【AGI覇権の舞台裏】Google DeepMind CTOが明かす「Gemini 3」とプロダクト起点のAGI戦略
最新モデル「Gemini 3」のローンチを受けて、Google DeepMindのCTO兼GoogleのChief AI ArchitectであるKoray Kavukcuoglu氏が、自身のビジョンを「This is how we are going to build AGI(これがAGIの作り方だ)」と語った。本記事では、そのインタビュー内容を整理しつつ、Googleがどのような戦略で汎用人工知能(AGI)に向かっているのかを解説する。
ポイントは、「製品とユーザーと共に作るAGI」、ベンチマーク偏重からの脱却、ツール・コード・マルチモーダルの統合、そしてイノベーションを止めない組織づくりだ。
1. 「世界と共にAGIを作る」という発想
Kavukcuoglu氏は、AGI開発を「閉じた研究プロジェクト」ではなく、「世界との共同作業」として位置づけている。
「これはラボの中だけで進む純粋な研究ではなく、世界と一緒にAGIを共に構築している」
その中核にあるのが、製品を通じたユーザーとの接続だ。
Geminiアプリ
検索のAIモード(AI Overviews)
開発者向けのGoogle AI Studio
新たなエージェント型コーディングプラットフォーム「Anti-gravity」
これらは単なる「Geminiの利用窓口」ではなく、モデルの弱点や改善余地を直接学習するための“センサー”として設計されている。
Kavukcuoglu氏は、ユーザーの利用データやフィードバックから「どこでモデルがつまずいているのか」「何が本当に価値になっているのか」を把握し、それを次の改善サイクルに取り込むことこそが、AGIへの最短距離だと強調する。
2. ベンチマークは「出発点」であり、ゴールではない
2-1. ベンチマークの飽和と限界
インタビューでは、HLEやGPQA、RKGI2といった有名ベンチマークのスコアが急速に伸びている一方で、「ある種の飽和」に近づいていることにも触れられた。
「ベンチマークは、ある時点で“難しかった課題”を切り取ったものに過ぎない。技術が進めば、その指標はもはや『フロンティア』を定義しなくなる」
つまり、旧来のベンチマークだけを進歩の物差しにすることは危険だという認識だ。
2-2. 真の進歩は「実世界の価値」で測る
では、何を進歩の指標とすべきか。Kavukcuoglu氏はこう述べる。
「科学者、学生、弁護士、エンジニア、ライター…あらゆる人が現実のタスクに使い続け、その価値が広がっているかどうかこそが、本当の進歩だ」
ベンチマークはモデル開発をガイドする重要なコンパスではあるものの、最終的な評価軸は「実世界での利用価値」であり、その把握のためにもプロダクトとの緊密な連携が不可欠だと位置づけられている。
3. Gemini3が注力する4つの能力領域
3-1. インストラクションフォローと多言語対応
1つ目の重点領域は、指示追従能力(インストラクションフォロー)だ。
ユーザーの指示を正確に理解し、「モデルの都合」ではなく「ユーザーの意図」に沿って応答することは、すべてのユースケースの土台となる。
さらに、Googleらしい強みとして、多言語対応の改善が挙げられた。
「これまで弱かった言語でも、3.0 Proでは大きく改善したと言われている」
グローバル企業として、「英語以外のユーザーからのシグナルを拾えること」自体が、次の改善サイクルの燃料になるという発想だ。
3-2. ツール・ファンクションコール・エージェント・コード
2つ目の重点領域は、ツール利用とコード生成、エージェント的な行動である。
外部ツールやAPIを自律的に呼び出す「ツールコール/ファンクションコール」
アプリやワークフローを自動構築するためのコード生成
一連のタスクを分解・実行するエージェント的挙動
Kavukcuoglu氏は、こうした機能を「知能の乗数(マルチプライヤー)」だと表現する。
象徴的なのが、いわゆる「vibe coding(バイブ・コーディング)」の例だ。アイデアを自然言語で書き下すだけでアプリが立ち上がる、その瞬間に**「クリエイティブな人」が「ビルダー」に変わる**。
「たくさんの人が創造性を持っているが、コードが書けない。そこに生産性を与え、より多くの人を“作る側”に連れてくることが重要だ」
Gemini 3の開発では、こうしたツール・コード・エージェント機能を「実運用の中で磨き続ける」ことが、次の6か月で最も大きな伸びしろだと認識されている。
4. Nano Banana Proと「ジェネレーティブメディア」の復権
インタビュー後半では、画像・動画などのジェネレーティブメディアへの取り組みも語られた。
DeepMindは、10年以上前から生成画像モデルを研究してきた歴史があり、現在の「Nano Banana Pro」は、その系譜とGemini 3 Proのテキスト能力の統合によって生まれたモデルだ。
特徴的なのは、テキスト+巨大ドキュメント+画像生成を一気通貫で扱える点である。
大量の資料を読み込ませる
「この内容を1枚のインフォグラフィックで説明して」と指示
モデルが要点を抽象化し、1枚のビジュアルに落とし込む
これは「テキストモデルが持つ世界理解」と「画像モデルが持つ物理・視覚理解」が融合した結果だとされる。
「膨大なテキストや複雑な概念が、1枚の図で直感的に説明される瞬間は、見ていて本当にワクワクする」
今後は、テキスト・コード・画像・音声といったモダリティのアーキテクチャがさらに収束し、「真に統合されたモデル」に近づいていくと示唆している。
5. 研究からエンジニアリングへ——イノベーションを止めない体制
5-1. 「イノベーションが枯れること」が最大のリスク
Kavukcuoglu氏は、Geminiの最大のリスクとして、「イノベーションの枯渇」を挙げる。
「レシピを発見して、あとはスケールと実行だけ、とはまったく思っていない」
AGIの実現は、依然として困難であり、アーキテクチャも手法も固定すべきではないという姿勢だ。
そのために、
Gemini本体の中でも新しい構造や学習手法を継続的に探索する
一方で、Geminiの“枠外”でも大胆な実験を行い、うまくいったものを取り込む
という「本流+周辺探索」の二重構造を重視している。
5-2. フルスタック企業としての「大規模協調」
もう一つの特徴は、Google全体を巻き込んだフルスタックな体制だ。
データセンター、チップ、ネットワーク、インフラ運用
モデル研究・実装
検索・クラウド・Androidなど巨大プロダクト群
これらが一体となって動くことで、「モデル設計とハードウェア設計が相互にフィードバックし合う」状態が作られている。Gemini 3のリリースには数千人規模が関わっており、従来の研究コミュニティの感覚からは想像しにくい規模だという。
また、安全性とセキュリティについても、「最後に付け足すのではなく、最初からエンジニアリングの一部として組み込む」ことを強調した。安全・セキュリティチームは、後工程の監査ではなく、ポストトレーニングやデータ設計そのものに組み込まれている。
6. 「追う側」から「リーダー集団」へ、そしてその先へ
Kavukcuoglu氏は、LLMブーム初期のGoogle DeepMindを「追う側だった」と率直に振り返る。
「私たちはフロンティアのAIラボだったが、LLMではキャッチアップが必要だった。だからこそ、広く探索することの重要性を痛感した」
Geminiプログラム開始から2年半、同氏は現在の状況を「リーダーシップグループにいる」と表現しつつも、「まだ“追いついたばかり”」と慎重に語る。
目標はあくまで「知能そのものを構築すること」であり、モデル名や一時的なベンチマークでの優劣は本質ではない。
結語:AGIへの道は「ユーザーとの共創」にある
今回のインタビューで浮かび上がったのは、次のようなAGIロードマップである。
ベンチマークだけに頼らず、実世界の利用価値で進歩を測る
製品とユーザーからのフィードバックをモデル改善の中心に置く
ツール・コード・マルチモーダル・エージェントを「知能の乗数」として磨き込む
スケールだけに依存せず、イノベーションと探索を止めない組織文化を維持する
Kavukcuoglu氏が繰り返し述べた「We are lucky to be living in this age(この時代に生きているのは幸運だ)」という言葉どおり、Gemini 3のローンチは、AGIへの長い旅の「一区切り」であり、同時に新たなスタート地点でもある。
