AIで組織の階層を消滅させる——ジャック・ドーシーが提唱する「ヒエラルキーから知能へ」の転換がもたらす圧倒的スピード
TwitterとBlock、2つのS&P500企業を創り上げたジャック・ドーシー(Jack Dorsey)氏は、いま自身の経営するBlockにおいて、歴史上最も過激な組織実験を行っています。その根幹にあるのが、マニフェスト「From Hierarchy to Intelligence(階層から知能へ)」です。
本記事では、ドーシー氏がなぜ40%もの人員を削減したのか、そしてAIを中央に配した「新しい組織のOS」とは何なのかを、ビジネスリーダーと投資家の視点で解き明かします。
1. 2,000年続いた「ヒエラルキー」という情報のボトルネック
ドーシー氏は、従来の組織構造を第一原理(First Principles)から問い直しました。そもそも、なぜ「階層」は存在するのでしょうか。
1-1. 管理職は「情報の伝達係」に過ぎなかった
これまでの組織における階層の役割は、情報の流れを管理することでした。しかし、人間を介した伝言ゲームは、階層が深くなるほど情報が欠落し、意思決定の速度を著しく低下させます。
「Blockは、現在、リモートファーストです。Slack、GitHub、ドキュメント、録画された会議……あらゆる活動がデジタルの『アーティファクト(痕跡)』として残ります。これらの情報の断片の上に知能(AI)を載せれば、人間が情報を中継する必要はなくなるのです」
1-2. 会社を一つの「ミニAGI」にする
ドーシー氏は、会社そのものを一つの「人工汎用知能(AGI)」として扱おうとしています。すべての社員、取締役、そしてアナリストまでもが、その「組織の知能」に対してリアルタイムでクエリ(質問)を投げ、状況を把握できる。そんな「完全に可読性の高い(Legible)組織」こそが、彼が描く未来図です。
2. Blockが定義する「AI時代の3つの役割」
階層を解体した後の組織では、人間は何をすべきなのでしょうか。Blockでは、職種を以下の3つのシンプルな役割に集約しようとしています。
IC(個人貢献者:Builder/Operator) 実際にツールやAIエージェントを駆使して「作る」人々。AIによって拡張された一人の人間が、かつての10人分の働きをこなします。ここで求められるのは、AIには代替できない「判断力、テイスト(センス)、創造性」です。
DRI(直接責任者:Directly Responsible Individual) 顧客の成果と戦略に全責任を持つ役割。プロジェクトを完遂させるためのチームをICで編成します。求められるスキルは、純粋な「オーナーシップと説明責任」です。
プレイヤー・コーチ(Player-Coach) 部下に指示を出すのではなく、自らも手を動かしながら「背中を見せて教える」人々。ヒエラルキーとしての「上司」ではなく、技術や工芸(クラフト)の向上に責任を持つメンターです。
「リーダーシップチームは、この3つの役割すべてをこなすことが期待されます。自らビルドし、戦略を立て、周囲をコーチする。それが現代のCEOのあるべき姿です」
3. 「ドーシー・モード」:意思決定のサークル型への転換
従来の組織は「マネジャー・モード(ピラミッド型)」であり、VP(副社長)クラスが情報のハブとなって意思決定を行ってきました。これに対し、ドーシー氏が実践しているのは、AIを中心とした「サークル型」の運営です。
3-1. 顧客がロードマップを創る
従来の製品ロードマップは、経営陣の仮説に基づいていました。しかし、顧客とのコミュニケーションがAIインターフェースを通じて行われるようになると、顧客が投げかけるクエリそのものが、次に作るべき機能(ロードマップ)を浮き彫りにします。
3-2. 「お金」という最も正直なシグナル
特にBlockが強みを持つ金融領域において、お金の動きは「最も正直なシグナル」です。AIがこのシグナルを先読み(Proactive Intelligence)し、顧客に「家賃を払うためのキャッシュフローが足りません」とプロンプトを送る。この深い文脈理解こそが、巨大な競合(Frontier Labs)に対する防衛線(Moat)となります。
4. 40%削減の舞台裏:integrity(誠実さ)のための大胆さ
40%の人員削減をわずか3週間で決定・実行した背景には、冷徹な論理と、人間への配慮が共存していました。
4-1. 2025年12月の「バイナリ・チェンジ」
プロトタイプの作成だけでなく、既存の複雑なコードベースまでをAIが理解できるようになった2025年12月、ドーシー氏は確信しました。 「もし今日、最新のツールを持って会社をゼロから創るなら、今の規模や構造には絶対にならない。そう確信したとき、私たちは立ち止まるのではなく、未来を先取りすることを選びました」
4-2. 恐怖を乗り越える信念
ドーシー氏は、中途半端な削減(10%ずつのレイオフ)を「最も士気を下げる行為」として忌避しました。一気に、かつ寛大なパッケージを用意して実行する。それが、残る社員にとっても、去る社員にとっても、誠実な道であると考えたのです。
まとめ:あなたの組織は「コピーのコピー」になっていないか
ジャック・ドーシー氏がBlockで進める変革は、他のスタートアップにとっても大きな示唆を与えます。
「今のスタートアップの多くは、単なるコピーのコピーに過ぎない。自分自身の独自の視点、独自の『テイスト』はどこにあるのか?」
AIという強力なインプットを、いかに自分たちの「判断力」と組み合わせて、世界にまだ存在しない「アウトプット」へ昇華させるか。階層を捨て、知能を磨き続ける組織だけが、次の10年を生き残ることができるでしょう。
