2026.08.11 注目の海外スタートアップの資金調達4選
今週も、AIエージェント、防衛ドローン、バイオ医薬の各分野で大型の資金調達が相次ぎました。特に注目すべきは、設立わずか2ヶ月のAIスタートアップが11億ドルという規模の資金を確保した事例です。ビジネスマン・投資家にとって、AIブームの資金がどの領域に、どのような期待とともに流れ込んでいるかを俯瞰する好機となりそうです。
1. River AI ― 設立2ヶ月で11億ドル、「自分専用のAIエージェント」構想
最も注目を集めたのは、xAIの共同創業者であるIgor Babuschkin氏が立ち上げたAIスタートアップ「River AI」です。同社は、General CatalystとAMP PBC(元Andreessen Horowitzのゼネラルパートナーで、Black Forest Labs、Mistral AI、LMArena、OpenRouterなどへの出資歴を持つAnjney Midha氏が2026年に設立したAI専業投資会社)が主導するシード/シリーズAラウンドで、Nvidia、AMD Ventures、Y Combinator、Temasekも参加する形で11億ドルを調達しました。
River AIは、6月にステルスを解除したばかりで、DeepMindとOpenAIでAI関連の職務を経験してきたBabuschkin氏が、AIを「一から再構築する」という野心的な構想を掲げています。同氏は立ち上げ時のブログで、他のAI企業が「人間の労働者の代替」という方向に進んでいるのに対し、River AIはモデルの訓練方法そのものから見直し、エージェントを「個人が自分で訓練できるアシスタント」に変えることを目指すと説明しています。同氏は将来のAIエージェントについて、必要な時に呼び出すアシスタントというより、「静かに寄り添い、あなたの側に立ち、本当に大切なことを助けてくれる守護天使のような存在」になるとの構想を描いています。
同社は、既に、100万トークン単位で課金されるAPIを提供しており、開発者が強化学習(RL)や低ランク適応(LoRA)によるファインチューニングをオープンモデルに対して行えるようにしています。同社は、この製品を「プロンプトエンジニアリングへの解毒剤」と位置づけ、「プロンプトは自分が所有せず改善もできないモデルを操作するだけだが、Riverはオープンモデルを本当に自分だけのものへと訓練し、他のエンドポイントと同様に提供できるようにする」と説明しています。資金調達の発表では、「どの企業でも、インフラチームを必要とせずに15〜20分で複雑な強化学習の実行を完了でき、クローズドソースの代替手段と比べて2〜4倍のコスト削減が可能」だとしています。
2. Neros Technologies ― シリーズCで2.5億ドル調達、企業価値25億ドルに
前回取り上げた防衛ドローン企業Nerosは、正式な資金調達の詳細を発表しました。同社は、Sequoia CapitalとAmerican Strategic Technology Fund(ASTF)が共同主導するシリーズCラウンドで2億5,000万ドルを調達し、調達後の企業価値は25億ドルに達しています。このラウンドにはInterlagos、Valor Equity Partners、Allen & Company、Thiel Capital、Spark Capital、そしてFigma創業者のDylan Field氏も参加しています。
調達資金は、自律飛行機能(GPSが使えない環境での位置保持や終末誘導機能を含む)を搭載したFPVプラットフォーム「Archer AI」と、Shahed型ドローンを含むクラス2・3の無人機の脅威に対抗する迎撃ドローン「Bandit」の開発・量産を加速させるために投じられます。両製品とも「群制御(スウォーミング)」に必要なハードウェアと計算能力を備えつつ、同社の強みであるコスト効率を維持する設計になっているとされ、2026年末までに両製品を実戦部隊に配備する計画です。
同社CEOのSoren Monroe-Anderson氏は、今回の資金調達によって同社が「複数能力を持つドローンメーカー」へと進化すると説明し、年間100万機のドローン生産という使命自体は変わっていないものの、対応できるドローンの種類と任務の幅が拡大していると述べています。前回のシリーズB(11月)以降、中核事業が爆発的に成長したことを踏まえ、この追加資金によって戦闘員の手にシステムをより早く、かつ戦場で決定的な結果を出すために必要な規模で届けられるようになるとしています。
3. Epicrispr Biotechnologies ― シリーズCで9,000万ドル、世界初のエピジェネティック治療薬
臨床段階のバイオテクノロジー企業Epicrispr Biotechnologiesは、Octagon CapitalとJanus Henderson Investorsが共同主導する9,000万ドルのシリーズC資金調達(募集超過)を完了したと発表しました。このラウンドには、Fidelity Management & Research Company、Cormorant Asset Management、Duquesne Family Office、Sanofi Ventures、abrdn運用ファンド、Angelini Ventures、Readout Capitalなどが参加しています。
調達資金は、主力の臨床候補薬「EPI-321」の開発を進めるために投じられます。EPI-321は、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)を対象とした世界初のエピジェネティック治療薬として、現在ヒトを対象とした初期臨床試験が進行中です。進行中の試験では、良好な安全性プロファイルに加え、単回投与後に統計的に有意な除脂肪筋肉量の増加と、原因遺伝子DUX4の抑制と一致する生体マーカーの変化という、早期の疾患修飾効果を示す兆候が確認されているとされています。同社の独自技術基盤「GEMS(Gene Expression Modulation System)」は、DNA配列そのものを永続的に変えることなく、遺伝子発現を持続的に制御することを目指す技術です。
4. Infinimmune ― シリーズAで7,500万ドル、Regeneronも参加した抗体医薬開発
ヒトの免疫系から直接抗体医薬を開発するバイオテクノロジー企業Infinimmuneは、Regeneron VenturesとPlayground Globalが共同主導するシリーズAラウンドで7,500万ドルを調達したと発表しました。このラウンドには、RA Capital Management、Goldcrest Capital、Forge Life Science Partners、Godfrey Capitalなどが新規参加し、既存投資家のMerck Global Health Innovation Fund、Everbright Biofundなども参加しています。
同社は、アトピー性皮膚炎を対象とした2つの主力プログラム(IL-22を標的とする「IFX-101」とIL-13を標的とする「IFX-201」)を2027年に初のヒト対象試験に進める計画で、調達資金はこの臨床開発の加速と、独自の抗体発見プラットフォーム「Anthrobody」のさらなる展開に投じられます。同プラットフォームは、数百万個の単一メモリB細胞を数百種類の標的に対してスクリーニングし、天然の対構造を持つ完全ヒト型抗体を特定する技術で、AI言語モデル「GLIMPSE」が候補抗体の選定・最適化を支援しているとされています。同社は2026年3月にも、Merckとの間で最大約8億3,800万ドル規模(契約時払い・マイルストーン払いを含む)の抗体探索提携を締結しています。

