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MicronとSK Hynixが1兆ドル企業へ——AIが変えるメモリ半導体の投資常識

AIインフラへの投資が加速するなか、長らく"景気敏感の代名詞"とされてきたメモリ半導体が、市場の見方を大きく変えつつある。2026年5月、MicronとSK Hynixはそれぞれ時価総額1兆ドルの大台に乗せた。その背景には、AI向け高帯域幅メモリ(HBM)への旺盛な需要がある。本稿では、ブルームバーグの報道をもとに、メモリ市場の現状と投資家が押さえておくべき論点を整理する。


1. HBMとは何か——AIインフラの"見えない主役"


1-1. GPUに直接組み込まれるメモリ

AIの学習・推論を支えるNVIDIAのGPUは、単体では機能しない。処理能力を引き出すには、GPU内部に直接積層される高帯域幅メモリ(HBM)が不可欠だ。ブルームバーグのアナリスト、エド・ラドロウは番組内でこう指摘した。

「GPU不足の原因は、NVIDIAが製造できないからではなく、それに対応するHBMの供給が追いついていないからだ」

この構造が、MicronとSK Hynixという2社の交渉力を大きく高めている。

1-2. 需要の規模感

ブルームバーグのライアン・ブラステリカ氏によると、Micronの直近四半期の売上高は前年比で約3倍に達し、これは1990年代以来最速のペースだという。SK HynixとMicronはともに、年初来で200%超の株価上昇を記録した。5月単月でもMicronは70%超上昇しており、これは1987年12月以来最大の月間上昇率にあたる。

2. バリュエーションの"謎"——割安なのか、警戒サインなのか


2-1. PER10倍以下の意味

これだけの成長を遂げているMicronだが、足元の予想PERは10倍を下回る水準にある。通常、高成長企業には高いバリュエーションがつく。にもかかわらず低いのはなぜか。

ブラステリカ氏はその背景を次のように説明する。「メモリは歴史的に景気循環の影響を受けやすく、低いPERはピーク利益を織り込んでいる可能性がある」と。つまり市場は、現在の高収益が持続しないリスクを織り込んでいる可能性がある。

2-2. UBSはなぜ目標株価を約3倍に引き上げたか

UBSは最近のレポートで、Micronに対する目標株価を大幅に引き上げ、会社の評価額として1.8兆ドルを示した。その根拠は、評価倍率の見直しにある。

従来UBSはMicronに対して予想EPSの5倍程度を適正倍率と見ていたが、今回は15倍に引き上げた。これはNVIDIA並みの評価を与えるべきという判断だ。AI需要の構造的な持続性を踏まえれば、メモリはもはや単純なコモディティではないという見方が、機関投資家の間で広がりつつある。

2-3. 「新パラダイム」論への慎重な目線

一方で、ラファー・テングラー・インベストメンツのCIO、ナンシー・テングラー氏は冷静な見方を示す。

「8週間続いた上昇の後、過去のデータでは1年後の株価が約12%高い傾向がある。だが、ここで得た利益を一部確定し、機動的に動けるポジションを保つことが重要だ」

大きな上昇の後には調整が来る可能性があることを認識しつつ、長期的な強気姿勢は維持するというスタンスだ。

3. 供給構造——なぜ3社しか残っていないのか


3-1. 参入障壁の高さ

ブルームバーグの半導体担当記者、イアン・キング氏はこう解説する。「HBM市場に主要プレイヤーが3社(Micron、SK Hynix、Samsung)しかいない理由は、参入障壁が極めて高いからだ。この分野では長年にわたって多くの企業が撤退を余儀なくされてきた」

莫大な設備投資と高度な製造技術が求められるため、新規参入は事実上困難な状況にある。

3-2. ボトルネックは2027年まで続く可能性

アナリストの間では、HBMの供給不足は少なくとも2027年まで続くとの見方が広がっている。需要側では、NVIDIAをはじめとするAI半導体メーカーの生産増が続いており、それに見合うHBMの供給増には時間がかかるためだ。

4. 地政学リスク——チップ密輸問題と輸出規制


4-1. 台湾検察が摘発した「日本経由」の密輸ルート

AIブームの裏側では、輸出規制の抜け穴を巡る問題も浮上している。台湾の検察当局は、NVIDIAのAIチップを日本経由で中国に密輸しようとした3人の個人を摘発した。

報道によると、最終仕向地を日本とする虚偽の書類が作成されており、当局は出荷前にサーバー約50台を押収した。ただし、少なくとも1件の出荷は実際に届いてしまったとされる。

4-2. 日本が新たな経由地に

これまでの密輸事案では、タイやシンガポールなど東南アジア経由のケースが多かった。今回、日本が関与したことは新たな展開だ。ブルームバーグのマイク・シェパード記者は「日本は中国企業がデータセンターを通じて合法的にAI計算リソースをレンタルできる国として知られており、これが別の抜け穴になりうる」と指摘する。

NVIDIAのCEO、ジェンスン・ファン氏はこの問題に関連してSuper Micro Computerに対し、コンプライアンスと顧客管理を強化する必要があると異例のコメントを出した。ただし、NVIDIAもSuper Microも不正行為に問われているわけではない。

5. AI関連投資の広がり——Cognition AIと「AIソフトウェアエンジニア」


5-1. デービンが示すAIエージェントの実用化

メモリ半導体だけがAIブームの恩恵を受けているわけではない。AIコーディングエージェント「Devin(デービン)」を開発するCognition AIは、企業評価額260億ドルで10億ドル超の資金調達を発表した。

CEOのスコット・ウー氏によると、同社の収益ランレートは現在約5億ドルに達しており、2年前の創業時から急成長を遂げている。「今年中に年換算売上高10億ドルを突破することを目標にしている」と語る。

5-2. ソフトウェアエンジニアの仕事はどう変わるか

AIエージェントが普及することでソフトウェアエンジニアの仕事は消えるのか——この問いに対し、ウー氏は「むしろ増える」と答える。

「25年前、ソフトウェアエンジニアは世界で100万人以下だった。今は3500万人いる。AIで生産性が上がれば、作られるソフトウェアの量が増え、エンジニアの総数も増えていくはずだ」

Cognition AIの社内では、コードの90%以上がDevin自身によって書かれているという。

6. 今後の注目点——投資家が見るべき変数


6-1. FRBの動向と地政学リスク

テングラー氏は、足元の株式市場に対して次のような見方を示す。「次の注目点はFRBだ。利下げ期待が後退すれば、相場の重しになる。また、ホルムズ海峡の状況次第でエネルギー市場と投資家心理が動く可能性がある」

6-2. SaaSへの逆風とSalesforce決算

AI普及がSaaS型ビジネスモデルの代替を促すという「SaaS終焉論」も議論されている。Salesforce、ServiceNow、Adobeなどが注目されており、AIエージェントを活用したAgent Forceが収益に貢献しているかが問われている。

「技術そのものは機能している。問題は大企業での実装に時間がかかることだ」(ブルームバーグ、ブロディ・フォード記者)

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