っています。
同時に、スタートアップ投資についてもかなり冷静です。
「ナプキン1枚のアイデアに10億〜20億ドル valuation が付く世界は狂っている」と厳しく述べ、価格 discipline のないVCは多すぎると断じています。
ここで印象的だったのが、“Buying is glamorous. Selling is the job.”という言葉です。
買うのは楽しい。しかし、実際の仕事は売ること。
DPIは数学であり、評価額は意見にすぎない。
この感覚は、AIブームで“上がる夢”ばかりが語られる今、非常に重要です。
6. 結論――AI時代は「総崩れ」ではなく「選別」の時代
今回の議論を一言でまとめるなら、AI時代はSaaSの全面崩壊ではなく、SaaSの大選別です。
消える企業はある。
ただし、消えるのは主に、維持率が低く、負債が重く、AI投資を進める余力がない企業です。
逆に、分配力とデータとキャッシュを持つ企業は、AIを取り込んでさらに強くなる可能性が高い。
そして、もう一つ、投資家が見落としやすいのは、AI戦争は米国の独壇場ではないという点です。
ByteDanceを筆頭に、中国は電力、実装、コスト、スピードの面で極めて強いポジションにあります。
「SaaSは終わるのか」「中国は勝つのか」
この問いに対して、Mitchell Greenの答えはかなり明確です。
終わる企業はある。だが、SaaS全体は終わらない。
そして中国を侮る投資家は、大きな機会を見落とす。
AI相場の本質は、過熱した物語に乗ることではなく、
どの企業がAIを“使われる側”ではなく“使いこなす側”に回れるかを見極めることにあります。

